第87話 汗を流して

 目が覚めるとそこには長いまつげに気持ち良さそうな寝息を立てる可愛い顔をしたユウナの顔がアップで映し出される。



 俺を離さないように腕に掴んだ手に力は込められていない。



 窓から見える景色で、まだ夜が明けていないことが分かる。



 汗をかいた身体が気持ち悪くて体を起こしてパジャマを羽織った。



 部屋を出ると家全体が静かで、シャワールームに入る音が大きく聞こえてしまう。



 火照った身体に少し温めのお湯が心地いい。



 シャワーを浴びていると、風呂場の扉が開かれる。



「ユウナ?」



「……兄さん」



 扉を開けたのはツキだった。



 ユウナが起きてやってきたのかと思えば、裸のツキが立っている。



 兄妹と言っても裸で向き合ったのは初めてのことだ。

 ツキの身体は、ユウナよりも一部が成長を遂げていて、レイナやランよりも美しかった。


 ただ、どこか幼さを残しているように感じる。




「……ユウ姉さんを最初の人に選んだのですね」




 風呂に入ってきたことに何かを言うわけでもなく。



 俺がユウナと過ごしたことを知っていることに言葉を失ってしまう。




「……どっどうして」




 やっと絞り出した問いかけにツキは首を振る。



「大きな声が出ていたわけではありませんよ。心配しないでください。

 ただ、私達彼女同士で、メッセージの交換を行っています。

 昨晩……ユウ姉さんから連絡が来ました」



 なら、ツキだけでなく。


 全員が、俺がユウナとしたことを知っていることになる……そう思うと……罪悪感だったり……他の子たちがどう思うのか不安に胸が締め付けられる。



「安心してください。みんな誰が一番なのか兄さんに決めてもらうつもりでしたから。誰も怒ってはいません。意外だったのは兄さんからの好感度が一番低いと思っていたユウ姉さんを選んだことぐらいです」



 淡々と語りながら、ツキは風呂場へと入ってきて俺とシャワーの間に身を挟み込む。

 シャワーで体を濡らして、最近伸びてきていた長い黒髪から水が滴る。



「兄さんが私を避けていることは分かっています」



「別に避けているわけじゃ」



「……怖いですか?兄妹で恋人関係になることは?」



 考えていた確信を突いてくる。



「戸惑いはある……母さんの裸を見ても家族という気持ちが強かった。

 付き合う話をしたとき……ツキに対して女性を感じたのも嘘じゃない。

 だけど……本当に妹と……出来るのかって思うと不安になる」



 俺は今まで考えないように避けていた言葉をツキに伝える。



 ツキは……何も言わずに俺に抱き着いてきた。



 柔からかな二つの膨らみが胸に辺り、女性として魅力的な体を押し付ける。




「どうですか?私は兄さんから見て魅力はありませんか?」



 いつからだろう?



 ツキが女性になったのは、きっとヨルが最初に恋をしたのはツキだ。


 他人と言う意味ではユウナやユイさんなのかもしれないけど。


 誰よりも近くにいて、ずっと側にいた女の子。


 俺になって、妹という認識に変わり、そして……貞操概念逆転世界でもっとも家族である男性を愛してくれる存在。



「柔らかいよ」



 その体はユウナとは違った柔らかさがあり、ユウナとは違う匂いがする。



 可愛い系のユウナとは違う。



 少し釣り目で意思の強い瞳は美人なツキの顔立ちに合っている。



 俺は細い顎を持ち上げて唇を重ねる。



「初めてですね……兄さんからキスしてくれたのは」



 いつもの意思を宿した瞳は潤んでいた。



 初めて見せるツキの心の揺らめき、俺はそのままツキの胸へと手を伸ばす。



 手の中に納まらない大きさは張りと弾力が強い。



「んん」



 声を押し殺したツキは、俺が胸に触れただけで気持ち良さそうな声を出す。



「痛かった?」


「いえ。くすぐったさと……ハァハァ気持ちよさが……」



 シャワーの音の間にツキの声が漏れて、俺はもう一度ツキとキスをする。



 俺は脳裏にユウナの顔が浮かんで、ツキと距離を取る。



「どうかしたました?」



「いや、するならここじゃないと思う。だから、今日はここまで。

 続きはちゃんとした雰囲気でしよう。代わりにツキの髪を洗わせてくれないか?」



「む~兄さんの意気地なし……私はここでもいいのに……ハァ~わかりました」




 お風呂の椅子にツキを座らせて髪を洗う。



 黒くて綺麗な髪を丁寧に洗ってシャワーで流していく。



 溜めていたお風呂に二人で浸かって、ツキが体を預けてくる。




「私はまっていていいのですか?」



 振り返ったツキの質問に、俺は頷いてキスをする。



 風呂の中でツキのお腹に手を回して、その肌を感じる。



「ああ。ためらいはなかった。むしろ、ツキがほしいと思ったよ」



 ツキがくすぐったそうにしている首筋にキスをする。



「安心しました。ふふ、くすぐったいです」




 それからツキとイチャイチャして汗を流して、互いに体を拭いて朝食を作り出した。



 窓から朝日が差し込んできてて、いつもよりも早い時間ではあったけど。



 二人の距離はずっと近くなったように感じる。

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