特別編3
プロローグ『風邪を引いた幼馴染』
特別編3
9月5日、月曜日。
俺・
部屋がうっすらと明るくなっている。ということは、もう朝になったのか。
2学期になってから初めての月曜日だ。
週明けは気持ちが重くなることもある。ただ、先週末は恋人の
壁に掛かっている時計を見ると……午前6時45分。いつもは7時くらいに起きるので少し早い。ただ、今日はもう起きよう。
今日も楽しい一日になるといいな。そう思いながら、俺はベッドから出た。
いつも通りの平日の朝の時間を過ごしていく。ただ、いつもよりも早く起きられたので朝食はゆっくりと食べた。
朝食を食べ終わり、俺は自室に戻って身だしなみや持ち物のチェックをしていく。そんな中、
――プルルッ。
ベッドに置いてあるスマホが鳴る。朝のこの時間に鳴るのは珍しいな。あと、この鳴り方だと、メッセージやメールが届いたのか。何かあったのかな。
不安な気持ちをちょっと抱きつつスマホのスリープを解除すると、LIMEであおいからメッセージが届いたと通知が届いていた。通知をタップすると、いつもの6人がメンバーであるグループトークが開き、
『風邪を引いてしまいました。なので、今日は学校を休みます』
というあおいからのメッセージが表示された。
あおい……風邪を引いてしまったのか。先週の金曜日は元気だったから、土日の間に何かあったのだろう。
あおいは隣の家だし、学校に行く前に愛実と一緒にあおいの様子を見に行くか。それに、1学期に俺が風邪を引いたときには、愛実とあおいが登校前に俺の様子を見に来てくれたし。
――プルルッ。
スマホのバイブ音が響くと、愛実からメッセージが届いたと通知が表示される。それをタップすると、愛実との個別トーク画面が表示され、
『学校に行く前に、あおいちゃんの様子を見に行かない?』
というメッセージが愛実から送られてきていた。俺と同じことを考えていたんだな。そのことに嬉しくなり、頬が緩んでいくのが分かった。
『そうだな。あおいの様子を見に行ってから、学校に行こうか』
と、愛実に返信を送る。
俺とのトーク画面を開いているのか、俺の送ったメッセージはすぐに『既読』マークが付く。そして、『分かった!』という文字付きの白猫のイラストスタンプが送られた。可愛いな。
俺は再び6人のグループトーク画面を開き、
『分かったよ、あおい。学校に行く前に愛実と一緒に様子を見に行くよ』
というメッセージを送った。
また、俺が送った直後に愛実も、
『お大事ね、あおいちゃん。この後、リョウ君と一緒に様子を見に行くね』
といったメッセージを送っていた。これで少しでもあおいが元気になるといいな。
身だしなみと持ち物チェックが終わった。大丈夫だ。
学校に行く前はいつも、愛実の部屋側にある窓を開け、同じく自分の部屋の窓を開けた愛実と話すのが恒例だ。今日はこれからあおいの家に様子を見に行くけど、とりあえず開けてみるか。
愛実の部屋側の窓を開けると、ほとんど同じタイミングで愛実も部屋の窓を開けていた。俺と目が合うと愛実はニコッと笑ってこちらに手を振ってくる。制服姿が似合っているのも相まってとても可愛い。
「リョウ君、おはよう」
「おはよう、愛実。これからあおいの家に行くけど、こうして窓を開けて話すのは恒例だからさ。とりあえず開けてみたんだ」
「そうだったんだ。私もだよ」
「そっか」
あおいの様子を見に行くことといい、愛実とは考えることが合うな。嬉しい。普段とは状況が違うけど、愛実といつも通りにこうして話せることも。
「あおいちゃんの様子を見に行くし、今日はもう止めておく?」
「そうだな。ほんのちょっとだけど、愛実とこうして話せて良かった」
「うん。じゃあ、また後でね」
「ああ」
窓を閉めて、スクールバッグを持って自分の部屋を出る。
弁当と水筒をバッグに入れるため、キッチンに行く。
キッチンに母さんがいたので、あおいが風邪を引いたことと、登校前に様子を見に行くことを伝えた。
母さんは今日はパートがないので、日中にあおいの様子を見に行くという。母さんが行ってくれるなら安心だ。
弁当と水筒をスクールバッグに入れ、俺は家を出発する。玄関を出ると、そこには両手でバッグを持った愛実がいた。さっきと同じく、俺と目が合うと愛実はニコリと笑う。
「リョウ君、おはよう」
「おはよう、愛実」
朝の挨拶を交わして、愛実からおはようのキスをしてきた。このキスのおかげで、今日の学校生活を頑張れそうだ。
「リョウ君、さっそく行こうか」
「そうだな、行こう」
俺は愛実と一緒にあおいの家の前まで行き、インターホンを鳴らす。
『はい。あっ、涼我君に愛実ちゃん』
インターホンのスピーカーから、母親の
「涼我です」
「愛実です。これから学校に行くんですけど、その前にあおいちゃんの様子を見に来ました」
『ありがとう。すぐに行くわ』
麻美さんはそう言うと、プツッというノイズ音が聞こえた。
家の中から足音が聞こえ、それから程なくしてあおいの家の玄関が開いた。中からはスラックズに半袖のVネックシャツ姿の麻美さんが姿を現す。
「涼我君、愛実ちゃん、おはよう」
「おはようございます、麻美さん」
「おはようございます。あおいから風邪を引いたとメッセージをもらいましたが、どんな感じの症状ですか?」
「熱が38度4分あって、頭痛とのどの痛みがあるみたい。あとは体がだるいって」
「そうですか……」
症状を聞くだけでも結構辛そうだな。1学期に風邪を引いたときのことを思い出す。
「9時になったら、春に涼我君が行ったお医者さんに連れて行くわ」
「そうですか」
あのお医者さんから処方される薬はよく効く。俺が風邪を引いたときは1日で健康なときと変わらないくらいまでに回復したから。あおいも同じだったら嬉しい。
「あとで、母が様子を見に行くとのことです」
「分かったわ。今日はパートがなくてずっと家にいられるけど、
麻美さんはやんわりとした笑顔を見せる。自分がずっと家にいても、同級生の母親が家に来てくれるのは心強いか。うちは隣だから、隣の家に母さんがいるだけでも安心できるのかもしれない。
「お母さんはパートがあって来られませんが、お大事にと言っていました」
「そうなのね。ありがとう。……さあ、上がって。あおいは自分の部屋にいるわ」
「分かりました。お邪魔します」
「お邪魔しますっ」
愛実と一緒にあおいの家にお邪魔し、2階にあるあおいの部屋の前まで向かう。
――コンコン。
「涼我だ。様子を見に来たよ」
「愛実です。部屋に入ってもいいかな?」
あおいの部屋の扉をノックし、俺と愛実は部屋にいるあおいに向かってそう声を掛ける。あおいに俺達の声が届いているだろうか。
『……どうぞ』
部屋の中からあおいの声が聞こえてきた。ただ、風邪を引いているからか、その声は普段とは違って弱々しい。
俺が部屋の扉を開け、愛実と一緒に部屋の中に入る。
部屋はエアコンがかかっていて涼しい。薄暗い中、こちらを向きながらベッドで横になっているあおいの姿が見える。薄暗くてもはっきりと分かるくらいにあおいの顔は赤くなっている。38度台の熱が出ているだけのことはあるな。
俺達がベッドの側まで行くと、あおいは微笑みながら俺達のことを見る。
「朝から来てくれてありがとうございます」
「いえいえ。隣の家だし、あおいの様子を見たかったからな。それに、1学期に風邪を引いたときはあおいが愛実と一緒に様子を見に来てくれたし」
「私もあおいちゃんの顔が見たかったからね」
「……そうですか。2人の顔を見られて嬉しいです」
小さな声でそう言うと、あおいの口角が少し上がった。風邪を引いているけど、笑顔を見せられるほどの元気さはあるようだ。そのことにちょっと安心した。
「麻美さんから聞いた。熱が出て、頭痛やのどの痛みがあるみたいだな。あとは体のだるさか」
「今は季節の変わり目だし、朝晩は涼しくなってきたから風邪を引いちゃったのかな」
「それもあるかもしれませんが……きっと一番の理由は疲れでしょうね。昨日は朝から晩まで一日中バイトがあって。日曜深夜はとても好きなアニメが放送されるので、それをリアルタイムで観ました。アニメを観るまでの間に、今日提出する課題を片付けていて。アニメも日付が変わってから放送されましたし……」
あおいは苦笑いで風邪の原因と思われる出来事を説明した。また、たくさん話したからなのか、あおいは「けほっ、けほっ」と咳をした。
「一日中やったバイトに、課題に、深夜放送されたアニメをリアルタイム視聴か。何だかあおいらしい理由だな……」
「そうだね、リョウ君」
あおいのバイトはファミレスでの接客業。何度か休憩を挟んだだろうけど、一日中やったら疲れは溜まるだろうな。それに加えて学校の課題をやって、アニメを観るために深夜まで起きていたら……体調を崩してもおかしくない。
「課題は土曜日までに終わらせておくべきでした。ただ、読みたい新刊の漫画やラノベ、同人誌を読み耽っていたのでやってませんでした……けほっ」
「そうなんだ。読みたい本がいっぱいあると、休日はずっと読んじゃうよね」
「俺もあるよ。……今後は気をつけような」
「……はい」
俺も気をつけないとな。休日は長時間のバイトを入れることが多いし、趣味で早朝にジョギングもしているから。
「放課後になったら、すぐにお見舞いに来るよ。月曜は部活の買い出しがあるけど、今週は当番じゃないし。リョウ君は今日ってバイトある?」
「ないよ。だから、放課後になったら一緒にお見舞いに行こう」
「分かった」
「2人とも……ありがとうございます」
あおいは嬉しそうにお礼を言った。
「ちなみに、あおいはお腹の調子ってどうだ?」
「お腹の方は大丈夫です」
「それなら、帰りにゼリーとかプリンを買ってこよう。何がいい? 昔はぶどうやマスカットのゼリーとかが好きだったけど」
「今もぶどうやマスカットのゼリーが大好きです」
「じゃあ、ぶとうとマスカットのゼリーを買ってくるよ」
「はいっ」
そう返事をするあおいの声はちょっと弾んでいた。
ぶどうやマスカットが大好きなのは幼稚園の頃から変わらないか。今年の春に10年ぶりに再会したのもあり、昔と変わらない部分があるのは結構嬉しかったりする。
『プルルッ。プルルッ』
スラックスのポケットに入れてあるスマホが何度も鳴っている。ただ、この鳴り方だと、鳴っているのは俺のスマホだけではなさそうだ。その予想が当たったようで、愛実はスカートのポケットからスマホを取り出していた。
俺もポケットからスマホを取り出して確認すると、LIMEの6人のグループトークにメッセージが届いていると通知が。通知をタップするとトーク画面が開き、
『お大事にね、あおい。部活が終わったら、道本君と鈴木君と一緒にお見舞いに行くわ』
『桐山、お大事に』
『ゆっくり休むんだぞ、桐山!』
海老名さん、道本、鈴木からそういったメッセージが送られてきていた。きっと、3人とも陸上部の朝練が終わって、あおいが体調不良で欠席することを知ったのだろう。
「……嬉しいですね」
あおいは独り言ちるように言う。そんなあおいは微笑みながらスマホの画面をタップしている。
『みなさん、ありがとうございます』
と、スマホの画面にあおいからのメッセージが表示される。お礼のメッセージを書いていたのか。
「そろそろ、俺達も学校に行くか」
「そうだね、リョウ君。……あおいちゃん、また放課後にね。ゆっくり休んでね」
優しい声色でそう言うと、愛実はあおいの頭を撫でる。愛実の後に俺も。それが気持ち良かったのか、あおいは柔らかい表情になった。
「お大事に、あおい。放課後にまた会おうな」
「はい。……2人とも、いってらっしゃい」
「ああ、いってきます」
「いってきます、あおいちゃん」
まさか、学校に行くときにあおいから「いってらっしゃい」と言われる日が来るとは。不思議な感覚だ。
俺達はあおいに小さく手を振り、あおいの部屋を後にした。その際もあおいの咳が聞こえて。
放課後にお見舞いに来るときには、あおいの体調が少しでも良くなっていますように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます