side王女 ー 1
【スピカ・イゾルデ・ブリニア】
異国の地を踏むのはこれが初めてのことだ。
日本、東洋に位置する島国は小さな国であり、我が国としても交流はあるが着たいと思うほどでもなかった。
だが、王国の王女として生を受けたからには有力な人物の子孫を残さなければならない。
すでに女王制度に移行して数十年が経とうとしている。
これからの王国のことを思えば、
強く
たくましく
健康的で
美しい
そんな男性を夫として迎える必要があるのだ。
「……それで?【邪神様】が何者なのか特定は出来たのか?」
私の呼びかけに対して黒服を来た者達が一斉に膝を折る。
「申し訳ございません。【邪神様】はこの国でもかなりの機密事項として最重要人物に定められているようなのです」
「それは仕方なかろうな。あれだけの男だ。世界でも五指に入る人物だろう。むざむざ他国へ情報を明け渡すほど国も愚かではなかろう」
「はい。日本は島国だったこともあり、他国に比べれば異文化交配が少なく男性減少はマシなようです。そのため一人の男性を特定することが難しくあるようです」
男性が豊富にいる国。
人口の四分の一から五分の一程度もいる国など……すでに奇跡と呼んでいいレベルである。
本来であれば100人に一人。ヒドイ国であれば1000人に一人の割合でしか男性が存在しない。
そのため男性が生まれたとなれば神の子として、国を挙げて守護するほどのレベルになりつつある。
「他の国からやってきた者達も、その情報は得ているのか?」
「はい。拉致を考える者達も出てきているそうです」
「バカな奴らだ。友好的に事を薦めなければ今後の輸出にも軋轢を生むというのに」
男性が多く生まれていると言うだけで、この国には価値がある。
私は王族という立場のため男性を見る機会があった。
だけど、王都に住む者ですら、男性を見たことがある機会は少ないだろう。
一生男性と接する機会が無い者も存在する。
「敵国の排除も出来るのだ。そういう輩を目にすれば率先して排除せよ」
「はっ!この国の上層部との関係を強め、こちらから協力を要請しておきます」
「ああ」
私は黒服たちに指示を出し終えると、自分の部屋として取ってあるスイートルームへ移動する。
部下に命令を出すために着ていたスーツを脱ぎ捨て、くつろげる服へと着替えを終えてベッドへとダイブする。
ここからは夕食まで誰も来ない。
「ふぅ~」
私はベッドの上にシーツを引いて、ヘッドフォンを装着する。
さらにVRを装着する。
高身長である自分の身体をベッドへ預ける。
スイッチを押してVRを起動する。
目の前に【邪神様】が椅子に座って邪神様ポーズを取っている。
音楽が流れ始めて、【邪神様】の視線が私を見る。
「(´Д`)ハゥ!!!ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ」
「好き!!!大好き!!!【邪神様】!!!あなたは私の神です!!!」
二曲目に代わって邪神様がマイクの前へと座る。
神々しい【邪神様】から、ラジオのパーソナリティのように歌い始める。
「ぐっうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう」
これは歌であって歌ではない!!!
【邪神様】が直接耳に向かって語り掛けてくる。
「今日は寝かせないから覚悟しろよ」
歌詞が私を締め付ける。
「メチャクチャにしてやるから、力を抜けよ」
もうダメ!!!!ダメなの!!!
こっこんな姿を誰にも見せられない!!!
見せたら私は終わる!!!
そっそれでもやめられない!!!
「ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ」
全ての曲が終わり……余韻と言う名の静寂を終わらせると……徐に私を全ての危機を取り除いて荒い息を吐き出す。
「ぐふっぐへへへっへへへへっへへへへへへへ。ダメ絶対!絶対【邪神様】に全てを捧げる。【邪神様】が望むなら王国を捧げてもいい。【邪神様】が住まうこの国は神聖国として国に帰ったら神格化させる」
【邪神様】を知ってから毎日の日課になった、もう私の身体は【邪神様】無しでは生きていけないほどに侵されてしまった。
「必ず、あなたの下へ参ります。【邪神様】」
私は街を見下ろしながら垂れ流していた涎を拭き取った。
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