第60話

  温泉旅行五日目。ルミナスは復活した。


「あと三日、せめて温泉くらいは最大限楽しんでから帰りたいわ」

「そうですね。私が誠心誠意お手伝いいたします」


 今日の当番はネオン。本当ならばミティムの予定だったが、彼女が旅館の庭園に植えられている植物に興味を持ってしまい、その庭園を管理している人の都合が今日しか空いていないというのでミティムは今日を逃すわけにはいかず、ネオンと交代することにしたようだ。


「じゃあ、わたくしは温泉に入りに行くけれど、ネオンも一緒に入る?」

「ぜひともお供させていただきます」


 ネオンの顔は、輝いていた。ルミナスの口元は、引きつっていた。


 五日目の昼頃、相変わらず貸し切り状態の温泉でルミナスとルミナスの背中を流すネオンの姿があった。


「ルミナス様のお肌は綺麗ですね。毛穴一つありません」

「そ、それは大げさでなくて? と、というかくすぐったいわね」

「ご容赦ください。私もルミナス様のお背中を流すのは初めてですので。これから精進していきます」

「え、えっと、そう何度も背中を流してもらうつもりはないからね?」


 ネオンはルミナスの背中を流す、と言いつつペタペタと触り感触を確かめていた。それをルミナスはくすぐったそうにしながらも何とか堪える。


(こ、ここで変な声を上げてみろ。恥ずかしいってもんじゃない。それに、仮に、一応元は男だ。多少変なことをされても女湯に入っている男子以上に罪深いものはいない。今は耐える時だ、ルミナス・フレイア)


 などと決意を固めた彼の理性は強く、ネオンが満足するまで何とか堪え切った。が、そのあとに待っていたのはルミナスの長い髪の毛の手入れだった。


「ルミナス様の髪はとても綺麗ですからね。普段お風呂に入らない分、今日はしっかりとお手入れさせていただきます」

「……任せるわ」


 実のところ、ルミナスはもう限界だった。ルミナスたちは今屋内にいる。露天風呂とは違い空は見えないが、もちろん温泉はある。露天風呂へと続く扉は占められており、密封された空間だ。そこにはもちろん湯気がたまり、温度が上がる。

 結論から述べよう。ルミナスは湯気だけでのぼせたのだ。しかしこれも仕方のないことだ。背中を流し終え、髪の手入れを始めてからからしばらく経った。温泉に来てからのトータルの時間はすでに一時間近くとなる。


(多少と言いつつかなり耐えたけど、いくらなんでも長すぎないか!?)


 そんな葛藤に襲われつつもネオンの心行くまでサラサラの黒髪を堪能させたルミナスは、仕方なく温泉を後にし、その後順調に翌朝まで床に伏せましたとさ。

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