第61話 秋だなぁ~

まだまだ暑さを残しながらも、10月に入ったことで夜が長くなってきているように感じる。

ふとした瞬間に吹く風が涼しくて、秋が到来してきたような気がする。



「タエさん。ちょっと寄り道してもいいですか?」


「珍しいですね。どこにいくんですか?」



体育祭一色だった9月が終われば、目につくものも変わっていく。

ツユちゃんと訪れた病院で、俺は気づいたことがある。



やっぱりここは貞操概念逆転世界なんだ。



普段は、学校と自宅の往復をする毎日。

中学時代もあまり外には出なかった。


休日に何度か出かけたことはあるけれど。


女性の視線を感じても近づいてくる人はいなかった。

だから気付くことが出来なかった。



だけど、これからは自分から女性へアプローチをかけると決めた。

魅力的で綺麗な人を見つけた自分から誘惑する。

だから、もっとこの世界の女性について知らなくてはいけない。




「まずは、コンビニかな?寒くなってきたので肉まんが食べたくて」


「ふふ、分かる。学校帰りの間食って幸せだべな」



ヨダレが出そうなほど幸せな顔をしたタエさんを惹きつけれて肉まんを買いにいく。

若くて綺麗な店員さんは、男性である俺が来たことで驚いた顔をしていたけど。

もう、前のように気付かないことはない。

きっと、男性を見るのも珍しいのだろう。



「肉まん二つください」


「はっはい!」



慌てる店員さんから肉まんを受け取り。



「ありがとう」


「こちらこそありがとうございます!」



メッチャ元気よくお礼を言われる。



「この時期になると肉まんって食べたくなりますね」


「まだ時期的には暑いから、ちょっと暑いけどね」



ハフハフと熱い肉まんを食べながら近くの公園のベンチに座る。


公園では小学生ぐらいの女の子たちが、楽しそうに遊んでいるけど。


男のらしき子の姿は見えない。



「男の子って本当に少ないんですね」


「う~ん。最近は昔よりももっと減ってるって言ってたから、男の子を生んだお母さんも外に出すのは嫌がるかもしれないね」


「そうですよね。俺もタエさんがボディーガードしてなかったら、また変な人に絡まれちゃいますしね」



初めてあったときの痴女はなかなかに強烈な人たちだった。



「そうだよ。ヨル君は無防備過ぎるところがあるから」


「はは」



タエさんと肉まんを食べながら、そんな放課後の語りをしていると、一人の女の子が近づいてきた。

歳は、中学生ぐらい?低い身長と可愛いらしいくりくりした瞳が特徴的な美少女だ。



「あっあの!男性の方ですか?」



真剣な瞳で、どこか恥ずかしさを持って問いかけられる。



「はい。男性の方ですよ」


「あっ!すいません。私は木築竹美キヅキタケミって言います。男性に会うのが始めてでお話したいなって思って突然すみません!」


「全然いいよ。タケミちゃんだね。僕は黒瀬夜。それとこちらは僕を護衛してくれてる森多恵さんだよ」


「初めまして!ヨルさん!タエさん」



人懐っこい笑みを浮かべて名前を呼んでくれるのは嬉しい。



「あの、ヨルさんの制服は青葉高校ですよね?」


「うん。そうだよ」


「私、来年青葉高校を受験します」


「そうなんだ。じゃあ後輩だね。よろしくね」


「はい!絶対後輩になります!」



元気よく宣言するタケミちゃんが可愛かったので、ふとツキのことを思い出す。


ツキと同い年のタケミちゃんは素直で可愛い印象を受ける。



貞操概念逆転世界に来て、一番最初に感じた違和感はツキの存在だった。



家族は本来、もっとも男性を慈しみ愛してくれる存在だと思っていた。



だけど、ツキから受けてきた言葉は……ヨルにとって辛い暗黒時代に他ならない。



俺自身の心はヨルであってヨルではない。


だから、ツキからキモイと言われてきた言葉は記憶であり、実際には一度か二度言われた程度あまり気にしてこなかった。


だけど、ヨルは何年もツキからキモイと言われ続けてきた。



幼い頃のツキは可愛かった記憶がヨルにもある。



今のツキは目の前で可愛い印象を受けるタケミちゃんとは違って、何を考えているのかわからない。


家族だからこそ、ツキの存在をどうにかしたいと思いながらも、どうすればいいのかわならかい。



「ねぇ、タケミちゃん。もしも、タケミちゃんにお兄ちゃんがいたら嬉しい?」


「えっ?お兄ちゃんですか?お姉ちゃんはいるんですけど……う~ん。嬉しいですけど。ちょっと困ると思います」


「困る?」


「はい。きっと一番近い異性になるってことですよね?他には男性がいなくて、唯一の男性が肉親って凄く悲しいと思います」


「困るし?悲しい?」


「だって、絶対好きになっちゃうじゃないですか。だけど、肉親だから好きになっちちゃダメだから、どうやって嫌いになるか考えると思います」



俺は、まだまだ人の気持ちがわからない。


ツキがどんな思いを持ってキモイと言ったのか、本当にキモイと思っていたのか、タケミちゃんが言うように嬉しい理由だったらいいけど。


ツキは俺の変化に気付いているかもしれない。



「やっぱり一度話をしないとダメなんだろうな」


「えっ?」


「ううん。タケミちゃんありがとう。悩みが解決した気がするよ」


「わっ私でお役に立てたならよかったです」


「うん。本当にありがとう。受験応援してるね」


「はい!」



可愛いタケミちゃんに別れを告げて家へと帰った。


家は、今日も誰もいない状態で一人の生活が続いている。



ツキが僕を避けるなら、僕からツキに会いに行こう。



青葉祭が終わったら、ツキと話をしよう。





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