第6話『恋人とのプールデート』

 9月3日、土曜日。

 今日も朝からよく晴れており、一日中晴天が続くという。晴れているので、最高気温は32度と真夏日になる予報だ。プールデート日和と言えるだろう。

 午後1時20分過ぎ。

 俺は家を出て、愛実の家の前で待つ。ここで午後1時半に愛実と待ち合わせをすることになっている。

 今もよく晴れているので、日差しに当たると結構暑い。きっと、プールに入ったら、水が冷たくて気持ち良く感じられるんだろうな。そう思うと、この暑さもいいと思えてくる。


「いってきます」


 愛実の声が聞こえたので、愛実の家の方を見ると、スラックスにノースリーブのパーカー姿の愛実が家から出てくるのが見えた。水着などが入っているからか、愛実は大きめのトートバッグを持っている。

 愛実は俺と目が合うとニコッと笑って、小さく手を振ってくる。可愛いな。


「お待たせ、リョウ君。待ったかな?」

「ううん、そんなことないよ。俺もついさっき家を出たから」

「そっか。じゃあ、行こうか!」

「ああ、行こう!」


 愛実と手を繋いで、調津駅に向かって歩き始める。

 ちなみに、これから行くプールはスイムブルー八神やがみ。愛実とはこれまでに友達と一緒に何度も行ったことのある屋内プール施設だ。ちなみに、夏休み中にあおいとプールデートしに行ったときもここだった。


「リョウ君と一緒にスイムブルーに行くのはいつ以来だろう? 高校生になってからは初めてだよね?」

「そうだな。中学以来だ」

「だよね。一緒に行くのは久しぶりだし、リョウ君と2人きりなのは初めてだから凄く楽しみだよ」

「俺も凄く楽しみだ。今日はプールデートを一緒に楽しもうな」

「うんっ」


 愛実はニッコリと笑いながら首肯してくれた。今の愛実の反応を見て、今日のプールデートは楽しい時間になると確信した。

 これまでスイムブルー八神で遊んだことや、今年の夏休みにあおい達と一緒に行ったときのことを話しながら、調津駅に向かった。

 調津駅に到着し、スイムブルー八神の最寄り駅である清王八神せいおうやがみ駅方面に向かう電車が来るホームに行く。

 電光掲示板によると、次に来るのは、今から3分後に来る清王八神行きの特急列車。特急という種別だけど、乗車賃だけ払えば乗れる電車だ。この電車に乗ることに決めた。

 土曜日のお昼過ぎの時間というのもあり、ホームには人の姿がそれなりにあって。少しでも座れる確率が高くなるように先頭車両が停車する場所まで向かった。

 それから程なくして、清王八神駅行きの特急列車が定刻通りに到着した。

 調津駅は清王八神駅方面だけでなく、神奈川県の方へ向かう路線も乗り入れる大きな駅。駅周辺にも色々なお店があるので、電車から降りる人は結構多い。それに加えて先頭車両なのもあって、俺達が乗車すると、2席連続で空いているシートは何カ所もあった。俺達は乗った扉から一番近い席に隣同士に座った。


「座れて良かったね」

「ああ。先頭車両に来て良かったな」

「そうだねっ」


 ふふっ、と愛実は嬉しそうに笑った。

 それからすぐに、俺達の乗る電車は発車する。

 扉の上にモニターがあり、行き先や停車する駅までの所要時間が表示される。この列車は特急列車なので、停車する駅数は少ない。目的地であり終点でもある清王八神駅までは25分とのこと。


「八神駅までは25分なんだね」

「ああ。特急列車だから結構早いな」

「そうだね。リョウ君と一緒に座っているから、きっとすぐだろうね」

「そうだな」


 愛実と話していれば、あっという間に清王八神駅に到着するだろう。

 愛実は俺に寄り掛かってきて、右肩にそっと頭を乗せてきた。愛実の温もりや甘い匂い、肩に掛かる頭の重みが心地いい。


「到着まで……こうしていていい?」

「いいよ」

「ありがとう」


 笑顔で俺を見上げながら愛実はお礼を言った。顔がすぐ近くにあるからキュンとした。心なしか、愛実から香ってくる甘い匂いが濃くなった気がする。


「リョウ君と最後に電車に乗ったのって、夏休みに行ったオープンキャンパス以来かな?」

「そうだな。オープンキャンパスに行ったのも1ヶ月近く前か。愛実と付き合う前のことだし、もっと昔のことのように思える」

「そうだね。付き合うようになったのはもちろんだけど、コアマとかお泊まりとか花火大会とか盛りだくさんだったから」

「それもあるな」


 今年の夏休みは充実した日々だったのだと再認識する。本当にたくさんのことを経験した夏休みだった。


「今の話をしたら、あおい達と一緒に海水浴に行ったのがかなり昔に思えてきた」

「1ヶ月半くらい前だもんね。海で遊んでいるときはまだ告白していなかったからね。あのとき着ていた水着を、リョウ君の恋人になってまた着られると思うと嬉しいよ」


 愛実は言葉通りの嬉しそうな笑顔でそう言う。俺も嬉しい気持ちになってくる。


「そっか。あの赤いビキニの水着はよく似合っていたし、また見られるのが楽しみだな」


 早く愛実の水着姿を見たい。早く清王八神駅に到着してほしいよ。

 それからは夏休みのことを話したり、八神方面の電車に愛実と乗るのは久しぶりだったので車窓から見える景色を楽しんだりして、電車の中での時間を楽しんだ。


「清王八神駅に到着したね!」

「着いたな」


 乗っているのは特急だったし、愛実と話すのが楽しかったからあっという間だったな。

 清王八神駅を出て、俺達はスイムブルー八神に向かって歩き出す。八神は俺達が乗ってきた清王線だけでなく、NRという鉄道会社の路線の駅も近くにある。なので、調津駅と同じくらいに発展し、多くの人がいる街だ。

 八神に来るのはあおいとのプールデート以来なので、およそ2週間ぶり。まさか、こんなに早くまた来ることになるとは思わなかったな。


「八神の風景懐かしいなぁ」


 愛実は周りの風景を見渡しながらそう言う。そんな愛実の顔には穏やかな笑みが浮かぶ。


「愛実が八神に来るのって、中学生のときに俺や道本、海老名さん達と一緒にスイムブルーに行ったとき以来か?」

「たぶんそうだね。少なくとも、高校生になってからは初めてだよ」

「そっか。それなら懐かしくなるのも分かるな。俺も……あおいと来たときに懐かしいって思ったし」

「そうなんだ。……私は久しぶりだし、リョウ君はあおいちゃんと一緒にプールデートしたから、スイムブルーまでの道順は頼んだよ」

「ああ、任せろ」


 前回から2週間しか経っていないので、スイムブルーまでの道順はさすがに覚えている。あと、恋人の愛実から頼られることに嬉しさを覚える。

 これまで一緒に八神に来たときことを話しながら、スイムブルー八神に向けて歩く。

 この前、初めて来たあおいの反応を見ながら歩くのも楽しかった。ただ、何度も来たことのある愛実と一緒だと、こうして思い出話ができる。これも楽しいなと思った。


「着いたぞ」


 清王が八神駅を出てから数分。

 俺達はスイムブルー八神の前に到着した。迷うことなく来ることができて一安心だ。


「うわあっ、懐かしい!」


 愛実は普段よりも高めの声でそう言う。ニッコリと可愛く笑いながら、スイムブルー八神の外観を見ている。本当に可愛いな。今日のプールデート中にはこういう笑顔を見せられるようにしたい。


「変わらず立派だね!」

「そうだな。中も変わらず立派だぞ」

「そうなんだ。じゃあ、入ろうか」

「ああ」


 俺達はスイムブルー八神の中に入る。

 ロビーには俺達のようにカップルや親子連れ、小学生くらいと思われる数人のグループなどお客さんの姿が見られる。9月になったけど、土曜日のお昼過ぎだったり、晴れて暑かったりからかな。

 俺達は受付を済ませて、更衣室の前まで行く。


「じゃあ、着替え終わったらここで待ち合わせしよう」

「それがいいね。じゃあ、また後で」

「ああ」


 愛実と一旦別れて、俺は男子更衣室の中に入る。

 更衣室の中には水着に着替える学生や私服に着替える親子、洗面台にあるドライヤーで髪を乾かすおじいさんなど人の姿がちらほらと。

 俺は人があまりいない場所に行き、私服から水着に着替えていく。水着は夏休み中に行った海水浴やあおいとのプールデートで穿いた緑色の海パンだ。


「……よし、穿けた」


 夏休み中は甘い物を食べることが多かったけど、難なく穿くことができたな。趣味になっている早朝のジョギングのおかげかな。

 また、右の胸元には数日前のお泊まり中に愛実に付けてもらったキスマークが付いている。数日経っているのでほんのりと赤くなっている程度だ。腕には実際に蚊に刺されて赤くなっている部分もあるし、このキスマークも蚊に刺されたものに思われるんじゃないだろうか。

 服や荷物をロッカーに入れていく。


「……そうだ」


 スマホだけは持っていくか。愛実の水着姿やツーショット写真を撮りたいし。あおいとのデートのときの経験もあって思いついたことだ。

 スマホを手にして、ロッカーを閉めて鍵を施錠した。

 更衣室を出ると……愛実の姿はまだなかった。ここで気長に待っていよう。

 愛実の水着姿を楽しみにしながら、夏休み中に行った海水浴のときに撮影した写真を見ていく。

 当時の水着姿の愛実も可愛いな。あおいと海老名さん、佐藤先生も綺麗で。道本と鈴木は現役の陸上部員だけあって体が仕上がっており、スポーツ男子っていう雰囲気が出ている。

 水着姿の愛実の写真を見てきたら、愛実が来るのがますます楽しみになってきた。


「お待たせ、リョウ君」


 愛実に呼ばれたので声がした方に振り向くと……俺の目の前に、海水浴のときと同じ赤いビキニ姿の愛実が立っていた。俺と目が合うと、愛実はニコッと笑う。

 愛実の水着姿……やっぱりとても可愛いな。海水浴の後にGカップになったのもあって、あの頃よりも胸が大きくなっている。また、右の胸元に付けたキスマークがまだほんのりと赤く残っていて。それを見ると嬉しい気持ちになる。お風呂に入ったり、肌を重ねたりしたときに愛実の生まれた姿を見ているから、海水浴のときよりも大人っぽくて艶っぽさが感じられる。


「凄く似合っているよ、その赤いビキニ。可愛いし、綺麗だよ。また見られて良かった」

「ありがとう、リョウ君。リョウ君もその緑色の水着、よく似合っているよ。凄くかっこいい。また見られて嬉しいよ」

「ありがとう、愛実」

「うんっ。夏休み中もジョギングをしていたからかな。海水浴のとき以上に筋肉が付いているね。素敵だよ」

「ありがとう」


 夏休み中はバイトのない日を中心に、早朝にジョギングした。それもあって、全身に筋肉が付いたのだろう。恋人の愛実に体について褒められると嬉しい。


「あと、お泊まりのときに付けたキスマークがほんのり残っているのが嬉しいな。セクシーな感じがするよ」

「そっか。それは俺も思っていたことだよ」

「私の胸元にもちょっと残っているもんね」

「ああ。あとは……海水浴のときよりも胸が大きくなったし。付き合い始めてからは何度も愛実の全てを見ているからさ。大人っぽくて艶っぽくて……素敵だよ、愛実」

「ありがとう、リョウ君」


 愛実はとても嬉しそうにお礼を言うと、俺にさらに近づき、キスしてきた。

 愛実の唇の柔らかさと温もりが心地いい。ビキニのトップスに包まれた柔らかな胸が俺の体に当たるからドキッとして。あと、これまでに愛実とは何度もキスしてきたけど、水着姿でキスするのは初めてだから新鮮に感じられた。

 数秒ほどして、愛実の方から唇を離す。至近距離で愛実と目が合い、愛実はニコッと笑いかけてくれた。本当に可愛いな、俺の恋人。


「水着姿でする初めてのキスだね」

「俺もそれは思った。新鮮で良かったよ」

「私も」

「……愛実の水着姿をスマホで撮ってもいいかな? ツーショットも撮りたい」

「だからスマホを持ってたんだ。もちろんいいよ。写真、私に送ってね」

「分かった。ありがとう」


 他の人の邪魔にならないところまで移動し、俺のスマホで愛実の水着姿やツーショット写真を撮影した。また、愛実の希望で、愛実が俺の水着姿を何枚か撮影した。

 また、ツーショット写真を撮るときは愛実と体が密着して。肌と肌で直接触れるから、愛実の体の柔らかさや優しい温もりが感じられて。ドキッとするけど、とても心地良かった。

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