side妹 ー 8
【黒瀬月】
私は兄さんと距離を置くことを決めて、ホテル住まいを始めた。
それと同時に母から言われていた仕事を始めることにした。
「本当にいいの?今まではヨルの側にいるからやらないって言っていたのに」
夕食を共にするユイ母さんから、質問を投げかけられる。
「うん。兄さんも一人で頑張っているみたいだから。私も一人で自分のことをしようと思うの」
「ふ~ん。それならいいけど」
ユイ母さんは昔から鋭い人なので、余計なことを言ってしまえば気付かれてしまう。
「それにしても子供って、知らないうちに成長するものよね。ユウナも最近は学校に戻って食事もちゃんと食べられるようになったの。ツキちゃんは何か聞いてる?」
「いえ」
「ふ~ん。まぁいいけど。明日は仕事がないから、一度家に帰ってみたら?」
私は服のストックも必要になるので、一度家に戻ることにした。
少し遅めに帰宅した私を出迎えたのは、ソファーで眠る兄さんだった。
月の明かりに照らされる兄さんは本当に美しい。
「兄さん…兄さん……本当に寝ているのね……」
何度か呼びかけても兄さんは目覚めない。
「疲れているのね……ねぇ、兄さん。あなたは誰?私の大好きな兄さん?それとも別の誰かなの?」
懐かしい匂いと、頬に触れられると兄さんの目が開いていく。
「おはよう……兄さん」
久しぶりに会う兄さんは、優しく微笑んでくれる。
「ああ、おはよう。ツキ」
私は、今の兄さんはどんなことを考えているのだろうと思った。
「兄さん……兄さんは女性に興味がありますか?」
ひんやりとした窓が気持ちいい。
「何だよ急に……女性?興味あるよ」
昔から兄さんは優しかった。
ただ、近くに私とユウナ姉さんがいたから、女性に対して嫌悪感を持っていない。
「ねぇ、兄さん」
女性に興味があると言った兄さんの前で部屋着を脱ぎ捨てる。
「兄さんから見た私は興味の対象となりますか?」
キャミソールも脱ぎ捨て、ナイトブラと下着だけになる。
兄さんに見られている。
嬉しい。兄さんだけに見られていたい。
「……正直に言うね」
「はい」
私はもっと近くで見て欲しくて兄さんに近づいていく。
「わからないんだ」
唇が触れあいそうなほど近くに顔を寄せ合う兄妹。
互いの瞳は紫に輝き……
互いの髪は黒く染まる……
吐息を感じるほどの距離で近づいて、兄さんからはわからないと告白される。
「わからないですか?」
「ああ、ツキの姿を美しいと思う。まるで女神のようだ」
完全な拒絶ではない。
だけど、女性として見ているわけでもない。
怯えた様子も、戸惑った様子も、恥ずかしそうな様子もない。
「だけど……俺にとってツキが妹だと思う気持ちも存在する」
妹と思う気持ち……兄さんの瞳と言葉から……妹が勝っていることがわかってしまう。
「そう……ですか……」
しばらく二人は触れあってもおかしくない距離で見つめ合う。
いくら見つめても、兄さんから動揺が感じられない。
「……わかりました」
これは負け惜しみ……
「私は兄さん以外の男性に触れられたいと思っていません」
私は自分の部屋に戻って兄さんのシャツをギュッと抱きしめた。
先ほど脱いだばかりであろう洗濯籠に入っていた兄さんのシャツは汗の匂いがして、私を女へと変えてしまう。
自然に伸びた手は股の間を貪り、激しく兄さんの匂いで狂わせてくる。
「ダメね。まだダメ。今、兄さんと一緒にいても兄さんは私を妹としかして見ていない。それじゃあ、私の計画は成功しない」
私は荷物をまとめて家を飛び出した。
兄さんはシャワーを浴びているのか、姿が見えなかった。
私は兄さんから気持ちを独立させるために、セイ母さんとユイ母さんの仕事を手伝うことにした。
まだ、事務的な会社の手伝いはできないので、宣伝としてジュニアモデルから始めることにした。
「いいね。いいよ!TUKIちゃん」
SEIの娘として売り出された私はすぐにモデルとしての仕事が舞い込んできた。
化粧をして顔を整えれば母に似ている顔が鏡に映し出される。
カメラを向けられて、ポーズを取れば賛辞を浴びる。
「YUIちゃん。ここまでの逸材ならもっと早く連れてきてほしかったよ」
「本人の希望もあったからね。でも、やっぱりSEIの子ね。カメラの前に立つと雰囲気が変わるわね」
「本当に凄いよ。撮っていて魅せられるっていうの。彼女の後ろには狂気のようなオーラが見えてくるよ」
休憩室でメイクを整えていると、見学に来ていたユイ母さんが会いに来てくれる。
「カメラが褒めてたわよ」
「そうですか」
「どうモデルの仕事は?」
「楽しいです。みんな褒めてくれますし」
「そう?心此処に非ずって感じにも見えるわよ。まぁカメラの前に立つと人格は変わるみたいだけど」
ユイ母さんは色々と気にかけてくれている。
「……今のままではダメなんです。兄さんに選んでもらうことが、今の私では……」
「ヨルに選んでもらう?」
「はい」
ユイ母さんは、私が何を言っているのかわからない様子だが、私は私が分かっていればいい。
今の私では、ダメだ。
兄さん……完璧で成長を遂げていく怪物。
きっと兄さんは、大勢の女性と……その中に入るためには今のままではただの妹で終わってしまう。
「私は女になります」
私は立ち上がって仕事に戻った。
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