side幼馴染 ー 5

【青柳悠奈】



夕日に照らされた……あの日……



「【青柳悠奈】から卒業します。


今まで本当にありがとう。


もう俺は大丈夫だから、ユウナはユウナの世界を生きてくれ。

俺は俺の世界を生きるから。

あっ、幼馴染として恋の相談は聞いてくれよ。


俺さ、好きな人がいるんだ。


今日の打ち上げを部活の奴とやろうと思ってたんだけどすっぽかされたからさ。

好きな人を食事に誘ったら行ってくれるって言うから行ってくるよ」




私は何を言われているのだろう?


私とヨルは両想いで、今からヨルは私と付き合うじゃないの?卒業する?ヨルが私から離れるってこと?好きな人がいる?それって私のことじゃないの?




「ユウナ。またな」



ヨルが去っていく姿を呆然と見つめながら、私は声を発することが出来ないでいた。



それからの日々はあまり覚えていない。

学校に行くのも嫌になり、部屋にこもるようになった。

ヨルからメッセージが送られてくることはなくなって、私は世界と隔離された。


ああ、そうか……ヨルがいなければ私の世界には何もないんだ。



水泳も、学校も、生活も、全てが嫌になって、私は何もしなくなった。



それでも私を外で連れ出す存在がいた。



「ユウナ!あなた何しているの?!学校から来ていないって連絡が来たわよ!」



ユイ母さんが私の部屋の扉を壊して現れた。

私は何日も食事をしていなかったので、唇が張り付いて声もカスカスで出せなかった。



「死ぬ気?」



ユイ母さんによって、看病されて私は一命をとりとめた。

無理やり飲み物を飲まされて、ご飯も食べられるようになった。



「学校に行きたくないなら行かなくてもいいけど。死ぬのはダメ。

人生は長いの、嫌なことがあれば良いことも絶対ある。だから生きて」



母さんが泣く姿を始めて見た。

私は母さんの泣く姿を見て、自分も泣いた。



それでも気持ちは整理が出来なくて、母さんがいなければ私は何もしない人形のような存在になった。



「ユウナ。ツキちゃんとSEIとご飯食べに行こう。こういうときは女子会よ」



私はツキちゃんと名を聞いて体がビクッと震えた。

彼女の作戦に乗らなければ、ヨルが私から離れることはなかったんじゃないか?そんな感情が湧いてきた。



私はユイ母さんに手を引かれてレストランでツキちゃんを待った。


ツキちゃんは毅然とした態度で現れ、ユイ母さんからある動画を見せられる。



「ねぇ、ツキちゃん。この動画知ってる?」



その動画には、私の水泳大会を応援に来たヨルの姿が映し出されていた。

久しぶりに見るヨルはやっぱりカッコ良くて素敵だった。

でも、私に笑いかけてくれていたヨルはもう私に笑いかけてはくれない。



「これって!」


「そっか〜ツキちゃんは知らなかったんだね。これね。ヨル君が高校で作った部活なんだって。名前は男子応援団部」



知っている。ヨルは男子応援団を作って生き生きと友達と高校生活を楽しんでいる。



「そうか……その様子だとツキちゃんは何も知らないみたいね。ユウナ?あなたは知ってたんでしょ?」



話をふられて私はずっとヨルが映し出される動画を見続けていた。



「あははは!!!ヨル~私のヨル~!!!素敵。やっぱりヨルはカッコイイなぁ~ハァ~ヨルが好き」



気持ちが止められない。感情が溢れてくる。



「この間、ヨルに会ったわ。自信に満ち溢れて男らしくなっていた……私が知らないヨルだったわ」



SEIさんが話しているけどどうでもいい。

ヨルが動画の中にいる。



「母さんは何を言ってるんですか?兄さんが完璧なのは昔からです。

ですが、他の女性に取られないために中学時代はユウナ姉さんと兄さんを守っていたんです。

それなのに知らなかった?もしかして、本気で兄さんにキモイと発言したんですか?ありえません!」


「ツキ?!」


「失礼。YUI母さん。食事をしてもいませんが、この場に居たくありませんので先に失礼します」


「……ツキちゃん。わかったわ。またゆっくり話しましょう」




立ち上がったツキちゃんが私を見る。

私はヨルから目が離せなくて、それでも耳には目障りな声が聞こえてくる。



「兄さんに何を言われたのか知りません。

ですが、ユウナ姉さんは私とは違ったようですね。

兄さんに恋人になってほしいとでも求めましたか?

それを断られた?」



ヨルは私のものなのにどうして恋人になりたいと思っちゃいけないの?

ツキちゃんからかけられた言葉に私の心はザワザワと騒ぎ出す。



「私は兄さんを守る存在です。


兄さんの側で兄さんをずっと知っているのは私だけ。

他の女など兄さんが望まなければ意味がありません。

兄さんに選んでもらう女性になれないなら、そのまま堕ちていってください」



私はツキちゃんの言葉で心がつぶれそうになる。



それからまた無気力な日々が戻ってくる。


一日家に居て、たまにヨルの動画を見る。


いつの間にか夏になって、暑くて汗が流れる。



「ユウナ。出かけましょう。やっと休みが取れたから気分転換しないと」



強引に部屋から連れ出されて車に乗せられる。

しばらく駐車場で停車しているとツキちゃんが乗ってきた。



「ユウナ姉さん。久しぶりです」



声をかけられたが、私は無視した。


次に、ユイ母さんがヨルを連れてきた。


私は体が強張り寝たふりをして過ごした。



温泉宿に到着して、逃げるように車を飛び出した。


部屋に行けばヨルの側にいなくちゃならない。


だから庭に逃げて山を眺めていた。



もしも、ヨルから拒絶されたら、もう……



そうして、二日間私は逃げ続けた。


二日目になってユイ母さんに海へ連れていかれたが、泳ぐ気にはなれなかった。


久しぶりに外で過ごす日々に疲れて早めに眠りについた。

夜中になって目が覚めてしまった。


皆寝ていたので、一人で夜風に当たるため庭に出た。



草をかき分けて進むと人影があって驚いてしまう。



「なっ何?」



相手から声が発せられて、私は草から飛び出した。



「ユウナ?」



会いたくないのにヨルがそこにいた。

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