第102話
ルミナスはここ一年で起こった激動の日々を振り返りながら、ティナの背で揺られていた。
魔王城から帰還してからこちらにやって来た当初のような生活を続けていた。毎日のように頭痛、腹痛に悩まされ脱水症状や貧血、熱中症にもしょっちゅうなり、風邪を引いたり熱出したり。
そんな病気との戦いを繰り返している中で思い出した一年は、やはり面白愉快な日々で。今こうしてここに在ることが奇跡とさえ言えるくらいの出来事ばかりだったように思う。
一人思い出に浸るのもよいだろうが、ルミナスは背中の上でティナに問いかけた。
「なあ、ティナ」
「はい、何でしょうか、ルミナス様」
「もう俺たちが出会って一年近くだが、色々あったよな」
「はい……本当に色々なことがありました」
ルミナスの言葉を聞いて、どこか感慨深げに瞳を閉じ、前を向きなおすティナ。ちょうどルミナスの部屋が見え始め、ルミナスを振り返ったティナ笑顔を浮かべて言う。
「本当に楽しく、斬新で、宝物のような一年でした。改めて、感謝させてください」
「感謝されるようなこと、した覚えはないんだけどな……まあ、光栄に思っておくと良いわ。この、ルミナス・フレイアと出会い共に過ごした一年を。そして、これからも時を共に過ごせる幸運を」
「はい、大変恐悦至極にございます」
微笑から放たれたルミナス口調での言葉は、ティナだけでなくちょうど通りかかったネオンも耳にしていたようだ。二人の会話に割って入って来た。
「ルミナス様、ティナ先輩、こんにちは。思い出語りですか?」
「ネオン、お疲れ様です」
「ええ、ご苦労様。そうよ、一緒にどう? あなたのお茶菓子があると、さらに話が盛り上がりそうな気もするけれど」
「そう言うことなら、お茶と一緒に、キアラやミティム先輩にもお声をかけておきますね。それでは」
「ええ、よろしく」
嬉しそうにそう言い残し、去っていくネオンの背中を見送りながらルミナスたちは部屋へと入っていく。
ティナがルミナスをベッドに寝かした。
「それでは、私はネオンたち用の椅子を持って参りますね」
「ええ、お願い」
「はい。安静にしてお待ちください。それでは」
そう言って綺麗にカーテシーしたティナは、静かに扉を開けて退出する。ルミナスはそれを微笑で見送り、ティナが出て行った後で静かに天井を見上げた。
その右手を上に掲げて、手のひらを見つめるように、一直線に瞳を向ける。
「一年、か……本当に色んなことがあったよな。結局、終始皆を騙すみたいなことになっちゃったけど、これで良いんだよな。無理をする必要はないかもしれない。それでも俺は、ルミナスでいたいと思えた」
愛するキャラクターで、愛する仲間たちと共に。
そんな宝なもののような日々を思い返せば、到底忘れられないような思い出に溢れていた。
「これから先も、ずっと……少なからずあいつらが飽きるまで、このままで――」
ゆっくりと右手を降ろし、瞳を閉じる。瞼の裏に映るのは、ルミナスや、ルミナスが登場したゲームのキャラクターたち。楽しそうに笑うルミナスと、その仲間たち。そして、段々と移り変わり、ルミナスを囲むその人影。ティナにネオン、キアラ、ミティム。魔王や
この世界で出会った、大切な仲間たちに。
「俺は、ルミナス・フレイアであり続ける。それを、望んでいるんだ」
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