第84話 親友
ドタバタとした年末年始は、あっという間に過ぎていった。
自宅に帰ると、母さんが泣きながら抱きついてきた。
誘拐されて、無事に帰ってきたことを心から喜んでくれて、母さんが心から心配して涙を見せたのはこれが初めてのことだ。
「ヨル!どこもケガしてない?恐くなかった?トラウマは残ってない?」
母さんは身体の隅々を触り、撫で、見て、安心するまで何度も抱きついては泣いていた。
あの夏の旅行から、母さんは優しくなった。
親子として距離を保ちたいと言えば、必要以上にべたべたすることも、家に入り浸ることもなしないで、一定の距離を保ってくれている。
「うん。大丈夫だよ。セイ母さん。だから安心して」
「そうです。母さん。兄さんが誘拐ぐらいで負けるはずがありません」
「ツキ、あなたがついていながら!」
「母さん。ツキを攻めないで。本当に僕の油断だから」
しばし、ツキと母さんがにらみ合うような変な構図が出来たが、ツキを攻めるのは違うと思う。
「それよりも母さん。話さないといけないことがあるんだ」
俺は東堂家で起きたこと、そしてこれからのことを話した。
母さんは反対するかもしれない。
そのときは俺も考えを変えないといけないかもしれない。
「いいじゃない。ヨルには……それだけの価値がある。
強くて逞しい男になりなさい。多くの女性を幸せに出来る男に」
母さんは強い瞳で俺を見て優しく笑ってくれる。
母との歪な関係は終わりを告げたのかも知れない。
「ありがとう。母さん」
冬休みの終わりは、家族三人で過ごした。
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三学期が始まり、久しぶりに顔を合わせたクラスメイト達。
一年が終わりを告げようとしているので、どこか雰囲気が変わっていた。
一番気になったのは隣の席に座るセイヤだ。
「セイヤ、髪伸びたな」
白銀の髪は元々多くて長かった。
今は肩にかかるほど伸びて、一瞬ヒカリさんと見間違ってしまった。
「うん?そうかな?ヨルは……なんだか逞しくなった?」
「おっ分かるか?ちょっと色々あってな」
「そうなの?ヨルは相変わらずトラブルが尽きないね」
「そうなんだよ。話したいことがあるんだ。
久しぶりに放課後に一緒に帰らないか?たまには友人と遊びたいって思ってな」
これから女性中心の生活になるかもしれない。
それでも、この世界で出来た男の友人であるセイヤと話したい。
セイヤは中学時代に事故にあった。
俺は冬休み中に誘拐された。
今なら、セイヤの気持ちをもっと理解できるかもしれない。
「うん。大丈夫だよ。でもいいの?放課後は彼女さん達と過ごさなくても」
「まぁ色々あってな。最近は前よりも安全になったんだ」
「その色々を聞かせてくれるってことだね」
「おう」
「いいよ。行こ」
俺はレイナさんに渡されたブラックなカードを店側に見せて奥へと案内してもらう。
さすがに正月の誘拐以降は、自分でも警戒するようにしている。
彼女たちが警戒しなければ常に監視すると言われてしまえば従わないわけにはいかない。
「なんか凄いところだね」
一定の格式あるレストランには大抵VIPルームがあり、東堂家の家紋入りのブラックなカードを見せると優先的に通してくれるのだ。
男性優先の店よりもセキュリティーや機密への配慮が高いので、二人で話すのには気楽さがある。
何より費用を俺が出すことはない。
「だろ。俺も最初使ったときは驚いたけど。
母さんとツキがバンバン使ってしまえってうるさいんだよ」
「その辺の話も聞かせてよ」
俺はクリスマスから、正月にかけて旅行や誘拐、東堂家との繋がりまで話せる範囲でほとんどを話をした。
「凄すぎでしょ!」
「だな。自分でもドッキリって言われた方が驚かないな」
誘拐事件の際に俺を襲っていた五人の内、一人は青葉高校の生徒で同い年だと言う。
実は守ってくれていたと聞いた時は驚いた。
他の女子たちも全員年下で、年上に見えていたお姉さん系も……
「それで?女子から襲われて怖くなかったの?」
五人の女性に裸で襲われる……貞操概念逆転世界なら怖いと思うのが当たり前なのかもな。
「正直なことを言うぞ」
「うん!」
俺の言葉にセイヤは真面目な顔をする。
「半分恐怖と半分期待だった」
「半分恐怖と半分期待?その状況で期待?」
セイヤは信じられないと言った顔で驚いた顔をする。
「おっ俺だって始めのことだからな!恐怖はあるさ」
「初めてなの!彼女が七人もいて?」
「なんだよ。悪いかよ。
そうだよ。まだキスまでしかしたこと無いって……確かに抱き着いたり裸で迫られたりはあったけど。
いざ、そういう行為ってなると初めてだよ。そういうセイヤはどうなんだ?」
俺は照れ隠しでセイヤが彼女たちとどこまで進んだのか質問をしてみた。
もしも、俺よりも進んでいたらちょっとショックだ。
「う~ん。僕は……そういうのは向いてないかもね」
「うん?何かあったのか?」
「ああ。ちょっとね」
「おいおい、俺だけ話させたんだ。お前のも聞かせろよ」
セイヤはゆっくりと三人との関係について語り出した。
シイナさんとは、本を通して友人関係?が上手く成り立っている。
リンさんは、活動的なところが俺と似ていて面白い?
アスカさんとは……クリスマスの日にキスをされた。
「なんだよ。全員とそれなりに上手くやってるじゃないか」
「そう……だね」
「うん?何かあるのか?」
「ううん。まだ自分の中でも答えが出てないんだ」
「そうか、何か悩みがあるなら言えよ。俺たちは親友だからな」
俺はセイヤの肩を抱いて笑う。
身長こそ男子として170cmあるセイヤの肩は細くて、女子の肩を抱いているように良い匂いがするので、ちょっと戸惑う。
「はいはい。それよりもヨルタワーはいつできるの?」
「なっなんだよ!ヨルタワーって!?」
「だって、ヨルのために建てられるタワーマンションでしょ。
だから略してヨルタワー。住むところが無かったら僕もよろしく」
「いや、住むのはいいが、ヨルタワー……そんな名前にならないようにしよ」
「あははは」
やっぱり男同士で話をするのは楽しい。
久しぶりに過ごすセイヤとの時間はあっと言う間に過ぎていく。
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