第88話 気持ち
道場から出た二人は、シャワーを浴びて制服に着替える。
先ほどの戦いはギリギリだった。
セイヤの動きは鋭くて、一つ一つをしっかり見て判断しないと弾けなかった。
最後はなりふり構わず攻めてきたので、思いっきり投げ飛ばして決着をつけた。
タエさんよりもリーチが長くて鋭い。
セイヤはやっぱり男なんだ。
力も、スピードも、戦闘を行うセンスも……女性よりも強かった。
女性にも人外的な強さを持つ者もいるかも知れないが、普通の女性では到達出来ない領域にセイヤは立っている。
「ハァ~やっぱりヨルには勝てなかったね」
「なんとかな。でも、セイヤが本格的に格闘技をやれば勝てないようになると思うぞ」
「はは、ありがと。だけど……僕は格闘技をやることはないかな?自衛のために鍛えておくぐらいはするかもだけど」
「まぁそうだな」
二人で食事が出来る場所を求めて、ホテルのレストランへと入っていく。
母さんと一度だけ来たことがある景色のいいレストランは、東堂家のカードを見せるだけですんなりと特等席へ通してくれる。
「なんだか凄く高そうなところだね」
「前にも言ったが値段は知らん。ただ、ここならセイヤの悩みを聞いても、誰にも盗み聞きされる心配はないしな」
「そっか……気を遣わせたね」
俺たちはおまかせで料理を頼んで腹ごしらえをする。
男性二人で、ガッツリめでお願いししますというと従業員さんは笑っていた。
野菜、スープ、魚、肉、ご飯、デザートとコース料理で運ばれる料理を食べながら、セイヤの話を聞くことにする。
「本当にヨルといるとあきないね」
「そうか?まぁ俺だって男友達と遊ぶのは楽しいって思うから、俺とセイヤは気が合うんだろうな」
「そうだね」
「それで?今、セイヤはどんなことで悩んでるんだ?俺で良ければ聞かせてくれよ」
「うん……はぁーうん。じゃあ言うけど笑うなよ」
「もちろん」
セイヤはしばし緊張して、言うことを躊躇う。
それはこれから言うことがセイヤにとって、とても重要なことなんだろう。
だからバカにするなんてありえない。
「僕ね……この間、アスカにキスされたんだ」
「ほう、まぁ彼女だから求めてくるよな」
貞操概念逆転世界なんだ。
俺がユウナに求められているように、セイヤも倉峰に求められたんだろうな。
「うん……昔も、暗いところに行きたがったり、エッチなことをしたがるところがあったから、いつかはって思ってはいたんだ……だけどね。いきなりされて……僕は……不快感を感じたんだ」
「不快感?」
倉峰は見た目はレイナと同じぐらい綺麗で、スタイルはランさんぐらいいい。
性格は残念なところはあるが、生徒会に入ってからはセイヤに好かれる努力をしているのも感じられる。
「うん。嫌ってほどでもないけど。なんで強引にってね。僕の許可も取らないで普通するかな?」
あれかな?女子が初めてのキスを彼氏に無理矢理されて、嬉しいよりも腹が立った的な?
「それで?お前はどうしたいんだ?」
「……ねぇ、ヨル。僕はどうすればいいと思う?」
「うん?どういうことだよ?」
「ヨル……僕ね……姉さんが好きなんだ」
「姉さんってヒカリさんか?」
「うん。僕が事故にあった後もずっと僕の心配をしてくれて、ずっと世話をしてくれた。もしも、女性で始めて僕を受け入れてくれるなら姉さんがいいんだ」
貞操概念逆転世界……もしも、俺が考える世界なら、家族に恋をする。
それは不思議なことじゃない。
俺は母さんを受け入れられなかったけど。
ツキを受け入れることは出来た。
セイヤにとっては、ヒカリさんがその相手だということだろう。
「倉峰のことは嫌いなのか?」
「ううん。嫌いってほどじゃないよ。でも、いきなりされるのは違うと思う。それにまだ仮だって言ったのに強引だし……嫌いじゃないけど。強引なところには戸惑うっていうか困るよ」
セイヤは、遅い思春期に来ているのかな?
女子との接し方がわからなくて、一番近くで優しくしてくれたヒカリさんに想いを寄せるのも分かる気がする。
「う~ん。なぁ、セイヤ」
「なに?」
「おっぱいは好きか?」
「はっ?」
俺はレイナのおっぱいを始めて見たとき、凄いと思った。
貞操概念逆転世界でもレイカ級のおっぱいは初めて見る。
美人でスタイルがよくて巨乳。
「急に何言っているんだよ!」
「う~ん。難しく考え過ぎてると思うんだよな。
確かに、女子の方が多くて男子の方が少ない。
それは事実で、女子を恐いと思う男子は多い。
だけど考えてみろよ。
女子って良い匂いがするだろ?
雰囲気も柔らかくて、一緒にいて幸せって思うだろ?
女子といることを楽しめば、それだけで幸せになれるんだよ。
結局さ……男には無いものを求めてると思うんだよ」
俺は貞操概念逆転世界であっても、男が求める物は変わっていないと思う。
「それがおっぱいが好きっことだと思うの?」
「ああ、だから聞く。セイヤはおっぱい嫌いか?」
「いや~嫌いとか好きとか考えたことすらないよ」
「俺は常々思ってたんだよ。
どうして、男の本能が失われたのかってな。
男は女が好き。
単純な話でさ。それでいいって俺は思うんだよ」
俺はデザートで食べきって容器を置いた手に力が入る。
「セイヤ!お姉さんを口説け!」
「えっ!急に何?」
「お姉さんに好きと伝えて、胸を見せてもらえ」
「告白するのは話の流れ的に分かるけど。どうして胸を見せてもらうのかわからないんだけど!」
「見せてもらえば分かる!」
レイカの水着に隠された胸を見た。
ランの水着に隠された胸を見た。
タエの柔道着が乱れた胸を見た。
テルミの胸を温泉で見た。
ユウナの胸を部屋で見た。
ツキの胸を風呂場で見た。
「男なら……それを求める!」
俺は熱量だけで話をした。
セイヤが呆れるかと思ったけど。
「あはははははははははははははははっっはははははっははははははは!!!!!!」
爆笑していた。
「ハァ~僕が悩んでたのが本当にバカらしくなるよ。なんだよ!真面目な顔で胸が好きかって。面白過ぎ。ハァ~ねぇ。もっと女の人のいいところ教えてよ」
「おう。それなら一晩中でも語れるぞ」
俺たちは食後の飲み物を飲みながら、楽しく語り合った。
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