第50話 体育祭 ドッジボール
砂煙吹き荒れるグランドの中央に張られたコートは10以上。
各クラスの代表によるトーナメント形式で行われるドッジボール大会は、他の球技大会とは雰囲気が別物のように思えた。
「さぁ今年もやってまいりました。青葉高校大ドッジボール大会。
各クラス一試合に出られるのは代表15名ではありますが、トーナメントは各クラス総力戦であります。一戦ごと生徒を交代しても良いルールですので、勝ち進めばクラスの女子は全員参加可能ということです。解説の貝瀬さん」
「実況のGKOさん。私は本当に楽しみでしたよ。
毎年先輩たちが、この大ドッジボール大会の実況と解説をしているのを見て、いつか私もこの舞台に立ちたいと何度思ったことか……ついについに私はやったんだ!!!」
あれ?あれって料理部の見学に行った時の二人かな?
実況部だっけ?
「そうですねそうですね。わかりますよ貝瀬さん。
改めて、ここからは実況部GKOと解説の貝瀬さんでお送りします。
早速ではありますが、各学年各クラスから猛者たちが我こそが今年の青校ドッジの勝者だと言う風格でコートに布陣していきます」
同時に10試合が行われるのをどうやって実況するのかと言えば……
「今年は調査兵団隊員協力の元、各コートにはカメラマンが配置されております。我々はカメラに移された映像を見ながら実況と解説を行うわけですが、貝瀬さん今年の注目選手は誰でしょうか?」
「それはもちろん、昨年の二年生覇者藤堂麗華会長でしょうね?
あの人は見た目こそホワホワしていますが、運動は悪魔のように強い!強すぎる。
並みいる運動系部活が挑みましたが、結局誰も太刀打ちできませんでした」
バレーに続いて運動が得意なんだな。
「今年の一年生は、運動部に強豪が揃っているので、一年は運動部クラスのつぶし合いになるでしょうね」
「そうですね。サッカー部の双獣。バスケ部の鬼。水泳部のマーメイド。この辺りは今年の青葉高校の顔となるでしょうね」
全然誰のことかわからん。
「何よりも今年の一年は羨ましい!!!どうして私達はあと二年遅く生まれなかったのか……」
「そうですね。私もそれだけが悔やまれる……」
二人の視線が専用お立ち台へと向けられる。
男子応援団が全クラスから見えるようにと生徒会長がわざわざ用意したお立ち台の上には、三人の男子が歌って踊る光景が見えている。
実況と解説の位置からお立ち台は見えても彼らの姿は見えない……見ようとすれば席を外さなければならない。
「この場に座りたいと思いながら、今年のこの立場を辞退するか悩みに悩んで、何度立つことを悔やんだことか!!!そして、どうして映像に男子応援団を映し出すことが禁止されているのか!!!悔しすぎる!!!」
「男子保護法により、無断で男子を撮影することは禁止されていますからね。
男子応援団側から撮影許可をもらった者しか撮影ができないそうですよ」
SNSに投稿されている映像はあくまで、男子応援団側から依頼したカメラマンたちによって撮影されているので、今回は一切の撮影が禁止されている。
「声だけでも声だけでも聞き逃すまい!!!」
「モブとは、こうして生きていくのでしょうね。未来の実況と解説をする子たちよ。私達の働きを見届けるのです」
その日を境に実況部に退部届を提出する女子部員が増えたと言う。
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一回戦が終わって、休憩に入った男子応援団は、水分の補給をしながら衣装チェンジをしていた。
「午後は暑いな」
「もう少し薄着の衣装にする?」
「ラッシュガードとかいいんだけどな……」
「それいいね。よし。水泳部のときの奴あったよね」
四人は水着衣装へとチェンジして、二回戦へと向かう。
一回戦は順序よく、スポーツ科が勝利を重ねた。
しかし、そんなスポーツ科の一角を倒したクラスが現れる。
「おおっと1ーA組が怒涛の快進撃!!二回戦もスポーツ科を撃破したぞ!」
実況のGKOさんの叫び声に男子応援団も歓声を上げる。
やっぱり同じクラスメイトが頑張っているのは嬉しい。
準決勝まで進んだ1ーAを警戒したのか、スポーツ科は互いに守備に徹するようになった。
その中心としてバスケ部の鬼こと
「絶対に負けちゃダメだよ!私にボールを集めな!」
背の高い鬼塚凄く目立つ。声も大きくクラスメイトを励ます姿は、美しき戦乙女の印象を与えてくれる。
その横には青い髪がチラチラと見えていた。
小柄な体でボールを避けて、鬼塚さんと共に活躍するのは、ユウナだ。
1-Aと幼馴染をどちらを応援しようとか悩むところではあるが、どっちも頑張れという気持ちを込めて、俺は歌を届ける。
「俺の歌を聞けー!!!」
ヨウヘーが作ってくれた俺専用のソロ曲は、自己主張強めな俺様系ソングになっている。ラッシュガードの前を払いて身を乗り出すように歌い始める。
歌の前に【俺の歌を聞けー!!!】と叫ぶように命令口調で言うところから開始されるがハズイ。
一瞬、ドッジボールをする女子も先生たちですら、動きを止めて音が消える。
「フリーダム」
歌詞は俺様系全振りなので、「女は全員俺様の下僕」とか「俺様だけの可愛い子猫ちゃん」とか「俺様は誰にも縛られないフリーダム」とか歌じゃなかったら恥ずかしくて言えないような内容になってる。
あっユウナが座り込んでこっち見てる。
お~い、今は試合中だぞ。あっ倉峰さんがボールを当てた。
言わんこっちゃない。
1ーAがいつの間にか逆転して、勝利を掴んだ。
ユウナは大丈夫かな?
ふと、歌の終わりが近くなって、視線を彷徨わせてテルミ先輩と目が合う。
最後のセリフとポーズを付けて、テルミさんを指でさした。
「お前は俺様のモノだ!!!」
このセリフ口調がまた恥ずかしい。
テルミ先輩は楽しんでもらえたかな?あれ?テルミ先輩も座り込んでる。
まぁ体育祭で疲れてるんだろうな……
よし、残り一試合だ。頑張ろう!!!
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