第19話 顧問探し

赤井は保留になったが、緑埜が部活に参加してくれることになり、部員三名を確保できた。



次は顧問決めをしないといけないが、顧問をしてくれる教師に心当たりもない。



職員室では女性教師がほとんどで男性教師を見つけることが出来なかった。

男子応援団なので、出来れば男性の先生にお願いしたい。

誰かいないかと、担任である神崎椿先生を見つけることが出来たので質問をした。



「それで私のところに来たのか?」



「はい。部活を発足したいので、顧問をしていただける先生がいないかと思いまして」



「部活ね~何をするつもりなんだ?」



「男子応援団です」



「男子応援団?その名だと、男子だけの部活なのか?本当に大丈夫か?」



応援団についての質問ではなく。

男子だけというところに疑問をもたれたようだ。



「えっと、女性を応援する部活を作ろうと思ったんです。それに完全予約制で取捨選択も取り入れようと思っています」



「取捨選択?うむ。男子側が応援したい相手を選ぶということか……悪くないかもしれないな」



詳しい内容を説明しなくても理解してくれたことが意外だった。



「なんだ驚いた顔をして、これでも教師だからな。生徒が考えそうなことは一応予測しているんだ。まぁ男子から持ち出された案ではなく。女子からそんな案が出たことがあったからわかったんだけどな」



俺と同じような考えを持った女子がいたようだ。



「ふむ。女子を応援するのか……方法はどのように考えているんだ?」



「いくつかあるんですが、例えば、運動系の部活ならユニフォームを着て大きな声で応援をします。応援歌とか振り付けなども作ろうかと」



「チア部のようなものか?」



「そうですね。ただ、振り付けや応援歌はちょっと違いますが」



「そうか、それで?いくつかと言ったが他には?」



俺の提案を聞いて先生は紙に書き留めていく。

先生は真面目に話を聞いてくれている。



「個人的な応援も考えています」



「個人的?」



「はい。もしよかったら先生を応援する相手として、実践してみてもいいですか?」



「実践?何をするつもりだ?」



疑うような先生の後ろへと回り込む。



「すいません。少し触れますね」



「なっ!」



俺は先生の肩に手を置く。

ゆっくり固さを確かめるように軽くもみ始めて、凝った硬い筋肉を見つけて手のひらで圧をかける。



「ハゥッ!」



「痛かったですか?」



「あっいや!ハァ~いい」



先生から艶めかしい声が響き始める。

マッサージはヨルが小学生の頃から母親を相手に手ほどきを受けてきた。



「先生の疲れてるところあってますか?」



とりあえず柔らかくなるまで続けてみる。

15分ほど続けていると肩が柔らかくなってきたので、頭を抱きかかえて首をほぐしていく。



「なっはっうっああいい。はぁは」



10分ほど続けていると随分と指に当たる筋肉の張りが柔らかくなってきた。



「はい。終わりです」



先生から離れて正面に戻る。



なぜか、職員室の先生達が全員総立ちでこちらを見ていた。

他の先生たちも疲れているのかな?マッサージをしてほしいのかもしれない。



「ふぅ~……いい……はっ!」



先生は首や肩をゆっくりと動かして呆然とした後。

意識を取り戻したように焦点が定まる。



「先生?」



「黒瀬……これは応援団が設立されたら、予約制でしてもらえるのか?」



「えっ?まぁそうですね」



「わかった。私が顧問をやろう」



決意が込められた瞳で宣言する。



「いえ、私が」「私がなります」「私にならせてください」



他の先生達が挙手して名乗り出てくれる。



「先生。皆さん。ご厚意ありがとうございます」



まずは丁寧にお礼を口にして頭を下げる。

先生達は満更でもない様子で、互いにけん制し合う視線をぶつけ合う。



「ですが、すみません。男子だけの部活にしようと思っているので、出来れば男性の先生にお願いしたいんです」



俺が謝罪とお断りを口にした瞬間。

全ての先生が落胆したのか、全員着席してしまった。



「そっそうか、うーん。男性教師は青葉高校に二人いるんだが、一人はスポーツ科の先生なんだ。忙しい方でね。だから、もう一人を紹介しようと思うがいいか?」



別にやってくれるならどちらでも問題ない。



「はい。よろしくお願いします」



「ああ。それじゃ行こうか」



男性教師は、職員室にはいないそうだ。



神崎先生に連れられて、たどり着いたのは保健室だった。



「失礼します」



先生がノックして扉を開くと、白衣を纏った保健室の先生が座っていた。



「椿ちゃん。いらっしゃい。あれ?男子生徒?もっもしかして密会?僕出て行こうか?」



優しそうな雰囲気の男性先生は、慌てながらもとんでもないことを口にしている。



「ええい、うるさい。落ち着け。昼間から密会などするか!」



「えっ違うの?男っ気のない椿ちゃんが男子生徒を保健室に連れ込む理由なんて他にあるの?」



「お前は、私をなんだと思ってんるんだ!」



「えっ!こんなところでそんなこと聞くの……うーん。あっ愛してるよ」



突然始まった漫才に取り残されてしまう。

いきなり愛の告白が始まって、居心地が悪い。



「本当にやめい!黒瀬!こういう奴だが、本当にいいか?」



「えっえっ?」



「うん?どういうこと?」



いきなり話を振られても、なんて答えていいのかわからない。

保健室の先生も戸惑っている。



「こいつの名は神崎薫カンザキカオル、養護教諭ではあるが教師の資格を持っているから顧問も出来る。一応、私の夫だ」



「先生の旦那さん!」



「旦那さんだなんて。えへへ。えっと、君は黒瀬君だよね」



「どうして俺のこと?」



学校に入学してから一度も保健室に来たことなどない。



「君はある意味有名だからね。椿ちゃんが担任をしているクラスの子だよね。椿ちゃんから話を聞いてるよ」



「話を聞いてる?」



「うん。僕等は一緒に暮らしているからね」



貞操概念逆転世界は男性が少なく貴重なため、男性は多くの女性を妻に取るので、

女性同士が揉めることがないように通い婚になることがほとんどだ。



「先生は、女性を一人だけ選んだんですか?」



「そうだね。今、事情を話す気はないけど。そういう選択もあるってことだよ」



保健の先生が椿先生を見て微笑んでいる。

二人は良き理解者としての道を選んで上手くいっているようだ。



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改めて、保健室で椅子に座り事情を話した。

神崎椿先生は紹介したからと言って、職員室へ戻っていった。



「なるほど。男性だけの部活を作りたいんだね。顧問も男性がよくて、それで僕のところに」



「はい」



「全然いいよ。僕、いつもここにいるだけで結構ヒマだったからね」



承諾してくれた神崎薫先生は、優しくほっこりするタイプの先生だった。



「大人の男性と会うのは初めてです」



「大人の男?僕が?あははは。う~ん、椿ちゃんにはいつも頼りないって言われてるよ。でも、そうだね。男の悩みを聞いてあげることは出来るかな」



「応援団は女性と仲良くなるために作りたいんです。神崎先生さえ良ければ恋愛相談とかもさせてもらえると嬉しいです」



「僕そういうの大好きだよ。それと、椿ちゃんと同じ神崎だからね。僕のことはカオル先生って呼んでくれていいよ。ややこしいからね。それに男の子の生徒が保健室に来るのって体調悪くなるときだけだから。こうやって話が出来るって楽しいね」



親しみやすく接しやすい先生と話している間に昼休みが終わってしまった。

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