第32話 両手に華

両手に華だ。



右には日に焼けて褐色の肌にスレンダー体型。

白を基調とした服が良く似合っている現役JDのランさん。

今日は髪を編み込んでいて、いつもよりもエキゾチックな美しさを放っている。



左には色白の黒髪美少女。

ジーパンにシャツというカジュアルな衣装を着こなす発展途上の現役JCツキ。



対照的な二人だけど、どっちも超絶美人には間違いない。



貞操概念逆転世界と言っても、ここまでの美女が二人並んでる姿は見る機会が少ない。



「兄さん。ニヤニヤしてるよ」


「ヨル。そういう顔は」



はっ!やってしまった。二人からまたキモイって言われる。



「もう、仕方ない兄さんですね」


「そうね」



そう言って二人は左右から俺の腕に、自分の腕を絡めてくる。



「えっ」



「両手に華とか、どうせ思ってたんでしょ。顔に出過ぎ」


「前にも言ったが、ヨルは顔に出ていてわかりやすいぞ。そういうとき」



二人の胸の感触が腕に伝わってくる。


夏の暑さがヤバいことよりも、俺の腕の方が火傷するんじゃないかと思うぐらい熱い。



「ほら、兄さん。お店の中に入るよ」


「ヨル、行くよ」



腕から離れた二人は俺の手を取って、引っ張っていく。



見た目こそ違うが、二人の行動は本当の姉妹のように息が合っていて、俺はそんな二人の行動も悪くないなって思った。

店の中は夏服から秋服に代わる間で色々と試せて楽しかった。



ツキの服を選んでは着せ替えて。

ランさんの服を選んでは着せ替えて。

なぜか、俺まで服を着せ替えさせられて。



二人の水着姿は、綺麗やら可愛いやらとにかくヤバかった。


こんなにも楽しくていいのかって思う時間があっという間に過ぎていった。



「兄さん。お腹空いた」


「そうね。何か食べに行きましょうか」



三人で入った店は、ちょっとお高そうな鉄板屋さん。

カウンターしかない店内の中央で、ツキ、俺、ランさんの順番で席に着く。



「今日は付き合ってもらってありがとうございます」


「ううん。とっても楽しかったわ」


「今日は俺に奢らせてくださいね」


「え~どうしようかな?」



俺がランさんに謝罪を口にする。

前回、宣言した通り俺は奢ろうと思ってこの店を選んだ。

ツキにもお兄ちゃんが出してやるつもりだ。



「兄さん~カッコイイところ見せたいからって、こんな店選んで大丈夫?」



ランさんに続いてツキにまでからかわれてしまう。


これでも男性保護法だけでなく、セイヤのお陰で自分なりの収入を得られるようになったので懐には余裕がある。



「もちろん。好きなの食べな」


「やった~兄さんの財布を破産させてやる」


「ふふふ、本当に仲がいいのね」


「いえいえ、普段はそうでもないんですよ」



三人で話していても話しやすくて、二人が俺をからかっては笑っている。


ふと、ランさんが本当に彼女になってくれて付き合えたらどれだけ幸せだろうかと考えてしまう。


ツキもランさんのことを気に入ってくれたようだし……もし二人で出かけることが出来たら……



「そういえば、もう夏休みよね?」


「そうです。私、生徒会に入っていたんですが。夏休み前に新生徒会に引継ぎも終わったので今年はゆっくりするんです」


「え~そんなこと言っていていいの?三年生なら受験があるんじゃないの?」


「全然問題ありませんよ。もう青葉高校に入ることを決めているので、それに今の成績なら問題ありません」



俺が考え事をしている間に女子二人の話が盛り上がっていた。


目の前には美味しそうなお肉が鉄板で焼かれて匂いが食欲をそそる。



「ランさんは、夏休みはどうするんですか?」


「私はちょっと忙しいかな……駅伝の合宿とか、モデルの仕事で結構スケジュールが埋まっちゃって」


「駅伝?」


「そうなの。大学で駅伝をしているんだよ。これでも一年で任されるぐらいには有望でね」



う~ん、会話に入るタイミング無い。


えっ、めっちゃ美味いんだけど。


この肉ヤバくない。


塩コショウだけなのにメッチャ甘い。



「兄さんは夏休みどうするの?」


「ヨルは最近何しているの?」



美味しいお肉を味わっていると、二人から質問を投げかけられる。


肉は喉に詰まることなく溶けてしまった。



「俺?俺は部活の合宿かな?あとは時間が出来たら遊びに行きたいって思ってるよ」



「合宿?」


「部活?」



二人は別々の箇所に疑問を想ったようだ。


ツキは、俺がセイヤと話しているを聞いているから、部活の事は知っていたのかな?

ランさんには部活のことを伝えてないから、部活のことを気になってくれたかな?



「俺、高校で応援団部を作ったんです。それで部活の仲間が体力無くて。体力つけたり、練習しようとって言ってるんです」


「応援団?」


「兄さん、これ?」



ツキが自分のスマホで青葉高校のSNSを調べてくれたようだ。

俺たちが映る画像や動画が映し出された画面をランさんに見せる。



「こんな感じで応援してるんです」



ランさんは動画を見て、自分のスマホでも検索をかけてくれた。



「まだまだダンスも歌も納得できるレベルじゃないので、今年の夏は皆でレベルアップしようと思っています」



ランさんに見せるには恥ずかしい画像ではあるが、隠すようなことでもない。



「ヨルもガンバッてるんだね」



ランさんから褒められて、照れくさいやら嬉しいやらなんだか幸せな気持ちになれた。


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