第77話 年越しは温泉で
年末年始は箱根のホテルや旅館は賑わいを見せて予約ができないほどになる。
「レイカさんに感謝だな」
「そうね。さすがは東堂家」
レイカさんのお陰で俺たちは旅館の予約を行えた。
ビバ権力!ビバお金持ち!
普段なら恥ずかしくて言えないけど。
こういうときは本当にありがたい。
「これでランさんの応援が出来る!」
「そうね。ユウナ姉も来ればよかったのに」
「ユウナも同じ時期に大会があるみたいだから仕方ないさ。応援したら喜んで頑張ってくるって言ってたぞ」
ユウナはある意味で、貞操概念逆転世界に転生したら女子がしそうだと思ってたことをしてくる。
二人きりになるとエッチなことをしようとするし、隙あらばって感じなので、温泉旅行に来ていたら狙ってきそうな気がしていた。
内心で残念なような……安心したような不思議な感覚がするのはなぜだろうか。
「テルミさんは、ハルミさんと同室。
私はタエさんと同室で過ごします。
兄さんの部屋を挟んで両側にありますので、好きなときに来てください」
そう言って部屋から出て行こうとする。
ふと、ツキはどうなんだろうと考えてしまう。
「ねぇ、ツキ」
「なんです?」
「温泉一緒に入る?」
妹と温泉……う~ん、なんだか背徳的な気持ちがしてくる。
母さんには、親って気持ちが強くて家族でそんなことをしないって気持ちが勝ったのに……ツキには家族というよりも女性を感じてしまうのは、歳の近さがあるのかな?
「……兄さん。無自覚な誘惑は罪になりますよ」
「えっ?」
「それはみんなで入るということですか?」
出て行こうとしていたツキが、扉を閉めて詰め寄ってくる。
男性も泊まれる旅館なので、男性用の温泉もあり、また家族風呂として混浴が出来る温泉まで用意されている。
「あっいや、さすがにみんなでは恥ずかしいというか……ツキは俺と温泉に入りたいって思うのかなって思ったから聞いてみただけで」
ツキの鼻息が荒い。
こういう興奮した状態のツキを見るのは初めてのことだ。
「ふぅふぅふぅ……ハァー……兄さん。みんな理性ある生き物です」
「はっはい」
「兄さんに敬意を持って接するために、兄さんから求めてくるまでは手を出さないと約束もしています。
それは私達が仮の彼女だと自覚しているからです。
一人、勘違いしている人もいますが」
ユウナのことかな?ツキに怒られてしまった。
「ごっごめんなさい。配慮が足りていませんでした」
「ハァ~分かってくれればいいです……それで?兄さん。兄さんは私と温泉に一緒に入りたいんですか?」
ツキは恥ずかしそうにモジモジとして、上目遣いに俺の表情を見る。
「えっ?」
「先ほども言いましたが、私達は理性を持って兄さんに手を出さないようにしています。
ですが、それはあくまで彼女同士による同盟です。
それは兄さんには適用されません。
もし兄さんが私と温泉に入りたいなら、私は受け入れます」
浴衣に着替える前、ツキは服は冬のため露出が少ない。
ただ、顔や首元、見えている肌は赤く染まっていた。
もしも、ツキと温泉に入ったらどうなるのだろう?
女性としてツキを求める?
それとも母の裸を見た時のように家族として……気持ちがなくなってしまうのだろうか?
いくら綺麗でも、家族として思えば女性として思っていたツキを好きじゃなくなるのか?答えが出ない。
「すまない。まだ心の準備ができていなかった」
「……そうですか。残念です。
兄さん。私達……私は気持ちを固めています。
他の方はわかりませんが、もしもそういう気持ちになったらガマンしないで言ってください。私は拒みません」
真っ直ぐで淀みのない瞳は、嘘が含まれていないことを教えてくれる。
「わかった。ツキ……ありがとう」
俺はツキの髪に触れて優しく撫でる。
おでこにキスをして、まだ幼さの残るツキの身体を抱きしめた。
「おでこだけですか?」
「今はこれで我慢してくれ」
続きを求めるツキを離して別れを告げる。
「何かあれば呼んでください。
あと、夕食は19時からだそうです」
「ああ。わかった。ありがとう」
ツキが出て行くのを見届けて、俺は窓際にある離れで腰を降ろした。
「もっと彼女たちのこと……そして、俺がどうしたいのか……それを考える必要があるな」
窓の向こうには日本一の山が見えている。
「こんなに景色の良いところをレイカさんは用意してくれたんだな」
神奈川は初めてくるけど観光するところが多い。
横浜に鎌倉……ランさんのレースが始まる日までは観光をすることになっている。
「レイカさんやツユちゃんも一緒に来れたらよかったのに」
浮かんでくる女性たち、彼女たちは俺のために欲望を抑えつけてくれている。
「つくづく俺が思っていた貞操概念逆転世界とは違うんだな。
もっと欲望に充実で貪るように男を求めるのかと思っていた」
彼女たちは俺の心を優先してくれている。
「それだけ大切にされてて、真剣だってことだな」
俺も真剣に向き合うようにしなければ‥‥
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