年越し……冬から春へ

side【邪神様】の信者 金 ー 1

【東堂麗華】



広い座敷にズラリと並んで座る女性たち……47都道府県の覇者たちである。

年末の総会に集まった各家の当主との後ろには次期当主が並ぶ。

そうそうたるメンバーが揃っている中で、上座に座る私は東堂家当主たるお母様が現れるまでの仮の存在にすぎない。



「皆さん、お待たせ致しました」



母の従者である小母様が母の到来を告げる。



「今年も態々ご足労ご苦労さんです。

皆さんの元気な姿が見れて嬉しい限りです。

それでは年越しのご挨拶と温泉を楽しんでいってください」



母は、厚畳に作られた席に座ることなく手短な挨拶だけをして杯を持ち上げる。



「今後の各家の繁栄を願って」


「「「「繁栄を願って」」」」



母の乾杯の挨拶に皆が応えて杯を持ち上げる。



集まった女性たちは妙齢の見目麗しい女性ばかり、母の声に笑顔で応じて居る者立ちではあるが、彼女たちも各家の当主として、それぞれの家の繁栄を取り仕切る者立ちである。


笑顔の裏で、腹の中はどう思っているのかわからない。



男性がいなくなった世で、各地域の覇者として君臨している者達なのだから。



「それでは楽しんでいってください」



豪華な食事に一口も食べることなく母は席を離れて会席場を後にする。



それを止める者は誰もいない。



挨拶さえ終わってしまえば、あとはそれぞれ干渉したいと思う間柄でもない。



それだけ冷めきった会合に嫌気がする。



「レイカお姉さま」



私をお姉さまと呼んでくれるのは、小柄な体を持つ。



「ツユちゃん。どうしたの?」


「辛そうな顔をしていたから、大丈夫?」



座敷家は静岡を取り仕切っている。

うちとも近いこともあり、昔から付き合いが多かった。



「大丈夫よ。ありがとう」


「私に出来ることがあったら言ってね」


「ええ。本当に大丈夫だから」



私に妹がいればツユちゃんみたいな子であったなら嬉しかっただろう。


年末になると、どうしてもくだらない家々の顔合わせと言う名の総会が開かれる。


正月が明けるまで続く、くだらない宴会をどうして続けなければならないのか……



「ヨルに連絡する?」


「ダメよ。彼に醜いこの光景を見せたくはないわ。出来るなら関わらないでいてほしい」



それは家々の力を見せ合う牽制の場でもある。


互いの力を誇示するために、着飾い、お金と権力を示す場。



「そう……ヨルに会いたいな」


「そうね。この宴会が終われば、彼に会いに行きましょう」


「うん。ヨルは今頃何をしているのかな?」


「ランさんの大学駅伝がそっちに言ってるんじゃないかしら」



ランさんは、あの日私達と同じようにヨルに告白した一つ上のお姉さん。


大学で駅伝とモデルをするスーパーレディで、とても健康的な美女だった。


住む世界が違う人間なだけに新鮮で、とても好ましい人物だった。



「私も何もなかったらそっちに行きたかった」


「そうね。私もよ。もしも、ヨルがここに居てくれたらどれだけ気持ちが心穏やかになったでしょうね」



互いに窮屈な着物を着た二人は、想い人のことを考える。



「そろそろ当主方だけの話し合いが始まるわ。私達はお暇しましょう」


「はい」



挨拶が終わってしまえば、あとはお酒が入り、醜い当主たちの今年度の成績発表と言う名の自慢大会が始まる。


成績に関しては、次期当主たちに聞かせるわけにはいかないと言うことで退出が許される。



私はツユちゃんと共に会席場を出ると、母の従者である小母が待っていた。



「レイカさん。こちらへ」


「ツユちゃん。ごめんなさい。母が呼んでいるようなの」


「はい。先にお暇します。藤堂様も失礼します」


「座敷様。ご丁寧にお休みなさいませ」



小母は東堂の姓を名乗ることを許されていない。

分家として藤堂の姓を受けている。


ツユちゃんと分かれた私は、長い長い廊下の奥へと進んで母が待つ大奥へと進み入る。



「東堂麗華……ここに」


「お入り」


「失礼します」



襖を開けると、数名の男性が立ち並ぶ部屋の真ん中で、派手な女性が目に飛び込んでくる。



「よう来ました。それで……言うことがあるんやないか?」



美女がドスを聞かせると迫力があると言うが、生きる伝説と言われる母を前に私は正座をした状態で圧を受ける。



「なんのことでしょうか?」


「なめとるんか?!知らんとでも思っとたんか?!あんたがあたしが決めた伊集院是人さんとの婚約を勝手に破棄しようとしとるやてな!」



席から立ち上がった母は私の前に来て顎を掴まれる。



「ガキが!子供は親の言うことを聞くもんや!なめたことしてんやないで!」



母はいつもそうだ。


私が従順であり、自分の思うとおりに進んでいれば良い母ではあるのだが、母の意向に沿わないとき声を荒げて感情を爆発させる。


私は母のようになりたくないと、いつも穏やかに過ごしてきた。


だけど……譲れない時は私にもある。



「なめてはいません。伊集院是人さんとの婚約が破棄出来ない場合。私はそれでも構いはしません」


「ほぅ~そうか。ほなら問題あらへん。あんたは遊びやった言うことやな。それなら別にかまへん。女は大勢の男を侍らせてなんぼや」



母は満足そうに私から離れて席に座る。


それを見届けて、私は真っ直ぐに母を見る。



「結婚はいたしますが、伊集院是人さんとは一切子供は作りません。ヨルの子を産みます」



私はハッキリと自分の言葉を告げる。


母は怒り任せに側にあった杯を私にめがけて投げつける。


私はそれを避けて立ち上がる。



「言いたいことはもう言い終わりました。失礼します」


「レイカ!!あんたそんなこと言うてただで済むと思ってるんか!!!」



母の叫び声を聞きながら襖を閉じた。



「小母様、すみません」



私は廊下で待つ小母様に謝罪を口にして用意された自室へと戻った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あとがき



第四章 序章 です。



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