第5話『俺達らしい放課後デート』

 9月2日、金曜日。

 今日から2学期の授業が始まる。6限までフルで授業がある。ただ、今日の放課後は愛実と放課後デートだし、明日と明後日は週末で連休だ。そう思うと、今日の授業も頑張れそうだ。

 愛実と隣同士の席で、あおいは右斜め前にいる。だから、気分のいい中で授業を受けることができている。愛実やあおいと目が合うことがあって、2人から微笑みかけられるし。また、窓側の席だから、たまに窓から調津駅方面の景色を眺めて気分転換もできる。

 本当にいい席を引き当てられたな。昨日の俺の運の良さを改めて実感した。




「それじゃ、これで終礼を終わるよ。来週、また会おうね。委員長、号令をお願いします」


 佐藤先生がそう言い、委員長の女子生徒による号令で、今日も放課後になった。

 隣の席に愛実がいたり、斜め前の席にあおいがいたりしたおかげで、今日は放課後になるまであっという間だったな。

 俺は愛実とあおいと一緒に教室を後にする。

 愛実と俺がこれからデートであり、あおいもこの後すぐにファミレスでのバイトがある。なので、あおいとは校門を出たところで別れた。その際にあおいは、


「デート楽しんでくださいね!」


 と、持ち前の明るい笑顔で言ってくれた。あおいは本当にいい子だと思う。

 俺は手を繋いでいる愛実と一緒に、駅の方に向かって歩き始める。


「何だか今日はあっという間だったよ。リョウ君が隣にいるし、あおいちゃんと理沙ちゃんも近くにいるし、放課後デートっていう予定があるからかな」

「そうだったんだ。俺も今日はあっという間だったな。きっと、愛実と同じ理由だと思う」

「ふふっ、そっか」


 愛実は楽しげな様子で笑ってくれる。

 今日は学校でも愛実の笑顔を隣から何度も見てきた。ただ、手を繋いで、愛実の温もりや柔らかさを感じているからか、今が一番近くにいる感じがして。それがとても嬉しい。


「これからどこに行こうか、リョウ君」

「そうだな……これまで学校帰りに一緒に過ごすことはいっぱいあったけど、放課後デートは初めてだからな」

「そうだね。夏休みの終わり頃に付き合い始めたし」

「ああ。……アニメイクやレモンブックス中心にお店を廻るのはどうだろう? これまで愛実と一緒にたくさん行ったけど、とても楽しいから」

「そうだね! 私もアニメイクやレモンブックスに行くのが楽しいよ。私達らしくていいと思う」

「そう言ってくれて嬉しいよ」

「じゃあ、まずは調津ナルコに行こうか」

「ああ、そうしよう」


 調津ナルコというのは、調津駅の北口近くにあるショッピングセンターだ。アニメイクというアニメショップなど、専門店も多く入っている。学校から近いのもあり、放課後には愛実と一緒に行くことが多い。定番スポットと言っていいだろう。

 9月になったし、夕方の時間帯に差し掛かっているけど、日光を直接浴びるとなかなか暑い。


「日差しが強いから暑いな……」

「そうだね。冷たいものが飲みたい気分だよ」

「そうだな。じゃあ、ナルコに着いたら、タピオカドリンクを買って飲もうか」

「いいね! そうしよう!」


 ニコッと笑いながら愛実はそう言ってくれた。

 これまでも、今のように愛実は何度も俺の提案を笑顔で受け入れてくれた。ただ、恋人になったのもあって、今まで以上に嬉しい気持ちになる。放課後にタピオカドリンクを飲んだことも何度もあるから、これも俺達らしいかも。

 それからは今日の学校のことを中心に話しながら、調津ナルコに向かって歩く。愛実と話すのが楽しいから、ナルコに着くまではあっという間だった。

 ナルコに入ると、エアコンがかかっているのか涼しくて快適だ。

 タピオカドリンク店は1階のフードコート内にある。なので、フードコートに行くと……平日の夕方なのもあって、うちの高校を含めて制服を着た人が多いな。

 外は晴れて暑いのもあってか、タピオカドリンク店の前には列ができていた。俺達のように、冷たいものを飲みたくなった人が多いのかも。

 列に並んでいる間に何を買おうか考え、俺はタピオカカフェオレ、愛実はタピオカピーチティーを購入した。

 フードコート内にある飲食スペースでタピオカドリンクを飲むことに。2人用のテーブル席の一つを陣取った。

 椅子に座った後、俺達はドリンクが入ったコップをスマホで撮影した。


「カフェオレいただきます」

「ピーチティーいただきますっ」


 俺達は自分の購入したタピオカドリンクを一口飲む。

 カフェオレが口の中に入った瞬間、コーヒーの苦味とミルクや砂糖の甘味が口いっぱいに広がっていく。カフェオレと一緒に入ってきたタピオカを噛むと、独特の感触と共にタピオカの甘味も感じられて。凄く美味しい。また、飲み込んでカフェオレの冷たさが体に染み渡っていく感覚もいいな。


「うん。カフェオレ美味しい」

「良かったね。リョウ君、ここのカフェオレ大好きだもんね。ピーチティーも美味しいよ。冷たいのもいいね」

「そうだな。昨日から季節が秋になったけど、まだまだ冷たいものが美味しく感じられるからまだ夏のような感じがする」

「リョウ君の言うこと分かるなぁ。まだ暑いもんね。暑い中歩いたから、冷たいものが本当に美味しいよ」


 そう言って、愛実はタピオカピーチティーをもう一口。ちゅー、っと吸ったり、両手でカップを持ったりするのもあって凄く可愛い。ずっと見ていられる。そう思いながらカフェオレを一口飲むと、さっきよりも美味しく感じられた。


「そういえば、前に友達と一緒にタピオカドリンクを飲みに来たとき、タピオカチャレンジっていうのをやったっけ」

「タピオカチャレンジ……何か聞いたことがあるな」

「胸の上にカップを置いて、両手を使わずにタピオカドリンクを飲めるかどうかっていうチャレンジだよ」

「あぁ、それか。漫画とかSNSにアップされてるイラストを見たことがある」


 胸の大きな女性キャラがチャレンジ成功して美味しそうに飲んでいたり、胸の小さなキャラが失敗して服を汚したことにがっかりしていたり。何年か前にそういった漫画やイラストをたくさん見たな。

 タピオカチャレンジが話題になったから、視線が自然と愛実の胸に向いてしまう。愛実はGカップだし、制服の上からでも物凄くはっきりと主張するほどに大きいから成功しそうな気がする。


「ふふっ、私の胸を見ちゃって」

「ご、ごめん。タピオカチャレンジが話題になったから」

「いいんだよ。……リョウ君の前ではやったことないから、やってみるね。果たして成功するでしょうか?」

「きっと成功するよ。愛実の胸は大きいから。まあ、現実でタピオカチャレンジをする人は見たことないけど」

「ふふっ。じゃあ、するね」


 愛実は落ち着いた笑顔でそう言った。

 愛実はピーチティーが入ったカップを持ち、胸の上に置く。そして、手を離すと……カップは全く揺れることなく胸の上で自立している。さすがはGカップ。

 愛実はカップに手を添えることなくストローを咥え、ピーチティーを吸った。


「おおっ、凄いな。余裕で成功した」


 見事に成功したので、気付けば拍手していた。それが嬉しいのか、愛実はストローを咥えながらニコッとしている。凄く可愛い。


「成功しました! ちなみに、中学生のときと高校生のときに1回ずつやったことがあるけど、2回とも成功してるよ」

「そうなんだ。まあ、愛実は中学の頃から結構胸が大きかったもんな」

「そうだね。……リョウ君に成功したことを褒められて嬉しいです」

「ははっ、そうか。記念に写真を撮ってもいいかな?」

「いいよ」

「ありがとう」


 俺はスマホでタピオカチャレンジを成功した愛実を何枚か撮影する。

 愛実はピーチティーを飲んだり、笑顔になって両手でピースサインしたりとサービス精神旺盛。写真を撮っている間もカップが全く揺れないので、愛実の胸のキャパシティの凄さを実感する。


「うん。いい写真が撮れた。ありがとう」

「いえいえ」

「お礼に俺のカフェオレを一口あげるよ」

「ありがとう。チャレンジを成功して凄いって言ってくれたお礼に私のピーチティーを一口あげるね」

「ありがとう」


 愛実とタピオカドリンクを一口交換することに。これも俺達らしいな。

 ピーチティーを一口飲むと……カフェオレを飲んだ後だからか結構甘く感じる。ただ、ピーチらしく優しい甘さで美味しい。

 チラッと愛実を見ると、愛実はとても美味しそうにカフェオレを飲んでいた。


「カフェオレも美味しいね」

「ああ。ピーチティーも美味しかった。ありがとな」

「こちらこそありがとう。……ところで、リョウ君。今週末って予定って空いてる?」

「土曜日は空いてる。日曜日はバイト」

「そうなんだ。良かった。明日……リョウ君と一緒にプールデートしたいなって思って」

「おぉ、プールデートか」


 愛実は家でゆっくりするのが好きなタイプなので、プールデートをしたいと言うのはちょっと意外に感じる。

 また、プールデートという言葉を聞いて、夏休み中にあおいとプールデートしたときのことを思い出した。


「9月になったけど、晴れた日を中心にお昼は暑い日が続くし。さっき、タピオカドリンクを飲んだときにリョウ君が夏っぽいって言っていたから。あとは……夏休み中にあおいちゃんがプールデートに行ったから、私も行ってみたいなっていう思いもあって。リョウ君と2人きりでプールへ遊びに行ったことはないし」

「これまでは、家族や友達と一緒だったもんな」


 2人きりでプールに行ったことがないから、夏休み中にプールデートをしたあおいを羨ましいと思ったのかもしれない。


「分かった。じゃあ、明日はプールデートしよう」

「うんっ! ありがとう、リョウ君!」


 愛実はニッコリとした笑顔でお礼を言ってくれる。


「プールデートってことは、夏休みの海水浴で着た赤いビキニ姿を見られるのか。楽しみだな」

「ありがとう。私もあの水着を気に入っているの。海水浴の後も胸が少しずつ大きくなっているから、着られなくなる前にもう一度着てみたいっていうのもプールデートを誘った理由の一つです」

「なるほどな」


 春休みから夏休みの間にワンサイズ大きくなったからな。それもあって、夏休み中に愛実の新しい下着を選んだ。もし、同じ速度で成長していったら、海水浴で着た赤いビキニは着られなくなるだろう。

 明日はプールデートか。あの赤いビキニを着た愛実をまた見られると思うと本当に楽しみだ。


「……あっ、でも……水着姿になったら、右の胸元に付けたキスマークが見えるかもしれない。それは大丈夫か?」


 3日前、愛実の家でお泊まりした。その日の夜、お互いに右の胸元にキスマークを付けたのだ。3日経ったので薄くなっているけど、俺の胸元には愛実に付けてもらったキスマークが赤く残っている。


「あのビキニだとキスマークが見えるかも。ただ、一カ所だけ赤くポツンと付いているから、周りの人は蚊に刺されたって思うんじゃないかな」

「今の時期ならそう思ってくれそうか」

「うん。それに、お泊まりの日に比べて赤みが薄くなっているし。だから大丈夫だと思う。リョウ君の方はどう?」

「俺も大丈夫だ。愛実と同じく薄くなってきているから」

「そっか。じゃあ、予定通り、明日はプールデートをしよう」

「ああ。楽しみだ」


 これまで、家族や友達と交えてプールで遊んだときも、愛実と一緒に楽しめた。だから、2人きりでのプールもきっと楽しめるだろう。

 それからも俺達はタピオカドリンクを飲み、飲み終わった後はアニメイクやレモンブックスといったこれまでにも一緒にたくさん行ったことのあるお店に行き、俺達らしい放課後デートの時間を楽しむのであった。

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