side妹ー2 兄 防衛線
【黒瀬月】
私はすぐに行動に出た。
幼馴染であり、姉的存在の青柳悠奈に相談を持ち掛けたのだ。
兄とクラスこそ違うが、同じ中学に進学しているユウナに協力してもらおうと思ったからだ。
「ユウ姉、お兄のカッコ良さがトドまることを知らなさ過ぎだよ!」
ユウ姉の家へとやってきた私は兄の素晴らしさを語った。
明日は休みなので、二人でパジャマ会だ。
そんな私の語りを聞いたユウ姉は……
「分かる!分かるよ。ツキちゃん。ヨルはヤバい!
何がヤバいって。
中学生であのエロさだよね。
大人っぽい容姿。
小学生時代から鍛えられた身体。
話すのが苦手なせいで寡黙でクールな雰囲気。
全部がエロい!」
思春期の女子二人が、身近な異性について語り合えばこうなる。
それが兄ならば仕方ない。二人で何度も頷いた。
「中学生になって、ますます大人っぽくなったよね。
私も幼馴染だから毎日のように紹介してって周りの子たちに言われてるよ」
やっぱり兄のことを相談するのは、ユウ姉で正解だった。
紹介してくれと言っている女子たちの防波堤になってくれている。
「まだクラスの女子もお兄に声はかけていないんだよね?」
私は潜入して得た情報をユウ姉に報告する。
「あ~あれはね。ヨルが自己紹介のとき。恥ずかしくて話せなかったんだって。
小さい声で名前を言って座ったことから、周りの女子はヨルの容姿と話さない寡黙さに、尊い存在として扱うようになったんだよ」
自己紹介を恥ずかしがる兄の姿を想像して可愛いと思う。
その姿を見たクラスメイトの目を潰してやりたいほどの嫉妬を覚えてしまう。
同じクラスの男子生徒は、堂々とした態度に見える兄の姿を見て、自分とは違う存在だと感じて兄に話しかけられなくなったようだ。
「やっぱり間違ってなかった。
潜入したときに、クラスの女子数名が恥ずかしそうにお兄を見ていたからね。だからね……」
私は推測が当たっていたことを確信して、ユウ姉に兄を守る方法を提案した。
「ヨルにキモイって言う?」
「そう。お兄は話すのが下手で他の子たちから情報を得ることがないでしょ。
そこで、お兄はキモイから他の女子から避けられてるから話しかけちゃダメって言えばいいんだよ」
キモイというのは私だけでもいい。
だけど、兄から話しかけなくても女子から話しかけてしまえば、計画が破綻するかもしれない。
そこでユウ姉には、裏から【お兄に話しかけない協定】を作ってもらう。
尊い存在。お近づきになれない高嶺の華として兄の偶像を作り上げるのだ。
そうすることで兄に近づく女共を牽制する。
「なるほどね……ツキちゃん。あんた……天才だね!
そうすれば、私とツキちゃんだけがヨルを独占できるじゃん!」
私一人では兄を守ることはできない。
ユウ姉とは幼いときから一緒だから、ユウ姉なら兄を分けてもかまわない。
「一年後に私が入学したら協力するね」
「よし、それまでの一年は任せて」
私とユウ姉の二人は兄を守るため防衛線を張ることにした。
中学に入学した私はすぐに生徒会に入り権力を掌握した。
ユウ姉は中学一年から全国水泳大会で優勝するほどの成績を納めていたので、スポーツ部連を使って一年間は兄に近づく女子を牽制してくれたようだ。
こうして、兄が卒業するまでの間。
二人で兄を守り通した。
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中学三年の冬までの兄は……中学時代に友人が作れなかったことで、私達に依存すると思っていたけど。私達に対しても話すのがますます苦手になり、自分の世界に引き込むようになった。
だけど、中学三年の冬。
受験も終わったことで気が抜けたのか、兄が久しぶりに「えっと、ツッツキ。たっただいま」と言って帰ってきた。
ここ一年、兄が話す声など聴いていなかった私は驚いてしまった。
「えっ?お兄?おかえり……なさい」
驚いて私まで言葉を詰まらせてしまう。
「ドっドモるとかマジキモイ」
焦った私は言うつもりのない言葉で兄にキモイと言ってしまう。
でも、言ってしまったことは仕方ない。
作戦を決行するために、ユウ姉にも兄が久しぶりに話しかけてきたことを相談した。
兄は、学校に行かなくても良くなったことでちょっと明るくなった。
それまで部屋に引きこもっていたのに、最近はジョギングや筋トレを再開したようだ。
部屋でも運動は続けていたようで、体は引き締まったままだった。
だんだんと明るくなっていく兄に私は焦った。
このままでは明るくなった兄が別の女に取られてしまうかもしれない。
ユウ姉や母からもキモイと言ってもらうようにお願いした。
二人が伝えてくれると兄は悲しそうな顔をして、また話す言葉が減ってしまった。
私は罪悪感を感じながらも、兄を守るためだと自分に言い聞かせる。
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兄の卒業式
生徒会長として、兄やユウ姉を送り出すため、在校生代表として演説をした。
卒業式が終わると、生徒会メンバーや協力してくれた子達と共に後片付けを早々に済ませて、兄たちに合流しようとグラウンドへ向かう。
そこでは兄のクラスメイトや先生が兄と共に集合写真を撮っていた。
これまで兄と共に写真に写ることが出来なかったクラスメイトたちは、涙を流して喜んでいた。
兄も嬉しそうにしているので、中学時代の思い出を邪魔することはできない。
「お兄。帰るよ」
写真を撮り終えて、一人で立っていた兄に声をかける。
兄は何かを考えるような仕草をすると、私の頭へ手を伸ばして撫で始めた。
「なっ!ちょっ!そういうのは外でしないで!」
嬉しさと恥ずかしさで頭が一気に沸騰する。
兄の元クラスメイトたちから、憎悪にも似た嫉妬を含んだ視線が痛い。
兄が視線を向ければ、全力で視線を逸らしていたけど。
彼女たちには悪いことをしたと思うが、これも兄を守るためだ。
こうして、私は中学時代の兄を守り切った。
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