第43話 幼馴染は……
家族で観光を終えた夜。
いよいよ旅行も終わりに差し掛かり、俺は一人で夜の庭を散歩していた。
広い日本庭園は、夜になると雰囲気を変えて、綺麗さの仲に不気味さを滲ませる。
何か出てくるのではないかと、恐怖心を煽られる。
ガサッ!
草が揺れる音がして、ビクッ!と驚いてしまう。
「なっ何?」
俺が体を強張せて、何か出てくるのを待っているとフードを被ったユウナが現れた。
「ユウナ?」
驚きと、怖さと、安堵によって、俺は久しぶりに幼馴染の名を呼んだ。
ユウナも人がいると思っていなかったのか、俺に呼ばれてビクッ!と体を震わせる。
「ヨル」
ユウナに名を呼ばれるのは水泳大会のとき以来だ。
「久しぶりだね。こうして話すのは」
俺が話を続けようとするが、ユウナは立ち去ろうとする。だから、俺は続けて聞いてしまう。
「ユウナにとって、俺はそんなに嫌いな存在だったの?」
これで幼馴染との関係が終わってしまうかもしれない。
そんな気持ちを込めて俺はユウナに問いかけた。
もしも、ユイさんからユウナは俺を好きだと聞いていなければ聞く勇気はもてなかったかもしれない。
「嫌いじゃない」
「えっ?」
ユウナから言葉が返ってきたが、小さくて聞こえない。
「嫌いじゃないって言ったの!」
振り返ったユウナは酷くやつれていた。
元気100%で、天真爛漫。
そんな言葉がユウナを表す言葉と思っていたのに、今のユウナの顔は目の下にクマが出来て顔色もよくない。
「ユウナ?」
「嫌いじゃないよ。だけど、私はヨルにヒドイことをして、ヨルは私から離れたいんでしょ?だったら離れてあげるわよ。もういい?もう私なんて放っておけばいいじゃない。ヨルは私がいらないんでしょ?」
俺が呼びかけるとユウナは堰を切ったように話し出した。
「中学時代に私はヨルを独占したくて、運動部の子に命令してヨルに話しかけないようにしてたの。
他にもヨルが私以外に話しかけてほしくなかったから、キモイってウソを言ってヨルの自尊心を下げて、私がいないとダメなようにしたの。
ほら、私ってヒドイでしょ?嫌になるでしょ?私のこと嫌いになったんでしょ?」
独占したかった?話しかけさせないようにしていた?キモイってウソ?
初めて聞く情報が整理できなくて、ただユウナが俺に自分のイヤなところを告げてきていることは分かった。
どうしてそんなことをするんだろう。
いつからすれ違っていたんだろう。
この世界に来て、ヨルの中に入った俺は浮かれていた。
だけど、ヨルの心は今にも壊れそうでユウナに助けを求めた。
ユウナから受けたのは拒絶の言葉で、ヨルを救ってはくれなかった。
だから、ヨルは心を殺して、俺になった。
「……嫌いじゃないよ」
きっとヨルはユウナを嫌いじゃない。
むしろ、頼りにしていたから救ってほしいと思った。
「じゃあどうして私から離れるって、卒業するなんて言うの?私の事が嫌いになったからでしょ?うっとしいんでしょ?」
どんどん涙をあふれ出させて、気持ちを爆発させるユウナ。その姿は今にも壊れてしまいそうだった。
「ユウナはずっと俺の世話をしてくれてたから、俺の方がユウナの重りになると思ったんだ」
「えっ?」
「どうやら、俺たちどっかですれ違っていたみたいだな」
星母さんは言っていた。
もっとたくさん話をすればよかったと。
結さんは言っていた。
ユウナはずっとヨルが好きだったと。
ヨルはユウナを頼りにしていた。
凄く簡単なことなのに、お互いに相手のことを思い合っているのに会話をしていないだけでこんなにもすれ違ってしまう。
「ヨルは私が嫌いだから離れるんじゃないの?」
「うん。水泳大会のときに思ったんだ。
ユウナは俺の知らない世界で頑張ってるんだって。
きっと俺が見る世界よりも広いんだって思ったんだ。
なのにいつまでも俺の相手をさせるのは悪いなって」
ユウナは力が抜けたように座り込んだ。
「どうして……どうしてそんなこと?」
俺は言うべきか迷った……でも、今のユウナを見ていられないと思った。
「中学時代。俺に頼れる存在はユウナだけだった。
ツキや母さんからはキモイと言われ、クラスの誰からも相手にされなくて、ユウナだけが相手をしてくれて嬉しかった。
だけど、ユウナからキモイって言われて、俺の世界は一度死んだんだ」
俺の言葉を聞くうちにユウナ顔が青白く染まっていく。
「だけど、それを救ってくれたのはランさんとセイヤだった。
ランさんは変わった方がいいと言ってくれて、変わった俺を褒めてくれた。
セイヤは悩みを打ち明けてくれて、俺の悩みを聞いてくれた。
二人がいたから、今の俺は立ちなおれることが出来たんだ」
救いを求める手を差し出した。
だけど、それを拒否したのはユウナだ。
「はは、あはははははははははは!!!!!私が、私がヨルを拒絶したの?私が先に」
壊れたように笑うユウナ。
これはヨルからの復讐。
だけど、ヨルはそれ以上は望んでいない。
「ねぇ、ユウナ。ユウナがしたことは許されることじゃないと思う。
だけど、僕はユウナを嫌いじゃないよ。
ユウナが笑っている姿も、ユウナが泳いでいる姿も、ユウナが頑張っている姿も、全部応援してる。
だから、頑張って!」
俺はユウナを抱きしめた。
壊れてほしいとは思っていない。
元気でいてほしい。
「私は許されないの?」
ユウナの声が耳元で聞こえる。
「許される努力をしてよ」
俺の返答にユウナから嗚咽が聞こえてくる。
ユウナが泣き止むまで抱きしめ続けた。
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