第54話 長い夜
体育祭で体を動かしたことで、頭がスッキリして家に帰ってきた。
シャワーを浴びて汗を流し、私服に着替えて料理を作る。
いつの間に降り出したのか雨が月も夜空も隠してしまった。
「ツキ……遅いな……」
20時を過ぎても、ツキは帰ってこなかった。
雨足は強くなり、迎えに行った方がいいだろうか悩んでいるとメッセージが送られてきた。
『今日は母さんのところに泊まります』
「なんだ……帰ってこないのか?二人分作ったのにな……ふぅ~ユウナに声をかけて見るか?」
ユウナにメッセージを送り、夕食を一緒に食べないか問いかける。
ユウナはすぐに来るというので、料理を並べてる。
ピンポーン
「いらっしゃい」
「お邪魔しまう。ひっ久しぶりね。一緒にご飯食べるの」
恥ずかしそうに座るユウナの前に食事を並べていく。
「うわ~綺麗」
今日はツキの機嫌を取ろうと思って張り切って作ったので結構自信がある。
「ちょっと母さんと食べたカプレーゼを試したくてな」
今日は
カプレーゼ
コーンの冷製スープ
ミートソースパスタ
デザートに桃のジュレを用意していた。
「さぁ食べよう」
「昔よりも、料理の腕が上がったんだね」
ユウナが一口食べて、そんなことを言ってきた。
「覚えてたのか?」
「まぁね。昔は、卵焼きは焦げ焦げで、インスタントラーメンも伸びてたね」
幼馴染だから共有できる記憶に苦笑いを浮かべてしまう。
「他にもお母さんたちの帰りが遅くて、みんなでご飯をいっぱい失敗したね。
ツキちゃんはあの頃から凄くて、年下なのにすぐに料理が出来るようになっちゃたよね」
「そうだな。中学まではずっとツキがご飯を作ってくれたから助かったよ」
兄と妹……幼い頃はずっと世話をしていると思っていた。
だけど、いつの間にか妹の方がなんでも出来るようになり兄の世話をする。
よくある話のようで、今まで考えたこともなかった。
「美味しかった~ご馳走様」
昔のことを話しながらユウナと取る食事は楽しかった。
昔ほど、天然で元気いっぱいと言ったユウナではないが、短かった青い髪はいつの間にかセミロングになっていて、どこかユイさんを思い出させるように成長を遂げている。
「お粗末様でした」
食器はユウナが片付けてくれるというので、任せることにした。
ツキに転生者であることを話すつもりで覚悟を決めていた。
その緊張が解けたせいだろうか?それとも雨の音が心地よかったからか……キッチンから聞こえてくる水音を聞きながら眠りに落ちた。
久しぶりな気がする。
ヨルとして生きてきて、心穏やかな日々もたくさんあった。
だけど、心から安心して眠りについたのは本当に久しぶりに感じる。
ふと、目が覚めるとタオルケットが掛けられていた。
離れた位置でユウナがスマホを操作している。
「帰らなかったのか?」
「それほど長い時間じゃないわ」
時計を見れば、22時手前で一時間ほど眠っていたみたいだ。
「客人を招いたのに寝てしまってすまない」
「別に良いわよ。昔のヨルもすぐに寝る子だったからツキちゃんとお話をして過ごしていたもの」
「昔の俺?」
意味深な言い方をするユウナに不思議な感覚を覚える。
「私ね。凄くバカなんだ」
これは勉強がってことではないのだろう。
「だから、人の気持ちも考えられないし、ヨルのことも考えてなかったってわかったんだ」
ユウナなりに反省してくれたのかな?確かにショックは受けたけど。
ユウナを嫌いになったわけじゃない。
きちんと仲直りが出来るなら問題ない。
「でもね……やっぱり、ヨルは私を好きなんだよね」
うん?
ユウナの青い目が光を失ったように感じられる。
顔は高揚して紅くなり、口角が上がって満面の笑みになる。
「だって、無防備に私の前で眠るって私を信用して、私が好きだからそんなことが出来るんだよ。じゃないと、無防備にそんなことしないもの……ねぇヨル。ヨルは私を好きなんだよね?ふふ、ずっとわかってたよ」
あれ?ユウナってこんな感じだったか?何かおかしくないか?
「なぁ「ヨルは何も言わなくていいの!
私は全部わかってるから。
ヨルのこと考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて
ず~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~と考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて」
ヤバい!
何かおかしい!
ユウナが立ち上がる。
「ねぇヨル。ヨルは私の体を見るの好きだったよね」
テレビ電話を通して、見ていたユウナの肌。
小麦色に焼けて、服を脱ぐと見える。
水着の跡を残した肌の日焼けが、ユウナの健康的な体を象徴している。
「ねぇヨル。もっと見ていいんだよ。ヨルが触りたいなら触ってもいい」
ワンピースの肩を外して、胸元で服を抑えるユウナ。
俺は立ち上がってユウナの肩を掴んだ。
「ユウナ、確かに俺はスケベでユウナの肌を見るのも好きだった」
「やっぱり、ヨルは私を好き」
「だけど、今のユウナは普通じゃないように思う。
ちゃんと好きだって告白し合って、付き合ってお互いに相手を求めてたいって心から思いたい。今のユウナは俺の知っているユウナじゃない。今のユウナとそういうことをしたいとは思わない」
突き放すわけじゃないが、僕はユウナにハッキリと今の気持ちを告げる。
ユウナは下を向き、肩に服をかけて走り去っていった。
……どっと体から力が抜けていく。
戸惑いと恐怖……ユウナの知らない一面に深々と息を吐いた。
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