side妹ー3 イタズラ

【黒瀬月】



兄が中学三年を卒業したことで、私は一つの区切りを終えたと安堵してしまっていた。自分の詰めの甘さと、兄の素晴らしさを忘れていた。



卒業式の後から兄がネットで買い物をしているのは知っていた。

ただ、引きこもって買い物をするだけならば、外に出るわけではないので問題ないと思っていた。



それは、高校入学式の日。



私が生徒会業務があり、中学校から帰ると兄が久しぶりにリビングのソファーで眠りについていたのだ。



久しぶりに会う兄に私は言葉を失ってしまう。



引きこもってしまった兄は夕食も独自の食事を取っていていらないと言うので顔を合わせることがなかった。

朝も私が登校している間に活動しているようで、生で兄を見るのは本当に久しぶりなのだ。



「お兄?」



私は寝ている兄に恐る恐る近づいていく。


静かに寝息を立てる兄は



美しかった。



中学時代はボサボサの髪。

陰のある表情の無い顔色。

お世辞にもオシャレと言えない服装。



身体こそ鍛えられていたが、くたびれた老け顔な男性だった。



そう……私はそれでも兄は完璧だと思っていた。



だが、今目の前にいる存在はいったいどう表現すればいいのか?



身長が伸びたことは知っていた。



ソファーからはみ出る足。

シャツが捲れて見える六つに割れた腹筋。

兄が体勢を変えることで見えるパンツ。



兄の身体や雰囲気は更にエロさを増していた。



それだけでは飽き足らず、いつの間に切ったのか……短くなった髪は元々のユルフワパーマのようにオシャレなウェーブがかかり。

老けて陰の射していた顔は、白く綺麗な肌艶の良い整った顔が出来上がっていた。



元々は、男らしくむさ苦しさを併せ持っていた兄。



しかし、今の目の前の存在は清潔感とオシャレ感を醸し出しながらも、元々持ち合わせていた男らしい色気が溢れんばかりに放出されている。



「ぐっ!」



私は耐えられずに鼻を抑える。


見続けていれば鼻血が出てしまう。


それでも眼球は兄の寝姿を見たいと、強引に視線を兄へと向けてしまう。



「ハァーハァーハァー」



これはいけないことだ。


だって兄と私は血のつながった兄妹なのだ。


こんなことはしてはいけない。


そう思いながら……私の指は……兄の腹筋へと伸ばされる。



つん



つんつんつん



つんつんつんつんつんつんつんつん




「んんっ」



ビクッ!!!



私は急いで距離を取った。


夢中で兄の腹筋へ指をつんつんしてしまっていた。


兄が起きてしまうかもしれない。



しばらく息を潜めて兄が起きないか確認する。


どうやら兄は相当に疲れているようで、まだ起きない。



「わっ私は何を……でも……」



唾を飲み込んで兄を見れば、腹筋は服によって隠されていた。


残念に思いながらも、気持ちを落ち着けることが出来た。


もう大丈夫だと思って兄の顔を眺める。


久しぶりに会う兄はやっぱりカッコ良すぎる。

そのレベルはこの数週間で格段に精錬され。

会わなかったことで、兄成分の不足していた私を引き寄せる。



「はっ!」



気が付けば、私は兄の顔を見つめるうちに近づいてしまっていた。


あと数センチ近づけばキスが出来てしまう。

兄の綺麗な頬に私の唇が触れる。


もしも、兄の唇と私の唇が触れ合えば……考えてしまえばしたくなってしまう。



「に、兄さん!寝てる?本当に寝てるよね?」



耳元で囁くように、本当に小さな声で起きていないか確認する。



私の息がかかったのか、兄はくすぐったそうに体を震わせる。



可愛い……もう一度したい。だけど、起きてしまったらと思うともったいない。



意を決して、私は立ち上がって兄の唇へ。



自分の唇を近づけていく。



垂れ落ちる髪をかき上げ抑えながら、沈みゆく夕日に照らされ私の影が伸びていく。



あと数センチで兄の唇へ……





ーー----------------------




兄が起き上がる。



すっかりと日が沈み、夜になっていた。



「あれ?俺寝てたんだ。ツキ、おかえり」



見た目だけでなく、口調も落ち着いた声。

キモイと責める要素が無くなっていた。



「たっただいま」



私の方がドモってしまった。

バレていないだろうか?気が気ではない私の顔は見る見る赤くなる。



兄をマトモに見ることが出来ない。



「そろそろご飯かな?今日は俺が作るよ。一緒に食べよ」



兄はそれまで料理などしたことがないはずなのに、手際よくチャーハンを作り出した。



「はい。食べよ」



買い物も行ってきたのかな?見たことのないインスタントのわかめスープを付けて食卓に並べられる。



「……お兄。ご飯作れたの?」


「ううん。newtubeで見た」



私がいないお昼や朝に作っていたのかな?初めて見る兄の料理。



「お兄の料理……」


「いやだった?」



嫌なはずがない。

涙が出そうなほど嬉しい。

だけど、まだ胸がドキドキして頭が追いつかない。



「ううん。食べる」



私は席についてチャーハンを食べた。


ちょっとしょっぱいけど。


味付けのせいなのか、大量に流れる汗が混ざっているのかわからない。






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