第9話『夏休みの始まり』
7月21日、木曜日。
今日から高校2年生の夏休みがスタートする。夏休みは8月31日までのおよそ40日間だ。昨日梅雨明けしたし、今日も朝からよく晴れている。まさに夏本番って感じだ。
あおいが調津に戻ってきて、あおいと同じ高校に通って、あおいに好きだと告白される中で高2の夏休みを迎えるとは。去年の夏休み中には想像もしなかった。
あおいと一緒に夏休みを迎えるのは幼稚園の年長組以来11年ぶり。学生になってからは初めてだ。一緒に夏休みの日々を過ごす中であおいのことを考えて、あおいからの告白の返事をしたいと思っている。
さて、夏休み初日の今日。バイトのシフトには入っていないし、今のところ、誰かと会ったり、出かけたりする予定もない。
「……課題をやるか」
陸上部に入っていた中1のときを除けば、初日から少しずつ課題をしていくようにしている。愛実の予定さえ合えば、愛実と一緒にやることが多い。愛実も序盤からコツコツと課題をするタイプだし。
あおいはどうなんだろう? 普段の授業の課題を忘れることは全然ないし、分からないところは俺や愛実に訊いている。だから、あおいも夏休みの始まりから課題に取り組むタイプなのだろうか。ただ、中学時代は部活、高1からはバイトをしているので、ある程度日にちが経ってから一気にやるタイプの可能性もありそうだ。
「とりあえず、2人を誘ってみるか」
今は午前9時過ぎだから、2人に連絡しても大丈夫だろう。
ベッドに置いてあるスマホを手に取り、LIMEの俺、あおい、愛実のグループトークを開く。そこに、
『これから夏休みの課題をやろうと思ってる。もし、予定がなければ、2人も俺の家で一緒に課題をやらないか?』
というメッセージを送った。
さあ、2人はどんな返信をくれるだろうか。愛実は予定さえ空いていれば、一緒にやろうと返信してくれそうだけど。
送信してから15秒ほどで、俺のメッセージに『既読1』とマークが付く。2人のうち、どちらかがこのトーク画面を開いて、俺のメッセージを見てくれたことになる。俺のメッセージを見て、どんなメッセージを送ってくれるだろう。
『リョウ君から誘ってくれて嬉しいよ! 今日は特に予定ないから、私は行くよ。今年も夏休みの課題を一緒にやろうね』
と、愛実から返信が届いた。やはり、愛実は俺の家で一緒に課題をやろうと返信してくれたか。愛実の返信を見ると嬉しいし、安心もする。去年と同じように夏休みの課題ができるから。
愛実に対して『分かった』と返信の言葉を送った直後、そのメッセージと、さっきのお誘いメッセージに『既読2』のマークが付く。あおいも俺達のメッセージを見てくれているようだ。
『私も今日はバイトなどの予定がないので、涼我君の家で課題をやりたいです!』
と、あおいから返信が届いた。あおいも一緒に課題をやりたいか。このメッセージを見て胸が温かくなる。
俺はあおいに対しても『了解』の旨の返信をした。
その後、何の教科の課題をしようか話し合う。その結果、あおいも愛実も1学期の成績が平均前後で、解けるかどうか不安もある数学Bの課題をすることになった。
ローテーブルのベッドに近いところに、筆記用具と数学Bの課題である問題集と提出用のノート、教科書と授業の板書を書いたノートを置く。
――ピンポーン。
数学Bの課題をやろうと決めてから5分ほどでインターホンが鳴る。扉の近くのモニターのスイッチを押すと、画面にあおいと愛実の笑顔が映る。
「おっ、2人とも来たか」
『愛実ちゃんと一緒に来ました!』
『来たよ、リョウ君』
「今すぐに行くよ」
俺は部屋を出て、1階の玄関へ向かう。廊下は暑いけど、玄関に2人が待っていると思うとキビキビと動くことができる。
玄関を開けると、そこにはスラックスに半袖のオフショルダーのブラウス姿のあおいと、膝丈のスカートにノースリーブの縦ニット姿の愛実が立っていた。2人とも、俺と目が合うとニコッと笑みを浮かべて。画面越しよりも実際に見る方が可愛いな。また、2人は勉強道具が入っていると思われるトートバッグを持っていた。
「おはようございます、涼我君!」
「おはよう、リョウ君」
「いらっしゃい。2人とも来てくれてありがとう」
「いえいえ。毎年恒例だからね。それに、リョウ君と一緒に課題をしないと、夏休みが始まった感じがしないし」
「涼我君が誘ってくれたのが嬉しいですから。それに、涼我君と愛実ちゃんが一緒だと安心感がありますからね」
愛実は優しげな、あおいは元気な、それぞれの持ち前の笑顔でそう言ってくれる。俺が誘ったのを嫌だと思っていないようで安心した。
「さあ、上がってくれ」
「お邪魔しますっ!」
「お邪魔します」
あおいと愛実は元気良く家に上がる。リビングにいる母親に挨拶した後、彼女達を自分の部屋に通した。
「あぁ、涼しい」
「涼しい部屋は快適でいいですね・ほんの少しですが外に出ましたから」
「それは良かった。アイスティーを持ってくるよ。2人はくつろいでいてくれ。荷物も適当な場所に置いといて」
「分かりました。ありがとうございます」
「ありがとう、リョウ君」
俺は部屋を一旦後にして、1階のキッチンまで向かう。
3人それぞれの専用マグカップに、誕生日プレゼントであおいの両親がくれたティーパックでアイスティーを淹れていく。これから夏休みの課題をするので、ガムシロップでちょっと甘味を加えて。
マグカップを乗せたトレーを持って自分の部屋に戻ると、あおいと愛実はローテーブルの周りに置いてあるクッションに座りながら談笑していた。あおいは部屋の扉側、愛実は南の窓側と向かい合う形で。
今のような光景も見慣れてきたな。ただ、去年の夏休みまでは一度も見られなかった光景で。2人は俺の幼馴染で。そう思うと何だか不思議な気分に。
「2人ともお待たせ」
「おかえり、リョウ君」
「おかえりなさい」
あおいと愛実の前、俺の勉強道具の横にそれぞれのマグカップを置いた。その際、2人は「ありがとう」とお礼を言ってくれた。
トレーを勉強机に置いて、俺はベッドの側にあるクッションに腰を下ろす。そのことであおいは俺の左斜め前に、愛実は俺の右斜め前にいる形に。これなら、2人から質問されても教えやすそうだ。
「あぁ、アイスティー美味しいですっ」
「美味しいよね。ほんのりと甘いのがいいね」
「課題をやるからな。ちょっと甘くしたんだ。2人が気に入ってくれて良かったよ。じゃあ、さっそく数学Bの課題をやるか」
「ええ! 頑張りましょう!」
「頑張ろうね!」
2人ともやる気十分だ。
俺達は数学Bの課題をやり始める。
数学Bの夏休みの課題は副教材となっている問題集。1学期に習った範囲の問題を解き、解答を書いたノートを2学期の始業式の日に提出する。1学期の総復習だし、量もそれなりに多いので夏休みらしい課題だ。
1学期の復習の内容なので、大半の問題は自力で解けたり、教科書やノートを見れば難なく答えを導けたりできる。ただ、たまに応用問題が登場。応用問題は少し考えたり、図を描いたりして何とか答えを導き出せている。
「涼我君、問3が分からないのですが、教えてもらってもいいですか?」
「リョウ君、問5が分からなくて。教えてもらっていいかな?」
たまに、あおいも愛実も俺に質問してくることがある。2人とも定期試験や成績では赤点ではなかったけど、応用問題だけでなく、基本的な内容の問題でも質問してきて。特にあおいは頻度が多い。この課題をいい機会に、数Bの分からないことや苦手を少しでも克服できるといいな。
2人からの質問が終わった直後やアイスティーを飲むときなどを中心に、あおいと愛実の様子を見ているが、2人は真剣な様子で課題に取り組んでいる。また、俺も課題をやっているからか、あおいと愛実が互いに教え合うときもあって。
あと……あおいも愛実も制服姿よりも大人っぽく見えるな。あおいはオフショルダーの服だから、肩からデコルテにかけて大胆に露出している。愛実もノースリーブの縦ニットだから、腕はもちろん腋まで見えており、Fカップの胸が凄く主張しているし。2人を見ていると段々とドキドキしてくる。……いかんいかん、課題に集中しないと。
ただ、一度、あおいと愛実が大人っぽく見えると思ってからは、質問されるとちょっとドキッとして。俺が教えて問題が解けると、
「ありがとうございます、涼我君! 一緒に課題をして正解ですね!」
「ありがとう、リョウ君。さすがだね」
などと笑顔でお礼を言ってくれ、そのことにキュンとして。あおいだけでなく、愛実でもそうなることがあって。去年まではこういう感覚になることは全然なかったのに。
普段、一緒に勉強するときよりも、アイスティーを口にする頻度が多くなって。課題を始めてから1時間も経たずに飲み干した。
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