Side王女 ー 7
【スピカ・イゾルデ・ブリニア】
私は東堂麗華との約束を取り付けて、早々に解放された。
護衛の者立ちは慌てていてたが、東堂麗華と交渉を成功させたことを伝えると、皆納得した顔をしていたので問題ない。
「ミネルバ」
私は副官を務め、幼馴染みであるミネルバと二人きりで部屋の中に引きこもった。
「はっ」
「ついにこのときが来たのだ」
「任務達成と言うことでしょうか?」
「そうだ。これまで道化を演じてきた意味をやっと成したのだ」
自分でも奇行を演じてきた意味をやっと成したのだ。
「それではプロジェクトベータへ移行しても問題ありませんでしょうか?」
「ああ。そのために裏社会の者立ちの顔を把握していたのだからな。矢面に立てる者。裏で操る者。そして仲間へ引き込むこと忘れるなよ」
「はっ!」
ミネルバが退室した後で、私は一人の気持ちの整理をつける。
ここまで長かった。
日本に訪れた際、日本は無法地帯になりかけていた。
様々な国からやってきた者が目をギラギラとさせて【邪神様】を捕らえようとしていた。
「彼女が動く前に【邪神様】へ先に接触出来ること。本当に喜ばしいことだ」
どうしても一人の少女の存在が気がかりであったが、彼女が動く前に私は【邪神様】を見つけ出し先に手に入れる準備が整った。
「さて、食事をして準備を取りかかろうか」
私はスイートルームである自分の部屋から出たところで、一人の少女とすれ違う。
金髪の髪は緩くパーマがかかり、青い瞳は同性すら魅力する力を持つ完璧容姿の持ち主。
その身体が未熟であることを疑いたくなるほど美しく。
白いワンピースは彼女のために用意されたのではないかと思えるほどであった。
「クイーン!」
息を呑むのも忘れ、彼女が通り過ぎるのを待ってから息を吐きながら彼女の姓を発することが出来た。
世界を牛耳る大国のトップ。
誰もが彼女の機嫌を損なわないように行動する。
唯一無二の存在。
「すでに日本に入国していたのか……これはヤバい状況なのかも知れない」
もっとも警戒していた人物を目の当たりにして、私は息をすることも忘れてしまう。
「彼女が動くという情報は得て居たが、こんなにも早く来日出来る準備が整うとは、彼女が国が出ることはもっと先になると思っていた。ならば、今回は私とってファイナルチャンスになるかもしれないな」
クイーンの存在があろうと、私が得たチャンスを手放すことは無い。
私は完璧な準備をするため会場と衣装。
そして食事の準備をした。
そして……扉が叩かれる。
「ひゃい!」
【邪神様】がやってきたことに声が裏返ってしまう。
ここまで自分が緊張するなど考えてしなかった。
「失礼」
現われた【邪神様】は、まるで映像から出てきたのではないかと思うほどイメージ通りのお方であった。
不遜で傲慢、強靱な肉体と鋭い眼光。
その瞳に映し出された私は自分自身が王女であることも忘れて頭を垂れる。
「【邪神様】!!!」
本日の衣装がドレスでなければ、平伏してしまいたいほどだ。
私が頭を下げて、膝を折るとスリットから醜い生足が晒してしまう。
「待たせたか?」
「いえ、いえいえ。全然待っておりません!【邪神様】を待つのにこれほど嬉しい時間はありません」
【邪神様】が私を気に掛けてくださっている。
それがどれほど喜ばしいことなのかわからないほど嬉しい。
これまで女性の社会で力と知恵を絞って勝ち続けてきた。
しかし、男性を相手にするとこんなにも自分が脆く弱くなるなど考えてもいなかった。
「どうぞ、こちらへ」
私が用意したのは、【邪神様】に相応しい食事と夜景の見える部屋であった。
正面に座るなどおこがましい。
目の前に夜景が見えるようにテーブルを配置して、食事や飲み物を振る舞えるようにしている。
「となりに座らないのか?」
私は膝をついて、下僕として【邪神様】の後方に控えていたが、【邪神様】から隣へ座るように命を受ける。
「よろしいのですか?」
「君と話しに来たのだ。一人で座って食事をしても楽しくはないだろ?」
「はっ、必ず【邪神様】を楽しませましょう」
私は許しが出たこともあり、【邪神様】の隣へと腰を下ろす。
そこからの時間は夢のような時間であった。
好いたお方が隣にいると言うのが、こんなにも幸せであるなど私は味わったことがなかった。
これまでの私の人生は王女として……軍事国家として弱さを見せることが出来ない日々だった。
裏社会の悪や表舞台の化け物たちと渡り歩くために教育を成されてきた。
男性に何度か会ったことはあるが、どの男も軟弱か傲慢なだけで魅力の一つも兼ね備えていない者も多くいた。
強さを示した男は、私が殺気をぶつければ怯んで何もできなくなり。
美しさを示した男は、か弱さと愛嬌で私に取り入ろうとしたが、そもそも男なのに強くない者に興味はない。
傲慢に私を組み伏せようとしたバカは、女性を蔑んだ目をしていた。
そんなバカは返り討ちにして怯える始末。
この世の男へ絶望しかけたとき、強さと美しさ。
そして傲慢であることを許された存在が現われた。
もしも、実際にあった【邪神様】が最低な心を持つ人であるのなら、幻滅して終わっただけだろう。
だけど、本来の【邪神様】は……優しく……女性蔑むこともなく……穏やかで……冷静で……賢く……気高い人だった。
「【邪神様】いえ、黒瀬夜さん」
私は様々な手段を用意していた。
薬で眠らせる方法。
興奮剤や惚れ薬。
数名の女性を使って籠絡。
強引に誘拐や拷問をして従わせる。
だけど、その全てをしても私の気持ちは満たされない。
「なんだ?」
【邪神様】は一瞬戸惑った顔を見せる。
きっと私が真面目な顔をしていたからだ。
「好きです。お慕い申しております。
国がある手前、嫁ぐことは叶いません。
ですが、一夜の思い出を……どうか」
私はこれまで女であることを自覚して来なかった。
そんな強さと誇りしかない私が、一人の男性へ懇願して慈悲を求めた。
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