sideシスターズ ー 2

《緑埜乙音》



 私は本日の予定を全てキャンセルして彼を待っている。



 呼び出された場所は、男性用の個室が完備されたカフェ。



 彼が予約を取ってくれたので入ることが出来た。


 普通ならば女性が入ることができないスペースに若干の優越感がある。




「お待たせしてすみません」




 現れた彼は数か月前に会った時よりも雰囲気が大人びていて、一瞬別人ではないかと思うほどに落ち着きが増していた。




「いえ、私も今来たところです」


「それならよかった」


「改めて、あなたからお呼び出しを受けるとは思いませんでした」




 目の前に現れた少年?黒瀬夜君は弟の同級生だ。

 私がプロデュースをした男子応援団の団長を務めている男の子。



 彼のお陰でヨウヘーは音楽家としてデビューを果たして、楽しそうな日々を送れている。



 私にとっては弟を表舞台に立たせてくれた恩人であり、出来ることならば私がプロデュースをしたいと思っている人物でもある。




「急なお呼び出しをしてしまいすみません。応じて頂きありがとうございます」




 彼の丁寧な口調は様になっていて、本当に弟と同い年なのかと疑いたくなる。


 何より、発せられる色気が増していて、直視していると私が変な気分になってしまう。




「いえ、ヨル君からならば首相との会談でもキャンセルしますよ!」


「それはダメでしょ」




 私の冗談にヨル君が笑ってくれる。


 あっ、これはヤバいわね。



 男性はヨウヘーが一番可愛いと思っていたけど。



 ヨル君は魔性というか、引き込まれる美しさがある。




「さっそくですが、本題に入りましょうか?」


「実は、この度お呼びしたのは僕個人のお願いのためなんです」


「個人的なお願いですか?」




 私の内心はドキッとしてしまう。


 もしかして、私の身体が目的?年下のイケメンに求められる……かなりいい。




「はい。僕には数名、彼女がいるのですが。その子たちがみんな凄くて」




 あら?期待していた話ではなくて、惚気かしら?




「僕も何かしなくちゃダメかなって思ったんです」


「ハァ?」




 何を言いたいのか理解できない。


 女性が働いて男性を養うのは、近年当たり前のことだ。


 むしろ、男性はせっせと働くのではなく。


 女性に愛嬌でも振りまいていてほしい。




「俺も……彼女たちに負けないように何かしたいと思っていたときに。ヨウヘーから歌でも歌ったら?と言われまして」




 ヨウヘーから?あの子が人に歌を進めるなんて珍しいわね。


 確かに体育祭のときのヨウヘーはヨル君と並んで演奏して楽しそうにしていたけれど。


 他人のことに無関心な子なのに、随分とヨル君のことは気に入っているようね。



「ヨウヘーが楽曲を提供してくれるそうなので。

 もう一度……僕に力をかしていただけませんか?」


「えっ?それはどういう力を?」


「歌でデビューをしたいと思います。

 あんまり人と話すのは苦手なので、タレントとかアイドルは無理だと思うんですけど。歌だけなら出来ると思うんです。

 その宣伝とプロデュースをお願いしたいと思います」



 私の聞き間違いではないだろうか?


 今、プロデュースをしてほしいと相手から言った。


 言ったよね?


 私は彼をプロデュースしてあげたい。


 彼は私にプロデュースをしてほしい。



 キターーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!



 これはキタわね!!!!



 成功のビクトリーロードしか見えないじゃない。



「ヨル君!」


「はい」



 私は前のめりになって彼の手を掴んだ。


 今の世なら、男性の手を許可なく握るなど犯罪行為だ。


 それでも私の身体は止まらない。




「私でいいのね?」


「ええ。オトネさんには一度お世話になっているので、俺も安心して任せられます」


「ありがとう!キスしたいぐらい嬉しいわ!」




 本当にキスを迫れば私は今すぐ警察沙汰になるが、嬉しい!!!




「ちなみにどんな風に売り出したいとかあるかしら?」



「別に何も考えてはいないのですが、ヨウヘーがイメージがあると言っていたので、キャラとかはヨウヘーに一任しようと思っています。

 俺自身は言われるがままで申し訳ないですが、そのキャラを一生懸命に演じようと思っています」




 ハァハァハァハァ………いいわ。




 大人の色気


 少年の無垢で物を知らない様子




 相反するギャップ!!!




「あっそれとヨウヘーがもし姉さんがしぶれば、これをしろって言われたことがあるんでやってもいいですか?」


「ヨウヘーが?渋っているわけではないけれど。興味があるわね」




 彼が立ち上がって、私の横にくる。




「恥ずかしいので、目を閉じて頂けますか?」


「ええ。わかったわ」




 いったい何をされるのか、私の方がドキドキしてしまう。




「行きますね」




 突然、彼の声が私の耳から脳へと侵入してくる。




 あっ!これはヤバい奴だ。




「オトネ姉さん。お願い……俺の願いを叶えてよ」




 女性と話していて、聞くことのない低く落ち着きを感じさせる声。


 それは耳をくすぐり、脳を溶かしてく。




「俺……凄い人になりたいんだ」




 夢というには漠然としている言葉……だけど、この声に抗える女性が……果たしているのだろうか?



 私には……無理だ。




「必ず!必ずあなたの夢を叶えてみせます!!!」




 私は背筋を伸ばして宣言する。



 これは私の使命だ。


 身命を賭して行わなければならない。




「ありがとうございます」




 最後に聞こえてきた彼のお礼を最後に彼が離れていった。



 名残惜しくも……これ以上は私の脳が耐えられない。



 こうして私は黒瀬夜のプロデュースをすることになった。

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