第24話 水泳大会決起会

セイヤと話した次の日、気持ちはどこか晴れやかな気分だった。




自分が今まで抱えてきた気持ちを吐き出すことが、こんなにも気持ちを落ち着けてくれると知らなかった。




ユウナには昨日も、【おやすみ。明日は頑張って】とメッセージを送った。




ユウナからも【おやすみ】とだけ帰ってきた。




きっと二人の距離はどこかで開いてしまったけれど。

俺にとってはユウナは大切な幼馴染であることに変わりはない。




「ヨル。いける?」




ユニフォームを纏ったセイヤが問いかけてくる。




「ああ、問題ない」




本日のユニフォームは、水泳部に合わせて。




ラッシュガードと膝までの短パン水着、ビーチサンダルに麦わら帽子だ。

応援団の団員はそれぞれのテーマカラーに合わせてラッシュガードが用意されていた。




「なんで、俺は紫?黒じゃないのか?」




「う~ん。紫の方がイメージにピッタリだよ。それにヨルの瞳って黒いけど。光の加減によって紫に見えるときがあるんだよ」




「そうなのか?」




セイヤは白

ヨウヘーは緑

ハヤトは赤

俺は紫




四色のラッシュガードで水泳部の前に立つ。




「青葉高校水泳部の皆さん!本日は我々男子応援団が精一杯!皆さんの応援をさせて頂きます」




先頭に立って声を張り上げたのはハヤトだ。




普段、話すことのないハヤトが一番に水泳部に発破をかける。




前に出れないハヤトの性格を変えるためには、ハヤト自身が前に立って自信をつける必要がある。




「団長!!!押忍、お願いします!!!」



ハヤトに呼ばれて前に出る。



「押忍!団長の黒瀬夜です。今から青葉高校水泳部のあなたに伝えたい言葉があります!」




俺は前口上を伝えるため一人一人の顔を見る。



「あなたは青葉高校水泳部に入り、日々苦しく厳しい練習に耐えてきました。



世界を経験した監督、コーチの下で素晴らしい指導を受け。



次世代の世界スイマーとして、夢を持ち、そしてこの場に立つことが許された。



選ばれた存在です。あなたたちは強い。



強いと言える練習に耐え、選ばれたあなた方は負けない」





一旦、言葉を切ってそれぞれに拳を突き出して一人一人を見つめる。

ユウナと目があった時、ユウナはサプライズに驚いた顔をしていた。





「三年生  部長  水無瀬 雫さん!!!」





俺が名を呼ぶと淡い紫の色の髪をした美女が一歩前に出る。





「はい!」





ハッキリとした声に頷き返す。





「あなたのリーダーシップがあったから!



部員はついてこれることが出来ました!!



あなたは誰よりも強い!速い!!負けない!!!



あなたが負けなれば他の選手たちは勝ち続ける。



僕らはあなたを信じて応援させていただきます!!!!」




俺が声をかけると水無瀬先輩の瞳に涙が滲む。




「私は絶対に負けません」




俺はセイヤを見る。



セイヤが俺に代わって前に出る。




「三年生  副部長 」




俺に続いて、セイヤ、ハヤトが他の選手たちを鼓舞していく。




今回、男子応援団に応援依頼をしてくれたのは水無瀬部長だった。

部長やコーチから部員一人一人の情報を聞いて、声をかけていく。

何を頑張り、どうして選手として認められたのか応援団から伝えられる。





「一年生 青柳悠奈さん」





俺がユウナの名を呼ぶ。




ユウナは驚いた顔で俺の顔を見ていた。




「幼馴染として、言わせてもらうぞ」




俺はユウナだけを見て、ユウナに語り掛けるように声を出す。




「アオヤギ ユウナ!



あなたは小学生の頃から水泳を始めて、誰よりも長く水の中で過ごしてきました。



今では才能が認められて高校でレギュラーを勝ちとるほど努力をしてきました。



その全てのガンバリがユウナの力だ。



ずっと応援していたよ。



ガンバレ!ユウナ!!!」




俺は笑顔で拳を突き出し、ユウナを応援した。



ユウナはしばらく呆然としていたが、涙を流して下がっていく。




「これより!応援団によるダンスと応援歌を歌わせていただきます」




準備していたヨウヘーがパソコンを操作してスピーカーから音楽が流れ始める。



大太鼓の腹に響く重低音から始まり、和太鼓の軽快な音が響き始める。



最初は四人によるソーラン節だ。




息を合わせて踊り「ソーランソーラン」と女子たちをゴールから引き寄せる演出をする。

ニシンを引き寄せる代わりに、彼女たちを引っ張ってゴールへ引き寄せる気持ちを込めた。




ダンスが終わると、ヨウヘー作曲の応援歌を披露する。




大太鼓と和太鼓のリズムが代わり、メロディーが追加される。




「いけよーいけよー青葉!いけよーいけよー青葉」




空手の正拳突きや蹴りなどを組み合わせた創作ダンスをnewtubeで検索して組み合わせた。




俺を中心に左右にセイヤとハヤトが同じ動きで声を出しながら踊る。




ヨウヘーは曲に合わせてシンセサイザーを操作する。




最後の決めポーズとして拳を突き出して水泳部の女子たち一人一人に目線を合わせた。




「押忍!大会の間はしっかり声を出して応援させていただきます!頑張ってください」




最後の挨拶を終えて俺たちは退場した。






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