第79話 観光は気を付けて
夕食の時間まで眠り続けたテルミは、ハルミさんに声をかけて看病してもらった。
次の日に顔を合わせるとテルミさんは恥ずかしそうだったけど。
元気な顔色をしていてたので安心できた。
鎌倉や江の島観光は、レイカさんが用意してくれた車と運転手さんの元で楽に移動することが出来た。
江ノ電で有名な踏切から見える景色はとても綺麗で、見たい景色だったので楽しかった。
「兄さん。江の島でお昼にしますか?」
「そうだね。江の島って何が有名なのかな?」
車の後部席はボックス席になっていて、正面に最上姉妹。左右にタエさんとツキが座っている。
「海鮮がやっぱり美味しいみたいですね。しらすが乗っているどんぶりが多いですね」
スマホを検索してくれるツキ。
タエさんは窓の外の景色を楽しんでいて、最上姉妹は昨日の出来事をコソコソと話しているようだ。
たまにテルミさんがこちらを見ては顔を赤くしている。
「少し江の島沿いを歩こうか」
「はい」
海の上を渡る橋の途中で込み合って止まっていたので、降りることにして島まで歩くことにした。
海沿いはサーフィンをしている人たちが見えて、観光客も多いようだ。
ただ、やっぱり男性はいなくて女性ばかりなのは男性減少の深刻的な問題なんだろうな。
タエさんが最後尾で警護に辺り、レイカさんが手配してくれたSPさんが前を歩く。
俺を守るようにツキが右に、テルミさんが左の手を取る。
「冬なのに、サーフィンって凄いね。寒そう」
実際、風は凄く冷たい。そして、海沿いの風は強い。
「もう、スカートなんて履いてくるんじゃなかったよ!」
後ろを歩くハルミさんからボヤキが聞こえてくる。
みんなタイツを履いているので、スカートと言っても恥じらいは感じられず、面倒そうな感じなだけだった。
大所帯ながらもお店側も心よく受け入れてくれて神奈川の食事は美味しかった。
「あっあの。しゃっ写真を撮っても大丈夫ですか?」
「えっ?写真?」
海鮮食堂に入った際に、店員の綺麗なお姉さんにそんなお願いをされる。
「えっと、芸能人とかじゃないですけど?」
「いいんです!!!お願いします!!!」
困った俺が皆を見れば、俺の判断に任せる態度を取られた。
「わかりました。いいですよ」
「ありがとうございます。それだけで今日の食事のお代は結構です」
「えっ?」
「こっこちらに座って頂けますか?」
そう言って座らされた椅子の周りに店員さんたちが集まってSPさんがシャッターを押してくれる。
「ありがとうございました!!!」
店員さんと写真を撮るだけで本当に食事代はタダになってしまった。
「本当にいいのかな?」
「むしろ、喜ばれると思いますよ」
「どういう意味?」
「兄さんが座った椅子。兄さんが来たことを証明できれば、SNSでアップしてお客さんが集まるので」
「どういうこと?」
ツキが説明してくれるけどイマイチ理解できない。
「兄さんは最近ニュースを見ていますか?」
「まぁそこそこ」
「昨年一昨年の出生率がかなり減っているんです。出生率が減っているところに男性が生まれる率は1パーセント程度。つまり100人に1人しか男性がいなくなるということです」
1/100 それは凄いな。
俺がこの世界に来た時にニュースを見た時は、1/15
高校に入るときには1/30だったのにますます悪化してるんだな。
「そんな貴重な男性が来たことがある店と言うだけで、あの店は宣伝効果があるんです」
「ふ~ん、そんなもんか?」
「よっヨル君は見た目もいいので、お店がされているSNSに乗せれば、凄い効果があると思うよ」
SNSやnewtubeを見るのが好きなテルミが言うならそうなんだろう。
「おいおい、こんなところに男がいるじゃん」
いきなり大きな声で声をかけてきたのは、ヤンチャな雰囲気を持つギャルの集団だった。数にして20人ほどにいつの間にか囲まれていた。
「姐さん。あたしが言ったこと本当だっただろ?」
「ああ、よくやった」
小柄な女性が先頭で声をかけてきた女性に頭を撫でられる。
「なんだ貴様らは?」
SPさんが前に立って対応してくれる。
テルミは怖いのか、俺の腕を掴み。
ツキはそっと服を掴んでいる。
タエさんは警戒するようにハルミさんを俺との間に入れる。
「へぇ~オバサン強いね。だけど、オバサンには用はねぇよ!」
先頭に立っていたギャルは、SPさんの服を掴むと仲間の下へと投げ飛ばす。
SPさんも警戒していたにも関わらず、それ以上の力で掴んだことが服の皺で伝わってくる。
「バァ~!」
ギャルが俺の前に来て顔を覗き込む。
ツキが前に出ようとしたが、手で制する。
「あはっ!へぇ~珍しい。男のくせにビビッてねぇじゃん。あたしは
「ヨルだ。黒瀬夜」
「ふ~ん。あんたみたいな男初めて見るよ。ねぇあたしらと遊ばない?」
左右に女性がいるのにも関わらず、ナンパしてくる彼女の態度は少しだけ頂けない。
彼女は俺がいうことを聞かなければ、他の女性たちを使って、俺の彼女に危害を加えると脅しているようなものだ。
何より、レイカさんが用意してくれたSPさんを傷つけた。
「ハァ~帰れ。お前に興味はない」
俺は彼女の出方を見ていたが、相手をする価値もないと歩き出す。
「おい!ちょっと待ちなよ!」
俺の肩を掴もうとしていたが、ツキがその手を掴んだ。
「兄さん、もういいですよね?」
「ああ」
ずっと我慢していたツキが希の腕を掴んで折ろうと力を加える。
「ぐっ!ちっ。てめぇ!何しやがる」
「何?私の大切な兄さんに汚い手を向けたからではありませんか。何も問題はありませんよ」
俺からは見えないが、ツキを見ていた希と数名の女子が若干引いた顔を見せる。
「お前ら!女共を抑えな!さらうよ!」
希の合図で女子たちが動き出すが、それは悪手でしかない。
「テルミ。大丈夫?」
「ヨル君。私も女です。こういうときは男を守るのが女の役目です」
先ほどまで腕を掴んでいた手は、俺を守るように広げられる。
「ありがとう。でも、ここは自分の身を守ってね」
俺はそう言うと迫ってきた女性たちを優しく投げ飛ばし、意識を刈り取っていく。
立ち上がってゾンビのように襲われるのは避けたいので、一人一人丁寧に動けないようにしていく。
「なっ!」
俺が五人ほどを相手にしている間にツキが希を抑え、タエさんとSPさんが残りを片付けてしまう。
「あなただけですが?まだやりますか?」
ツキは本気を出していないが、それでも希も弱くはない。
倒しきれていないのがその証拠だ。
「ちっ、割りに合わないね。お前らいくよ」
希の声で逃げるように立ち去るギャルたち。
「治安が悪いとは聞いていましたが、質が悪いですね。兄さん車で移動しましょう」
「そうだね。行こうか」
ちょっとした一悶着はあったけど。
景色や観光は楽しめたので、俺たちは年末を楽しめた。
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