第29話 ボディーガード
痴女を逮捕して休日をはさんだ登校日。
「よっ、ヒーロー」
ヨウヘーが気楽な調子で朝の挨拶をしてきた。
「うん?もう知ってるのか?」
「そりゃな。朝のニュースのメインになってたぞ」
ニュースには【お手柄男子高校生、痴女を撃退】というタイトルで報道されていたそうだ。
休日を使って、表彰を済ませた。
男性保護法のお陰で男性を特定させないために個人インタビューなどは受けなくてもよかった。
痴女を撃退できた男性としては珍しいので、ニュースになって結構な反響を呼んでいる。
SNSでは青葉高校生というところまで突き止めれていた。
名前までは出ていないが、俺を知っている人間ならば特徴を聞いただけでわかってしまうだろう。
ニュースは夜に見る派の俺は朝のニュースを見てこなかった。
「おはよう!あっヨル!危ないことしたらダメだよ!」
セイヤは教室に入ってくるなり、俺をみつけて怒ったような声で詰め寄ってくる。
「危ないことってなんだよ。危ないことなんてしてないぞ」
「ウソだ!どうせ、夜に一人で公園でも歩いていたんでしょ?」
言い当てられて俺は口を開く。
「やっぱりね。状況はわかんないけど。どうせ無警戒に散歩でもしようとして、人気の無い公園を歩いているときに痴女にあって撃退したんだとおもったよ」
「お前はなんで分かるんだ!見てたのか?」
「ハァ~ヨルの行動を予測しただけだよ。それで?本当にケガとかしてないの?」
セイヤが俺の身体をまさぐりながら、ケガがないか確認していく。
教室に来ていた女子が頬を赤らめてチラチラとこちらを見るのでやめてほしい。
イチカ、ガン見し過ぎだぞ。
「大丈夫だって、それに痴女を取り押さえたのは俺じゃねぇぞ」
「らしいね。その人がインタビュー受けてたよ」
「えっ?そうなのか?」
「うん。森多恵さんでしょ?ちょっと野暮ったい人だよね」
「俺も見た。なんだか田舎くさいって言うか……あっ……でも、方言が可愛い人だよな」
ヨウヘーは悪気なく相手をイジル癖があるようだ。
俺が咎めるような視線を向けると言葉を濁して森さんを褒めた。
「もうその話はいいだろ。それよりも母さんにボディーガードの件を伝えたから、あとは学校側から許可が下りれば護衛を付けてもらえるぞ」
「ホント?よかったよ。僕の方でも姉さんに話をしたら心配しちゃってね」
セイヤは中学時代に女性が原因で事故にあっている。
家族が心配してしまうのも仕方ないだろ。
「なら、早く安心させてやらないとな」
俺は昼休みにカオル先生に報告して、放課後には学校側から許可が下りたことを告げられる。
母さんには昨日の件をお願いしますとメッセージを送った。
仕事をしているだろうし、電話をかけるのも悪いと思ったからだ。
連絡を入れた、次の日には母さんからメッセージが返ってきていた。
「よし。母さんすぐに動いてくれたんだな」
今日の放課後にはボディーガードの人が学校に挨拶も兼ねてきてくれるそうだ。
民間企業のボディーガードと言っても、貞操概念逆転世界では女性しかその仕事についている人はいない。
だけど、戦闘訓練や男性への耐性なども訓練されているはずなので心配する必要はない。
部活のメンバーに放課後は部活に来てもらうように伝えて、顔見せをすることになった。
男子応援団の部室で待っていると、神崎先生がカオル先生と共に二人の女性を連れてやってきた。
「待たせたな。もう話は聞いていると思うが、男子応援団はSNS及びメディアで話題になっているため、学校側も事態を重く見てな。
学校内での護衛を許可することになった。
君たちはクラスも同じため、学校にいる間は二人の護衛だけが校内に入ってもらうことになる。それでは挨拶をお願いします」
神崎先生から説明を受け継いで、身長170cmに青葉高校の制服を着た女性が前に出る。
護衛ではあるが、学生や近隣住民に負担をかけないため、学校側の配慮で制服が支給されることになったそうだ。
「バルキリー警備保障会社から派遣されてやってまいりました。一等保護官、
男性を護衛させてもらうのは今回が初めてのため、至らぬ点があると思います。
配慮が足りないと感じられたときは、ハッキリとお伝え頂ければ幸いです」
キリっとした目つきにポニーテール。
女性としては高身長に引き締まった身体。
青葉高校の制服がコスプレにしか見えない。
カッコいい出来る系女性の挨拶に男子一同、固まってしまう。
「次だ!」
剣さんが、声をかけると後ろに控えて帽子で顔が見えなかった女性が前に出る。
「はっ!二等保護官をしております。森多恵であります」
カチコチに緊張した森さんが顔を上げて敬礼をする。
「えっ?」
「あっ?」
ヨウヘーとセイヤもニュースを見ていたので、森さんに気付いたようだ。
森さんは敬礼していたが、視線をチラリとこちらに向ける。
「えっうわ~メンコイミステリアス男子だべ!」
あの日の夜と同じセリフで驚きを言葉にする森さんは、やっぱり森さんだった。
スパン!
小気味いい音と共に森さんの頭を剣さんが叩いた。
「ウグッ!」
「申し訳ありません。当方の職員が不適切な発言を致しました。
彼女は昨日から入社したばかりで、まだまだ不慣れな新人なのです。
ですが、男性の護衛は我々も経験不足なため。少しでも若い彼女を今回採用させていただきました。
もしも不愉快に思われたなら、すぐに他の者と交代いたします」
神妙な顔で謝罪を口にする剣さん。
空気が一瞬で凍り付いた。
……
「ぶっあははははは」
だけど、すぐに氷塊した。
ヨウヘーが爆笑を始め、釣られるように俺やセイヤも笑っていた。
ハヤトだけは剣さんが怖いのか、ちょっと怯えた顔をしている。
「スパンって!メッチャいい音した」
「森さん。先日はお世話になりました。言葉使いも今のままで大丈夫です。それと剣さん。そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ」
俺は二人のやりとりに笑いながら声をかける。
「しかし!」
「剣さん、俺の名前は黒瀬夜です。母さんの会社の人ですよね?」
俺が問いかければ、剣さんは母さんの息子と知っていたのか頷いてくれる。
「畏まられるのもわかりますが、僕等は学生です。
ずっと緊張感を持って行動しているわけではありません」
剣さんが必要以上に緊張しているのが伝わってくる。
「青葉高校は男性に対して、免疫を持つ女性が登校しています。
そのため校内はそこまで警戒していません。
ですが、僕等はSNSで顔が知れている恐れがあるので、登下校やそれぞれが外出時に臨んだときに護衛をお願いしたいと思っています」
仲間たちが快適な学生生活を送ってくれれば俺としては問題ない。
「……ふぅ~わかりました。森、先ほどは手を上げてすまなかった」
「ふぇ?全然です。痛くなかったですから気にせんでください」
ニコニコとした森さんが、両手を振って剣さんの謝罪を受け入れた。
「剣さん。森さん。どうぞこれから僕らの護衛をよろしくお願いいたします」
二人と握手をして護衛の挨拶を終えた。
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