第2話『席替え-2学期編-』

 2学期初日の今日は始業式とロングホームルームだけだ。そのため、お昼に終わる予定になっている。

 始業式は1学期のときと同じく体育館で行なわれた。体育館はエアコンがかかっていて涼しいので、校長先生の話や生徒会からの連絡事項を聞くのも気怠くは感じない。

 また、夏休み中には様々な大会が開催されたため、優秀な成績を収めた生徒達を紹介する時間も。

 陸上のインターハイにおいて男子100mで5位入賞、200mで7位入賞、400mリレーで6位入賞した道本と、男子やり投げで5位入賞した鈴木も壇上まで上がり、生徒達や教師達から拍手を贈られていた。友人として嬉しい気持ちになる。他の高校に進学した友達から「始業式や終業式は教室のテレビ中継」だと聞いて羨ましく思うけど、友人が祝福されるところを見ると、体育館での実施もいいなって思える。

 始業式が終わった後は、教室に戻って2学期最初のロングホームルームだ。

 佐藤先生が2学期の大まかな予定や勉強のことなどについて話す。

 2学期は文化祭、球技大会など。俺達2年生は修学旅行といったビッグイベントが予定されているとのこと。これらの行事は、愛実と恋人として付き合い始めてから、そしてあおいという幼馴染がいる中では初めてのこと。なので、とても楽しみだ。

 また、高校生活も折り返しに差し掛かり、3年生に進級する際に文理選択をしてクラス分けが行なわれる。そのため、文系か理系かどちらに進みたいかを考えつつ、日々の勉強を頑張ってほしいとも先生は伝えていた。

 夏休み中に愛実と一緒にオープンキャンパスに行ったのも進路を考えるいい機会になったし、進路を意識して勉強を頑張っていかないと。文系理系どちらを選んでも大丈夫なように、まずは現在習っている教科をしっかり勉強しよう。


「今日のホームルームでみんなに話すことは以上だよ。じゃあ、話が終わったから、これから席替えをやろう。新学期になったからね」


 佐藤先生はニコッと笑いながらそう言った。

 席替え、というワードが出たからか、クラスの中は賑やかな雰囲気になる。あおいも「席替えですか……!」と目を輝かせている。

 そういえば、去年も2学期や3学期の初日のホームルームで席替えをしたっけ。休み明けでキリがいいし、席替えをすれば新鮮な気持ちで学校生活を送れるからいいのかもしれない。

 佐藤先生は黒板に6×6の格子状の正方形の図を書いていく。あれは新しい座席表だろう。


「次も近くの席になれるといいね、リョウ君、あおいちゃん」


 愛実はこちらに振り向いて、笑顔でそう言ってくる。

 今は愛実は俺の前の席、あおいは俺の左隣の席だ。席替えをしても愛実の近くの席になりたいな。そうでなくても、一緒にいることが多いあおいや道本達の近くに。


「そうだな、愛実」

「次もお二人の近くに座りたいですね! あとは理沙ちゃんなどとも」

「そうだね、あおいちゃん」


 愛実とあおいが希望する席になるといいな。


「前回と同じく、くじ引きで新しい席を決めるよ。ただ、その前に今回も最前列の席を希望する生徒は遠慮なく言ってね」


 佐藤先生は優しい口調でそう言う。黒板が見えなかったら授業を受けるのに支障を来たす。だから、これはいい配慮だと毎度思う。

 最前列の教卓近くの席に座る男子生徒と女子生徒が手を挙げた。確か、あの2人は前回の席替えでも最前列がいいと希望していたな。2人の希望は無事に受け入れられ、2人の席は今のままとなった。もしかしたら、2年生の間はずっと、2人は今の席に座り続けるかもしれないな。

 佐藤先生は黒板の座席表に最前列の席を希望した生徒2人の名前を書き、それ以外の座席の所に1から順番に番号を振っていった。36人いるけど、2人希望者がいたので34まで。

 座席の場所として希望するのは前回と同じく窓側、通路側、最後尾の席だ。窓側なら1から6、通路側なら29から34、最後尾の席なら6、12、17、22、28、34か。

 佐藤先生はトートバッグから白い紙の手提げと、レジ袋を取り出す。


「じゃあ、これから席替えのくじ引きを始めるよ。紙の手提げからくじを1枚引いて、黒板の座席表に自分の名前を書いてね。35と36は空くじだから、そのときはもう1枚引くように。窓側の先頭から順番に引いていって」


 こうして、席替えのくじ引きがスタートした。

 窓側の先頭に座る生徒から引くってことは、俺の順番は前半か。どの座席番号を引くことになるのか。


「次は理沙ちゃん」

「はい」


 海老名さんは窓側の前から2番目に座っているので、さっそく海老名さんの順番になった。

 海老名さんは教卓に行き、紙の手提げからくじを1枚引く。


「16番です」

「16番ね」


 16番……窓側から3列目で、後ろから2番目の席か。個人的には結構いいんじゃないかなと思う。

 くじ引きは順調に進み、


「次はあおいちゃん」

「はいっ」


 弾んだ声で返事をすると、あおいは席から立ち上がって教卓へ向かう。

 あおいは紙の手提げに右手を入れて、白い紙のくじを1枚引いた。


「11番ですっ!」


 嬉しそうに言い、あおいは黒板の座席表に自分の名前を書いていく。

 11番は……海老名さんの左隣の席か。だから、あおいは嬉しそうに言ったのか。窓に近いし、結構後ろの方だからいい席を引けたんじゃないだろうか。ちなみに、11番の席は今の愛実の席でもある。だからか、愛実は「おおっ」と可愛い声を漏らしていた。

 あおいはくじをレジ袋に入れて、こちらに戻ってくる。途中で海老名さんと嬉しそうにハイタッチしていた。海老名さんの隣の席になれたからか、あおいは満足そうな表情だ。


「理沙ちゃんの隣の席を引けました! 今の愛実ちゃんの席ですし良かったです!」

「ここは結構いい席だよ」

「ふふっ、そうですか」


 あおいは愛実にニコッと笑いかけて自分の席に座った。

 その後もくじ引きは続き、


「次は愛実ちゃん」

「はい」


 愛実の番になった。愛実がどの番号を引くかによって俺の狙いも変わる。大注目だ。

 愛実は席から立ち上がり、教卓へ向かう。紙の手提げに右手を入れ、くじを1枚引く。さあ、愛実は何番を引いたか。


「12番です」

「おっ、12番!」


 あおいは普段よりも高い声でそう言う。あおいの顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいて。

 黒板の座席表を見ると、12番は……あおいの後ろの席か。だから、あおいは凄く嬉しそうなんだな。また、海老名さんの斜め後ろの席でもあるので、海老名さんも嬉しそうにしていた。

 そして、12番の席は俺が今座っている席だ。恋人に引き当てられたことにちょっと運命を感じる。

 愛実は12番のところに『香川愛実』と自分の名前を書いた。くじをレジ袋に入れると、愛実は可愛らしい笑みを浮かべながら戻ってくる。その途中で海老名さんとあおいにハイタッチする。


「あおいちゃんの後ろの席を引けたよ。次もよろしくね」

「はいっ! よろしくお願いします!」

「あおいちゃんの近くになれて良かったよ。理沙ちゃんの斜め後ろの席でもあるし。この勢いでリョウ君とも近くの席になれたらいいな」

「ああ。愛実の近くの席を狙って引くさ」


 愛実の席は最後尾の12番。前の席はあおいで埋まっているから、狙うは左右の席。左隣の6番か右隣の席の17番。それかせめて、愛実の斜め前で、あおいの隣の席である5番を引ければいいな。


「次、涼我君」

「はい」


 席から立ち上がって、俺は教卓に向かう。

 右手を紙の手提げに入れる。

 ――愛実の両隣である6番か17番来い! 来い来い来い!

 希望する番号を強く念じながら、俺は紙の手提げからくじを1枚引いた。二つ折りにされているくじを開くと、


『6』


 と書かれていた。希望した6番を引けたのもあり、「よし」と声が漏れた。気付けば左手を強く握りしめていた。


「6番です」

「おっ、6番か。良かったね」


 近所に恋人の愛実と幼馴染のあおいがいるからか、佐藤先生は微笑みながらそう言った。

 黒板の座席表の6番の所に、『麻丘涼我』と名前を書く。それを見たのか、「やった」という愛実の声や「おおっ」というあおいの声が聞こえた。

 くじを引いて自分の席に戻る。愛実はもちろん、あおいも嬉しそうにしていて。


「6番を引けたよ」

「やったね! リョウ君と隣同士で嬉しいよ!」

「私も嬉しいです! 涼我君が斜め後ろの席になって。それに、6番の席は今の私の席でもありますからね。ちょっとドキッとしちゃいました」

「ははっ、そうか。窓側最後尾だし本当にいい席を引けたよ」


 素晴らしいくじを引けたと思う。愛実とあおいにハイタッチをして自分の席に座っていった。

 その後も新しい席のくじ引きは進んでいった。その結果、道本と鈴木は廊下側の席で前後となった。そのことに鈴木が凄く嬉しそうにしていた。


「じゃあ、これで全員引き終わったね」


 最前列を希望する生徒以外全員がくじを引き終わった。佐藤先生は黒板に書かれた新しい座席表を自分のスマホで撮影する。


「よし、これでOK。じゃあ、さっそく荷物を持って新しい席に移動して」

『はーい』


 俺はスクールバッグと筆記用具などの荷物を持って新しい席へ移動する。一つ左に移動するだけなので、移動はすぐに終了した。

 新しい席に移動すると……窓側だからか、一つ左に動くだけでも見える景色はなかなか違う。あと、あおいの甘い残り香が感じられてちょっとドキッとした。


「リョウ君」


 愛実から名前を呼ばれたので、声がした方に振り向くと……俺の右隣の席に愛実が座っている。俺の隣で、さっきまで俺が座っていた席だから、愛実はかなりの上機嫌。ニコニコしていて可愛らしい。


「これからはお隣さんだね。よろしくね」

「ああ。こちらこそよろしく。前の席で愛実の後ろ姿が見えるのもいいけど、愛実が隣にいるのもいいな」

「そうだね。私もリョウ君が隣にいていいなって思うよ。前の席は、リョウ君が後ろにいる安心感があって良かったけど」

「そっか」


 愛実にとってもいいと思える席で良かった。


「隣には理沙ちゃん、後ろには愛実ちゃん、斜め後ろには涼我君がいますからとてもいい席です!」

「良かったわね、あおい。あたしも隣があおいで、斜め後ろに愛実がいて嬉しいわ」


 あおいはニコニコして、海老名さんは結構嬉しそうに言う。


「それにしても、麻丘君達はまたご近所さんなのね。3人の中で前の席から入れ替わっただけだし。不思議な縁で繋がっているのかしら」

「くじ引きで決めましたが、これで3連続ですからね」

「理沙ちゃんの言う通りかもね」

「自宅が3件並んでいるからな。それはあるかもしれない」


 今後も、2年生が終わるまでに何度か席替えはあるだろう。ただ、海老名さんの言う不思議な縁の力が働いて、愛実とあおいとは近くの席になりそうな気がする。


「みんな移動したね。少なくとも、中間試験が終わるまでは今の席だからね」


 中間試験ってことは10月の中旬から下旬辺りか。ということは、少なくとも1ヶ月半以上はこの席で学校生活を送れるんだ。しばらくの間はとても楽しい学校生活を過ごせそうだ。

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