第68話『恋人とのお風呂-後編-』

 体と顔を洗い終わったので、今度は愛実がバスチェアに座り、俺が愛実の背後に膝立ちする形に。

 前面とは違って、バスチェアに座っている愛実の背面は全て見えている。海水浴で日焼け止めを塗ったときにも思ったけど、白くて綺麗な背中だ。ただ、あのときとは違ってうつぶせにはなっていないけど、後ろからでも胸がちょっと見えていて。これもGカップほどの大きさだからだろうか。裸なのもあり、海水浴のときよりもかなり艶やかだ。愛実の後ろ姿を見ていたらドキドキしてきた。

 視線を鏡の方に移すと、鏡越しに愛実と目が合う。頬を中心にほんのりと赤らんだ愛実の顔に優しい笑みが浮かぶ。


「愛実。髪と背中、どっちから洗う?」

「まずは髪からお願いします。私が持ってきたこのリンスインシャンプーを使ってくれるかな」

「分かった。じゃあ、まずはシャワーで髪を濡らしていくぞ」

「うん」


 愛実が目を瞑ったことを鏡で確認し、俺はシャワーのお湯で愛実の髪を濡らしていく。愛実の髪は綺麗な茶髪だから、この段階から丁寧にやろう。

 髪を濡らし終わり、俺は愛実持参のリンスインシャンプーで愛実の髪を洗い始める。愛実の髪を洗うのは初めてだから、とりあえずは自分の髪を洗うときよりも優しい力で。


「愛実。洗い方はどうだ? 初めてだし、とりあえずは弱めの力で洗っているけど」

「う~ん……もうちょっと強くてもいいかな」

「もうちょっと強くか。……このくらいでどうだ?」

「うんっ、いいね! 凄く気持ち良くなったよ」


 愛実はまったりとした笑顔になる。このくらいの力で洗うのがちょうどいいんだな。


「良かった。覚えておく」


 きっと、これからも愛実の髪を洗うことはたくさんあるだろうから。

 愛実の髪を洗い、シャンプーが泡立ってきたのもあり、シャンプーの甘い匂いがよく香ってくる。その匂いは愛実の髪からいつも香ってくる好きな匂いだ。


「いい匂いだよな、このシャンプー」

「私も好きな匂いだよ。洗った後はサラサラになるし、艶やかさも保てるから、このシャンプーを気に入っているの」

「そうなんだ。愛実の髪は綺麗な茶髪だと思っているけど、綺麗に保てているのはこのシャンプーを使っているおかげでもあるんだろうな」

「私もそう思ってる。あと、リョウ君に髪を綺麗だって言ってもらえて嬉しいよ。恋人になったから、より頑張らないと」

「嬉しいな」


 サラサラで柔らかさも感じられる愛実の髪が好きだから。愛実よりも綺麗な茶髪の人とは出会ったことがない。そんな愛実の髪が傷ついてしまわないように、俺は髪を丁寧に洗うことに努めた。


「愛実。泡を落とすから、目をしっかり瞑ってくれ」

「はーい」


 いいお返事をした後、愛実は目をしっかりと瞑る。何だか小さな子供みたいで可愛いな。

 微笑ましい気持ちになりながら、俺はシャワーで愛実の髪についたシャンプーの泡を洗い流していく。

 洗い流し終わった後は、愛実が持ってきたタオルで丁寧に髪を拭く。そのことで、髪を洗う前よりも艶やかで綺麗な髪になった。


「これで拭くのも終わりだな」

「ありがとう。髪を纏めて、ボディータオルでボディーソープを泡立てるからちょっと待っててね。ボディーソープはここのを使わせてもらうね」

「ああ、分かった」


 その後、愛実は洗った髪をお団子の形に纏めていき、ヘアグリップで止める。きっと、髪を洗ったときには毎回やっているのだろう。手つきがとても鮮やかだ。その姿はもちろん、普段は見えないうなじが見えることに艶やかさを感じた。

 髪を纏めた後は持参した桃色のボディータオルを濡らして、うちにあるシトラスの香りのボディーソープを泡立てていく。そのことで、愛実のシャンプーの匂いを混ざって。


「はい、リョウ君。背中をお願いします」

「ああ、分かった」


 愛実からボディータオルを受け取る。女子が使っているからか、俺の使っているボディータオルよりも柔らかいな。これを使っているから、愛実の肌は白くて綺麗なんだろうな。

 俺は愛実の背中を流し始める。背中を流すのも初めてなので、まずは弱めの力で。


「どうだ、愛実。洗う力加減は」

「もうちょっと強くてもいいよ」

「今回も弱かったか」

「ふふっ。でも、体を大切に洗ってくれているのが伝わってくるよ」


 愛実は鏡越しに優しい笑顔を向けてくれる。今の言葉と愛実らしい笑顔にキュンとなって。後ろからぎゅっと抱きしめたくなるけど、そうしたら愛実がビックリしてしまいそうだし、理性がぶっ飛びそうなので思いとどまった。


「ま、愛実の肌はとても綺麗だからな。……このくらいの強さはどうだ?」

「うん! 気持ちいいよ。リョウ君はちょうどいい力加減にするのが上手だね」

「愛実に言われると凄く嬉しいな。何年もマッサージをしているからかな? 洗うのと揉むのとだから全然違うけど」

「ふふっ。でも、私の体に関することだから、マッサージをしている経験が活きているかもしれないね」

「そうだといいな」


 背中を洗う力加減もちゃんと覚えておこう。


「ところで、リョウ君は私以外の女の人の背中を洗ったことってあるの? 幼稚園の頃にあおいちゃんの家でお泊まりしたとき、あおいちゃんと麻美さんとお風呂に入ったらしいけど……」

「そのときにはあおいと麻美さんの背中を洗ったよ。あとは、母さんとばあちゃんくらいかな」

「そうなんだ。やっぱり、そのときにあおいちゃんの背中を洗っていたか」


 とは言いつつも、愛実は微笑んでいる。あおいは自分よりも早く俺と出会っているし、幼少期の頃の話しだからいいか……と思っているのかもしれない。


「さっき、愛実が言ってくれたように……俺も今後、背中を洗う女の人は愛実だけだよ」

「……うんっ」


 鏡越しに俺を見つめながら、愛実は嬉しそうに言った。愛実がそんな反応をする気持ちがよく分かるよ。

 その後も、ボディータオルを使って愛実の背中を丁寧に洗っていった。気持ちいいのか、愛実はたまに「あぁ……」と甘い声を漏らして。その反応にドキッとした。


「愛実。背中を洗い終わったよ」

「ありがとう、リョウ君。とても気持ち良かったよ」

「良かった」

「あとは自分で洗うよ。リョウ君は先に入ってて。全部洗い終わっているんだし」

「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」


 愛実にボディータオルを渡し、両手に付いた泡を洗い流してから、一足先に湯船に浸かることに。

 湯船に入って、肩までゆっくりと沈む。


「気持ちいいな……」


 お湯の温もりが心地いいし、脚も伸ばしているから快適そのものだ。普段とは違って、お湯から檜の香りがするからそのことにも癒やされる。


「ふふっ、まったりとした表情になっているね」

「結構気持ちいいぞ」


 そう言って、愛実の方を見ると……斜め後ろから体を洗う愛実の姿が見える。角度やボディーソープの泡のおかげか、見えたらまずそうな部分は見えていない。ただ、真後ろから見るよりも扇情的な姿で。このまま愛実を見ていたらのぼせてしまいそうなので、あまり見ないようにしよう。

 それから、愛実が体や顔を洗い終わるまでは、今夜行った花火大会のことを話しながら一人で湯船に浸かる。

 あまり見ないようにしようとは思っているけど、たまに愛実の方をチラッと見る。体を洗っている愛実の姿はとても綺麗で、今までよりも大人っぽく感じられた。


「……よし。私も体と顔を洗い終わったよ」

「お疲れ様。じゃあ、目を瞑って、右手で覆っているからその間に入ってくれ」

「うん、分かった」


 俺は体育座りのような姿勢になり、愛実が湯船に浸かれるスペースを作る。両目を瞑って、右手で覆った。


「いいぞ」

「うん。じゃあ、失礼します」


 愛実がそう言った直後、湯船に入っているお湯が波打つ感じがして。

 あぁ……と、愛実の甘い声が聞こえ、俺の足先に何かが当たる感触が。愛実が湯船に浸かったから、愛実の脚が当たっているのかな。


「目を開けていいよ」

「分かった」


 右手を両目から離して、ゆっくりと目を開けていく。

 視界には、俺の方に向かって湯船に浸かっている愛実の姿が見える。胸のあたりまでお湯に浸かっている。濁り湯のおかげで見えているのは胸元から上だけだ。お湯が気持ちいいのか、愛実は頬が赤くなっているけどまったりとした表情になっている。その表情もあり、かなりの色香を感じる。

 俺と目が合うと、愛実はニコッと笑う。そのことにドキッとした。


「ま、愛実。湯船は狭くないか?」

「狭くないよ。つま先が触れているくらいだし。ゆったりできてる。リョウ君は私が入ってきて狭くないかな?」

「大丈夫だ。俺も足先が愛実に触れているくらいだから」

「良かった」


 愛実はそう言うと、俺に優しい笑顔を見せてくれる。いつもの愛実って感じがして、お風呂に入っている今の状況でも気持ちが安らいでいく。


「檜の香りもいいし、お湯もちょっとトロッとしていて。この入浴剤いいね」

「そう言ってくれて良かった」

「うんっ。凄く気持ちいいよ」


 愛実は自分の手で肩にお湯をかける。その仕草がとても綺麗で、色っぽくて。思わずじっと見てしまう。


「檜の香りがするから、昔、旅先のホテルの大浴場でリョウ君と混浴したのを思い出すよ。あのときは緊張もあって、お母さんの隣にいたけど」

「俺も母さんの隣にいたな」

「そうだったね。ただ、緊張はしたけど、嫌じゃなかったよ。あの頃にはもうリョウ君のことが好きになっていたし。また、リョウ君と一緒にお風呂に入れて嬉しいよ。しかも、リョウ君の恋人になって。だから、本当に気持ち良くて幸せです」


 愛実は優しい笑顔で俺を見つめながらそう言ってくれる。そのことにキュンとなり、幸せな気持ちで心が満たされていく。お湯の温もりがより気持ち良く感じられるように。


「愛実がそう言ってくれて嬉しいよ。俺も気持ち良くて、幸せだ」

「リョウ君も同じ想いで良かった。それがとても嬉しいから、リョウ君とキスしたくなってきたよ。いいかな?」

「ああ、もちろんだ」

「ありがとう」


 俺達は体が見えないように気をつけながら、互いに体を近づけ……やがて、唇が重なった。

 互いに髪と体と顔を洗った後なのもあり、これまでよりも愛実の唇は湿っていて。柔らかさや温もりが強く感じられる。

 少しの間キスした後、愛実の方から唇を離す。湯船に浸かっているのもあり、愛実の顔は頬を中心に結構赤くなっていて。そんな赤い顔に浮かぶとろけた笑みが可愛くて。


「……今まで以上に温かいキスでした」

「温かったな。凄く良かったよ」

「私も」


 ふふっ、と愛実は小さく声に出して笑った。

 それからも俺と愛実は湯船に浸かり、今日の花火大会やこれまで行った家族旅行などの話をする。たまにキスもして。だから、心身共にとても温まったのであった。

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