side母 ー 1

【黒瀬星】




ニュースsokuhou




「男子減少深刻化!10代の男女比1/30に。田舎男子不足!都会へ男を求めて集まる田舎女子。男はどこに???」





特報を伝えるアナウンサーが身振り手振りを大きく昨今のニュースを伝えていく。

最新のニュースになり、驚くような表情で大げさに読み上げていた。




「近年、男性への暴行事件が増えております。男性保護法の強化も見直されると言われておりますが、いかがなんでしょうか?SEIさん」




アナウンサーの女性に話を振られてのは、本日のコメンテーターを務める【バルキリー警備会社代表取締役 SEI】と明記された名札がテーブルにおかれた女性だった。





「近年は、男性の弱体化が進行しております。男性保護法を盾に取り、横柄になる男性。肉体的に惰性を貪る男性。女性への情痴を持たぬ男性が増えていると言えます」




男性への批判ともとれる発言にアナウンサーの情勢が冷や汗をかくような顔を見せる。




「そうなんですね。ですから、襲われる男性が増えていると?」




「はい。私達が生まれた頃は、男女比1/5ぐらいでしたので、力では男性が強いという認識がありました。ですが、私が成人を迎える頃には男女比1/10まで男性が減少しており、男性保護法も確立されていたので、そのときには弱い男性が増えていましたね」




【バルキリー警備会社代表取締役 SEI】は男性保護法を反対するかのような発言をしながらも、根本的な問題は男性の弱体化にあると主張した。




「昔のことを今持ち出しても仕方ないでしょう。今どうするかって話。わかる?」




SEIに対して、もう一人のコメンテーターが反論を口する。

対立するように二人は口論争を始めてしまう。




「今の若い男子たちを強く育てる!それしか解決はないですね」




「今の子って、あ~た。自分たちの責任を丸投げするだけじゃないですか?」




SEIの発言に食って掛かる年配のコメンテーター。




「そうではありません。私は軍務に務めた経験があります。その経験を活かして警備会社の社長をしております。彼ら男性の保護をすると同時に、鍛えることも出来ると考えているんです」




そんな年配のコメンテーターに臆することなく、自分の会社を使えば男性を強く出来ると発言を強めた。




「そんなの結局は男性に無理を強いて、弱った男性の数を減らすだけじゃないの?私は今のまま優しく保護していくしかないと思うけど。男性は守られるべき存在なのよ」




男性保護法を反対して、男性を強くすると訴えるSEI。

男性保護法を賛成して、男性を保護すると訴える年配コメンテーター。




二人の論争に戸惑うアナウンサーは話を切り替えることにした。



「男性が危険な事件が増えております。どうか男性の皆さんは不要不急な外出は避けて頂きますようお願いします。またどうしても外出される際は、新設されたメンズガードへ連絡するか、ご家族や信用できる知人との外出をお願いします」




メンズガードとは、新しく創設された男性保護法案の一種で、男性一人につき保護官をつけるというものだ。




50歳以下の男性一人につき保護官が付くということになっているが、訓練も行き届いていない状況のため、全員を対象に保護官をつけるのに至っていない。




「ますます、男がダメになるじゃない」




憤慨するSEIは、オフィスに戻って読んだ新聞をゴミ箱へ投げつけ自社ビルの窓から街を見下ろした。




「情けない。キモイ男と情けない男ばかり。本物の男なんて……もうどこにもいないわね」




ふと、デスクに映る息子と娘の写真に視線を向ける。




子供の頃は、理想の男に育てようとして、身体を鍛えさせたが中学に上がる頃には他の男性と変わらないようにナヨナヨと弱々しくなっていった。




娘から、息子がキモくなったと話を聞いて、会いに行った息子に幻滅した。



瞳には自信がなく。話せばマゴマゴとドモってハッキリ言葉も話せない。



顔と身体こそ、昔から鍛えていてそれなりに逞しくはあるが……雰囲気に覇気がまったく感じられない。




「あんた話すの下手だし。存在がキモイから外に出ない方がいいよ」




娘の言葉を理解した私は吐き捨てるように息子にキモイと言った。



悲しかった。



強い男に育てたかった。



この危ない世界で、女に組み敷かれない。



一人で生きていける力を持ってほしかった。



あの人のように……



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私が学生の頃、世の中は減少していく男性を守るための法案が政界で認めるか議題が出されていた。




男女比1/10




クラスで男子を見ないことはないが、どこかナヨナヨと情けない男ばかりで気持ち悪い存在にしか見えなかった。




あんな生き物をどうして守らなければならないのだろう?




当時は男らしさなどの意味も違っていて、今では女々しい男が男らしいと言われるが、その当時の男らしさとは雄々しい姿のことを指していた。

どこにも存在しなくなった絶滅種として、扱われる男らしさ。



弱い男との将来など考えられない私は軍へと入り己を鍛えることにした。



弱い男になど興味はない。



軍に入れば強い男に出会えるかもしれない。



そんな淡い期待は最初の一年で打ち砕かれた。



まず、軍に男性がいない。



厳しい訓練。

鍛え強くなる肉体。

ハードなカリキュラム。



それに耐えられる男性がいないため、すでに軍へ男性の入団は認められなくなっていた。

また、男性もそんな辛いことはしたくないと男性保護法案を受け入れる姿勢を示していた。



あまりにも自国の男性が弱いことに失望した私は海外へ出て強い男性を求めた。



そこで出会ったのが彼だった……



ワッカ・ワグナー



歳は私よりも30以上も年上だった。



だけど、私は彼の魅力にすぐに落ちた。



日系の黒髪にアメシストを思わせる紫の瞳。

日に焼けた褐色の肌。太い腕や彫りの深い顔立ち。



男らしいとは彼のためにある言葉だと思えた。



海外に出たばかりの私は、片言の言葉で彼を口説いた。



年下の小娘の言う言葉を、彼は真剣に聞いてくれた。

一夜の相手ならばと応じてくれた。




酒を飲み、肉を食べ、二人でベッドへダイブする。



初めてだった私は戸惑ったが、年上の彼に導かれるように全てを委ねた。



これこそが私の望む男だと、心の底から思えた。




彼も私のことを気に入ってくれたのか、二人の子を授かるまで可愛がってくれた……



だけど、別れは突然にやってくるものだ……



彼は突然の心臓発作により命を落とした。



私は彼が授けてくれた二人の子を育てるために母国へ帰り、軍を辞めて会社を興した。



軍時代の同僚が協力してくれたこともあり、二人で立ち上げた会社は順調に成功を納めた。



成長していく我が息子が彼のようになってくれるように、私なりに厳しく育てた。



それなのに彼は私の思惑とは別に軟弱な弱々しい男へと成長を遂げてしまった。




あの人の面影を感じられない息子をいつの間にか避けるようになっていった。



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あとがき



第二章 序章です。

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