第9話 女子大生と街デート
ゴールデンウィークに入り、誰とも約束のない俺は街をブラブラすることにした。
トレーニングしようかと思ったけれど。
入学前からトレーニングと高校デビューの準備に明け暮れていたので、転生してから街をゆっくりと歩いていないことに気づいた。
季節の変わり目に入り、春物から夏物へとショーウィンドーケース内が変わり始める頃。某有名な全世界チェーン展開しているシンプルな服装に身を包むのも味気ないかと考えたのだ。
「ツキが一緒だったら街の案内を頼めたのに。今日は生徒会の用事があるとかで、朝早くから出かけていったから仕方ないな」
妹のツキは学校。
幼馴染みのユウナは部活。
新しく出来た友人であるセイヤはゴールデンウィーク前から病院で検査入院。
なので遊ぶ相手が誰もいない。
そこで!俺は思いついた。
【貞操概念逆転世界鉄板ネタ!男子が一人で歩けば、女性がナンパしてくる!】
よくあるナンパ男の逆バージョンを体験したい。
軽いノリの女性が、男が一人のところを狙って身体目的でナンパしてくるあれだよあれ。
確かにクラスメイトの女子たちは、俺を避けているかもしれない。
だけど、街に出れば大人の女性たちがたくさん歩いているではないか!!!
どこを見ても女性!女性!!女性!!!
もちろん、ここで童貞男子丸出しで物色するようにギラついた目で女性を見れば絶対にキモいと思われてしまう。
そこでウィンドーショッピングをしながら鏡越しに女性を物色する。
ナンパしてくれそうな女性がいたらそれとなく近づく。
【完璧な作戦だ】
………
………………………
……………………………………………………………
なぜ?
なぜ、誰も声をかけて来ない?
俺が不細工だからか?いや、最近はスキンケアを怠ってはいない。
髪も入念にセットしてきたし、衣装もシンプルではある。
無難ではあるが、ダサいというほどでもないはずだ。
ショーウィンドに写る自分の姿を見ても悪いとは思わない。
むしろ、引き締まった身体。にシンプルな服がマッチしている。
顔も元の病人ゾンビ顔よりは数段よくなった。
なぜ?なぜ、誰も声をかけない?
鏡から反射で街ゆく女性を見れば俺を見ている視線。
しかし、振り返ると一斉に女性たちは視線を逸らしていく。
解せぬ!
「えっと……ヨル?であってる?」
声をかけてくれた女性がいた。
俺は嬉々として情勢を見れば、ポニーテールにハイウエストのヘソ出し衣装。
ジーパンがよく似合うモデル体型の相馬蘭さんが立っていた。
ランニングウェアとは違うランさんは本当にモデルのような姿で綺麗だ。
「ランさん。お久しぶりです」
ランさんとはキモいと言われた日から会っていないので、久しぶりだ。
アドバイスだとわかっていたが、あの日からなんだか邪な気持ちがバレてしまったような気がして、あの場所で走ることを躊躇ってしまった。
それ以来なので二か月ぶりくらしになる。
「ほっ本当にヨル……なんだよね」
ランさんは戸惑ったような、困惑した様子でじっくりと俺を見てくる。
女性としては、身長の高いランさんは170センチ近くあるのだが、180センチを超えた俺からは小さく見える。
「随分と変わったのね」
「そうですか?結構ガンバッたつもりですけど。変わったと言われたのは初めてなのであんまり実感がないんです」
女性の意見を聞きたいと思っても……
中学生になってからは、ツキからはキモいと言われ。
ユウナとはメッセージのやりとりはあるものの、なんとなく疎遠になってしまった。
クラスメイトの女子とは未だに話すこともまともに出来ていない。
「……そう。うん。かっこよくなったよ。ガンバッたね」
倉峰とは違う。大人の女性の余裕がランさんにはある。
今思うと、倉峰は異性と話すために背伸びをしていたのだろう。
女性経験が少ない俺では判断出来ないが、ランさんを見ているとそんな風に思えた。
「今日はこんなところで何してるの?」
ランさんから素朴な疑問。実はナンパ待ちしてましたとは絶対に言えません!
「夏物の服でも見ようと思って出てきたんですけど。男物の服がどこに売ってるのかわからなくて探していたんです。実は今まではネットで買っていたので、お店の場所を知らなくて」
恥ずかしそうに話すとランさんは考える素振りをした後。
「よし。なら、ヨル。今日は私とデートしましょう。男物の服が売ってるところを教えてあげる」
「えっ?いいんですか?ランさんも何か予定があったんじゃ?」
ランさんほどの綺麗な人は、街ゆく人の中でも珍しいレベルである。
「ううん。今日は私も練習がOFFになったから、ちょっと気分転換に街に出てきて目的がないの」
軽いノリのお姉様にナンパされることはなかったが、超絶美女であるランさんとデートが出来るなら、むしろ目的達成したと言える。
「じゃあ、お願いします」
それからは夢のような時間だった。
女性と二人で出かけるなど、前世と今世合わせても初めてのことだ。
もちろん、家族とのお出かけはカウントしていないぜ。
「あの日から、本当に久しぶりね」
キモいと言われた日から努力する日々に切り替えた。
俺は高校に入り、ランさんは大学で一年生ながら駅伝選手に選ばれ、テレビなどでにも取り上げられたりしていたそうだ。
そのルックスと駅伝の実力で人気になり、今ではモデルの仕事をやったりもする。
大学に入学して一ヶ月ほどなのに、ランさんは凄い人だった。
「ごめんごめん。私ばっかり話してるね」
お店までの道案内をしてくれる間に、ランさんの近況を聞いていた。
話を聞くことが楽しくて時間があっという間にすぎてしまう。
「いえ、むしろランさんのことが知れて嬉しいです。それに本当にいいんですか?」
案内してもらった洋服屋さんは結構高かった。
男性用の服は作り手が少なく。一つ一つかなりの値段がするそうだ。
どうしようかと悩んでいるとランさんが服を数着選んで購入してしまった。
「いいのいいの。ただし、その服を来たところを見せるのは私が一番ね」
そう言ってプレゼントされてしまった。
男性が女性へ贈り物をするノリなのかな?恐縮してしまうが、ショップの店員さんも当たり前のように対応していた。
今はランさんが購入しくれたコーディネートに着替えて、オシャレなカフェにやってきた。
「今日は本当にありがとうございます。お店を教えてもらっただけでなく、プレゼントまでしてもらっちゃって」
「もうそれは良いって言ったでしょ。大学生だけど、私稼いでるから」
モデルはそれなりにお金になるそうだ。
「今度は、俺が出しますから食事でも奢らせてください!」
どうにも女性に奢ってもらうという状況に慣れない。
だからこそ、これを口実に俺は次のデートの約束をする。
「今度?えっ、うーん。仕方ないなぁ~ヨルがそこまで言うならいいよ。じゃあ連絡先を交換しようか?」
「はい!」
よし!ランさんの連絡をゲットしたぞ。
これで家族と幼馴染以外で初めて異性の連絡先をゲット出来た。
「そろそろ行こうか?」
日が沈みかけた街の風景にランさんから別れを告げられる。
ここまで順調に話すことが出来た。
「ランさん。次も会えますよね?」
欲が出てしまう。
「……まぁ、うん。いいよ。またね」
そういうとランさんは去って行く。
貞操概念逆転世界でだって、相手からばかり求められるのではなく。
俺から求めてもいいよな?
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