第90話 《邪神様》誕生
緑埜姉弟に呼び出された俺は音楽スタジオへと入っていく。
スタジオの中には、二人以外にも。赤井隼人の姉である。
赤井絵美さんと見知らぬ二人の女性が待ち構えていた。
「お待たせしました」
スタジオにはタエと共にやってきた。
一応何かあったときのことを考えてのことだ。
タエさんはスタジオに入ると、俺の前に立ってボディーガードしてくれる。
「こちらこそお呼びだてしてしまいすみません。
ヨウヘーがさっそく録音をしたいということになりまして」
ヨウヘーは眠そうな顔をして、こちらに親指を立てる。
いい曲が出来たのか、その顔は誇らしげである。
「また、PVは曲のイメージを聞いて頂いて、赤井絵美さんにお願いすることになりました」
赤井さんが握手を求められた。
「またヨル君と仕事が出来ると思うと嬉しく思うわ」
「こちらこそまたお世話になります」
二人の挨拶が終わると、見知らぬ二人の紹介をしてくれる。
「私の妹たちにはコーラスと演奏の手伝いをしてもらうために、今回顔合わせで呼びました」
「緑埜花音です」
「緑埜詩音です」
ヨウヘーのお姉さんたちは二人とも凄く綺麗だった。
オトネさんやエミさん仕事が出来る系のお姉さんなら。
花音さんは世話好きなお母さんタイプ。
詩音さんはおっとりとしたヨウヘーを女性にしたような雰囲気の人だった。
「それじゃあさっそく曲を聞いてくれる。一応歌詞はヨウヘーと一緒に考えたのよ」
「はい。よろしくお願いいたします」
曲が流れ始めると、地の底から何かが這い出るようなズンとお腹へ響くバスドラムから音が響き女性たちの叫びのような声が放たれる。
イントロから心臓を掴むような音が広がっていく。
そこから重低音のボーカロイドによる低音ボイスが響いて、女性では絶対に出せないような男性声でゆっくりと歌い出す。
Aメロが終わる頃には音程が上がってきて、ずっと続くバスドラムが激しくなる。
「穢れなき魂 捧げろ我に」
つい、歌詞を見ながら歌を口ずさんでしまう。
「誰よりも高みへ!頂へ!!我を求めよ!!!」
うん。歌詞の意味はわからない。
だけど、凄くカッコイイ曲だ。
「ヨル。イメージ出来た?」
ヨウヘーから問いかけられて俺は頷き返す。
まだ歌詞を全て覚えたわけじゃないけど。
一度聞けばイメージは出来る。
あとはヨウヘーのイメージとすり合わせるだけだ。
「なら、スタジオに入って」
俺はヨウヘーが作った曲に声を吹き込んでいく。
「どうだ?」
歌い終わってヨウヘーに問いかける。
「やっぱりいい。ヨル。完璧」
一発でイメージはOKをもらって、細かな技術や表現をすり合わせていく。
一日が終わる頃には歌が形になった。
「お疲れ様」
何度か休憩を挟んで、打ち合わせや食事を済ませている間に、絵美さんはイメージが湧いたと言って退出していった。
「これで終わりか?」
「ああ、あとはこっちの仕事。それよりもヨルはPVガンバって」
「おう!今回は俺のためにありがとな」
「違う。俺がしたかっただけ」
「そういってくれると助かるよ。今度、セイヤたちと飯行こうな」
「うん。そんときは声かけて」
俺はヨウヘーに礼を述べてその日の収録を終えた。
後日、PV撮影のためにエミさんと時間を合わせて撮影スタジオに入ると、なんだかすごいセットが組まれていた。
「えっ?」
骨で作られた椅子が階段の上に置かれていて、全体に敵に黒をメインにしたスタジオ内。
「衣装はこれですか?」
「はい!今回の曲にピッタシです」
エミさんに渡された衣装は、背中に黒い羽根が六枚。
顔、腹筋、腕以外は黒い生地で肌が隠される。
「えっと」
「着方ですか?衣装さん」
「は~い」
それからは何やら凄かった。
初めてのメイクで、肌のくすみを無くして、カラコンで紫の瞳を強調したり……なんだか禍々しいセットとは対照的に幻想的な雰囲気が作り出されていく。
「さぁ!音楽かけて。ヨル君イメージ作って、演出の流れは伝えた通りよ」
事前に小回りと呼ばれる撮影の順番は伝えられていたけど。
こんな衣装を着るなんて聞かされてない。
「はいはい!時間が限られてるから急いで!」
急かされる形で、撮影が始まり。
不満はあったけど。
今回は絶対に成功させたい。
その一心で、エミさんの要望に応え続けた。
何やら、メイクさんや照明さんなど。
手伝ってくれているスタッフさんたちから度々悲鳴があがってるけど。
そんなこと気にしてられるか!
女性たちにキモイと思われても、俺は俺に求められたことをやり遂げるんだ!!!
「よし!以上よ!!!」
やっと終わりが告げられると、俺は精魂尽き果てていた。
「そうだ。ヨウヘー君から。歌手名も預かってきているわよ」
「歌手名?」
「ええ。あなたの芸名みたいなものでしょうね」
エミさんはあれだけ指示を飛ばして、全体を仕切っていたのに今でも元気そうでさすがはパワフルな女性であると思った。
とにかく疲れたので、帰りの車で芸名に目を通すことにして、ヨウヘーからの手紙を上げる。
「うん?」
「なんて芸名なんですか?」
運転しくれているタエの方が気になっているようだ。
「邪神様?」
「【邪神様】ですか!!!うわ~ミステリアスイケメンにピッタリだべ!!!」
タエは嬉しそうに喜んでいるが、俺は正直疲れたこともあり、より方が重くなった気がして……
「家に着くまで寝てもいい?」
「もちろんだよ。お疲れ様!」
タエの優しさに甘えて眠りについた。
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