第27話『浴衣姿の美少女達』
バイトがないときには、あおいや愛実達の期末試験対策の勉強会に必ず参加している。
期末試験の範囲で特につまずいている教科もないし、勉強会ではあおいや愛実達と勉強を教え合っている。
期末試験は中間試験も実施した科目だけでなく、情報と保健も実施される。この2科目の試験範囲は1学期で習った内容全てと広い。情報は俺、保健は愛実と海老名さんが中心となって教え合う。
今のところは期末試験の勉強は結構捗っている。この調子で期末試験本番を迎えたい。
7月3日、日曜日。
今日は愛実の家で期末試験対策の勉強会をしている。俺とあおいと愛実は午前中から。昼過ぎからは道本と海老名さんも参加している。
また、鈴木は今日の勉強会には参加しておらず、自宅で須藤さんと試験勉強デートをしている。1年の頃から、鈴木は試験直前の休日は須藤さんと試験対策の勉強をすることが多い。鈴木曰く、須藤さんは分かりやすく教えてくれ、頑張って勉強すると抱きしめたり、キスしたりとご褒美をくれるらしい。それがやる気に繋がっているらしい。お互いに相手のことを大好きなのを知っているから、微笑ましい気持ちになる。
鈴木がいないので、いつもの勉強会よりも自分の試験勉強をする時間が多い。これはこれで勉強が捗る。
「調津北公園での七夕祭り、楽しみですね……!」
午後3時半過ぎの休憩中、あおいはワクワクとした様子でそんなことを言った。
今日は夕方から、調津北公園で調津七夕祭りが開催されるのだ。このお祭りは毎年、七夕直前もしくは七夕当日の日曜日に開催される。
試験勉強の気分転換も兼ねて、今日は勉強会の後に七夕祭りに行く予定だ。ここにいる5人はもちろんのこと、鈴木と須藤さん、佐藤先生も。また、あおいと愛実、海老名さん、須藤さんは浴衣を着るとのこと。
「楽しみだな。あおいとは幼稚園の年長組のときに行ったことがあるから……11年ぶりになるのか」
「ですねっ! 涼我君とは11年ぶり。愛実ちゃんや理沙ちゃん達とは初めて行きますからとても楽しみです!」
「私も楽しみだよ! 調津に引っ越してきた年から、リョウ君とは毎年行っているけど、今年はあおいちゃんと初めて行けるから」
「あたしもよ。あおいとは初めてだし、愛実の家にある浴衣を着られるから」
「俺も楽しみだなぁ。中学以降は期末試験の前後になるから、いい気分転換になるし。中学までの奴と会えることもあるから」
愛実と道本、海老名さんも七夕祭りを楽しみにしているようだ。今日は一日中曇りだけど、雨が降る心配はないという。なので、祭りは予定通りに開催されるだろう。
七夕祭りは小さい頃から毎年行っている。開催されるのが日曜日なのもあって毎年欠かさずに。あおいとは幼稚園の年長組に一度だけ。愛実とは小学1年から去年まで毎年一緒に行っている。個人的には夏の風物詩の一つだ。
去年はあおい以外の7人で行ったけど、とても楽しかったな。今年は11年ぶりにあおいも一緒に行く。去年以上に楽しみだ。
「さあ、試験勉強を再開しましょうか!」
元気良くそう言うあおいに、俺達は「そうだな」と頷いた。
それからすぐに試験勉強を再開する。
七夕祭りという楽しみもあってか、みんないつもよりもやる気になって勉強していた。特にあおいは。あおいは何か楽しみやご褒美があると、勉強のやる気や集中力が上がるタイプなのかもしれない。覚えておこう。
自分の勉強をしたり、あおいや愛実達の分からないところを教えたりしたので、あっという間に夕方になったのであった。
午後5時40分頃。
今日の勉強会が終わり、俺は道本と2人で自宅の前にいる。今、俺達は浴衣に着替えるあおいと愛実、海老名さんのことを待っているのだ。また、鈴木と須藤さん、佐藤先生とは午後6時頃に調津北公園の入口近くで待ち合わせすることになっている。
あおいと愛実はそれぞれ自分の浴衣を。海老名さんは愛実の家に何着もある浴衣のうちの一つを着る予定だ。3人の浴衣姿がどんな感じか楽しみだな。
「いい顔してるな。香川達の浴衣姿がそんなに楽しみか?」
「結構楽しみだよ。あおいは幼稚園以来だし、愛実は去年も凄く可愛かったし、海老名さんはどんな浴衣を着るのか分からないし。須藤さんは……鈴木の恋人だけど美人だからな」
「ははっ、そっか。俺も楽しみだよ」
道本はいつもの爽やかな笑顔を見せる。
ちなみに、俺と道本は勉強会のときと同じで私服姿だ。小さい頃は浴衣や甚平を着ていたけど、ある程度大きくなってからは私服姿で行くようになった。
鈴木と佐藤先生はどのような服装でお祭りに来るだろうか。去年は鈴木は甚平、佐藤先生は私服姿だったけど。それも楽しみにしておこう。
「それにしても、今日は雨が降らなくて良かったよな、麻丘。昼頃に比べたら涼しくなっているし」
「お祭り日和だな。まだ梅雨明けしていないし、かなり運がいいな。まあ、七夕祭りって名前だから、晴れていた方がもっと良かったかもしれないけど」
「ははっ、確かに。ただ、今日は七夕当日じゃないからな」
「まあな。雨が降っていないだけでも縁起はいいのかも」
梅雨の時期のお祭りだから、お祭り中に雨が降ってしまう年もあった。酷く雨が降って途中で中止になってしまう年も。だから、雨が降らないだけでも幸運なのかもと思える。
「お待たせしました」
あおいの声が聞こえたので、俺達はあおいの自宅の方に顔を向ける。
そこには白い生地に青い朝顔がいくつもあしらわれた浴衣に実を包んだあおいの姿が。髪型もいつもとは少し違い、一部をお団子にしたハーフアップ。下駄を履いて、青い巾着も持っている。爽やかな雰囲気だけど、普段とは違った身なりに大人っぽさを感じられる。大和撫子って言葉が似合う。昔もお祭りのときは浴衣姿だったけど、当時は可愛い雰囲気だった。そのことにドキッとする。
「私の浴衣姿……どうですか?」
「凄く似合ってるよ。綺麗だし爽やかな雰囲気で。一部をお団子にした髪型もいいな。あと、浴衣の朝顔の柄とか、巾着の色が青いのがあおいらしくていいと思う」
「よく似合ってるな、桐山」
「ありがとうございます! 去年までも着ていたお気に入りの浴衣なので、似合っていると言ってもらえて嬉しいです」
えへへっ、とあおいはとても嬉しそうに笑う。その笑顔もあって、浴衣姿がより似合っているように見える。特に、俺の方を見て笑っているときは。
あと、去年までも着ていたってことは、この浴衣姿のあおいを見た人がたくさんいるのか。そんな人達のことを羨ましく思う。
あまりにも嬉しいのか、あおいはニコニコしながらその場でゆっくりと一回転。その際にあおいの後ろ姿を見えて。後ろ姿も凄く綺麗だ。
「みんなお待たせ」
「お待たせ。あおいはもう来ていたのね」
愛実と海老名さんの声が聞こえたのでそちらに向くと、愛実の家から浴衣姿の愛実と海老名さんが出てきていた。俺達はそんな2人に「おぉ」と声を漏らす。
愛実の浴衣は赤い生地に桜の花びらがいっぱいにあしらわれている。よく似合っていて可愛らしい。去年までもこの浴衣を着ており、本人曰くお気に入りの浴衣。また、髪型は普段と違って、お団子の形に纏められていて赤いかんざしが刺さっている。それもあり、可愛らしさの中に艶やかさも感じられて。
海老名さんの浴衣は水色の生地に青や白のあじさいの花びら模様。去年着ていた浴衣とは違うけど、今年の浴衣もよく似合っている。爽やかな雰囲気で素敵だ。髪型は普段と変わらないけど、似合っている髪型なのでいいなと思う。
「愛実ちゃんもあおいちゃんも浴衣姿がよく似合っていますねっ!」
「そうだな、桐山。2人とも似合ってるぞ」
「2人ともよく似合ってるよ。愛実は今年もその赤い浴衣姿が可愛いよ。海老名さんが今年着たのは水色の浴衣か。爽やかな雰囲気でいいと思うぞ」
「3人にそう言ってもらえて嬉しいよ。ありがとう。この浴衣はお気に入りだし」
「ありがとう。香川家にいくつもある浴衣の中で、今年はこの浴衣を着させてもらったの。似合っているって言ってもらえて嬉しいわ」
俺達の感想を受け、愛実と海老名さんはニッコリと可愛らしい笑顔を浮かべる。さっきのあおいと同様に、笑顔になると浴衣姿がより一層魅力的になるなぁ。
「あおいちゃんの浴衣姿も素敵だよ!」
「綺麗よね。あおいは綺麗な黒髪だから大和撫子って感じがするわ」
「そうだよね」
「ふふっ、ありがとうございます」
「……あおい、愛実、海老名さん。凄く似合っているから、スマホで3人の浴衣姿の写真を撮ってもいいかな。写真も送る」
「もちろんいいですよ!」
「いいよ、リョウ君」
「いいわよ」
「ありがとう」
それから少しの間、俺のスマホで写真撮影会が行なわれた。
あおい、愛実、海老名さんそれぞれの写真はもちろん、あおいと愛実、あおいと海老名さん、愛実と海老名さんのツーショット、3人のスリーショットも。インカメラで5人全員の写真も撮った。
また、久しぶりのお祭りだからと、俺とあおいのツーショットも撮った。その様子を見た愛実が「私ともいいかな?」と言ってきたので、愛実とも。
今撮った写真は俺達5人と鈴木の6人のグループトークにアップした。
俺達は鈴木達との待ち合わせ場所である、調津北公園の入口近くに向かって歩き始める。あおい、愛実、海老名さんが下駄を履いているので、いつもよりもゆったりとした歩みで。
あおい、愛実、海老名さんが浴衣姿だったり、彼女らが履く下駄の「カタ、カタ、カタ……」という音が聞こえたりするから、夏らしい時間を過ごしているのだと実感する。
去年も勉強会の後に愛実と道本、海老名さんと一緒にお祭り会場まで行ったっけ。鈴木と須藤さんとは待ち合わせて、会場内で佐藤先生と会って。あのときは、まさか次の年にあおいとも一緒に行くことになるとは思わなかったよ。
「まさか、また一緒に涼我君と七夕祭りに行けるとは思いませんでした」
「俺も同じようなことを考えてた」
「ふふっ、そうですか。小さい頃にあったイベントが変わらず続いているのは嬉しいですね」
そう言うと、あおいは言葉通りの嬉しそうな笑顔を俺に向けてくれる。浴衣姿なのもあって、その笑顔はいつも以上に美しく見えて。
去年のお祭り会場にいる俺に、今の状況を話したらどう思うだろうな。
「涼我君と久しぶりに行けて、愛実ちゃん達と初めて行けて嬉しいです」
依然として嬉しそうな笑顔で、あおいはそう言った。
「俺もだよ、あおい」
「私もあおいちゃんとも行けて嬉しいよ」
「今年はより楽しくなりそうね」
「海老名の言う通りだな」
俺達がそう答えると、愛実と海老名さんはあおいと寄り添って歩く。寄り添う女子3人の姿を見ると微笑ましくて、嬉しい気持ちになった。
会場に近づくにつれて、周りにいる人達の数も多くなっていく。お祭りがあるから、浴衣や甚平を着る人の姿もそれなりにいて。また、男性中心にあおいと愛実、海老名さんに視線を向ける人もいる。
また、既にお祭りは始まっているので、ソースやタレなどの食欲をそそるいい匂いも香ってくる。午後はクッキーやマシュマロなどのお菓子を少し食べただけだから、結構お腹が空いてきた。
「おっ、みんな来たな! おーい!」
鈴木の声が聞こえてきたので、声がした方を向くと……待ち合わせ場所である公園の入口近くにいる鈴木と須藤さん、佐藤先生を見つけた。3人とも、笑顔でこちらに向いて手を振ってきている。
鈴木は黒い甚平で、須藤さんは紺色の生地に淡い黄色の満月模様が描かれた浴衣姿。2人は去年と同じ服装か。髪型もいつもと同じでよく似合っている。
佐藤先生はスキニーパンツにノースリーブの襟付きブラウス。去年とは違うけど、ラフな格好であることには変わりない。それでも、大人の女性の色香を感じられて。
「みなさん、こんばんは。愛実さんとあおいさん、理沙さんの浴衣姿が素敵だわ」
「そうだな! みんなよく似合ってるぜ!」
「3人とも浴衣姿いいねぇ。愛実ちゃんは可愛くて、理沙ちゃんは綺麗で。そして、あおいちゃんの浴衣姿を見るのは初めてだけど、本当に似合っているよ。綺麗な顔立ちだし、黒髪のロングヘアだから、まさに大和撫子だ。いやぁ、たまらないね」
3人とも、愛実とあおいと海老名さんの浴衣姿をとても褒めている。特に佐藤先生は。いい笑顔でサムズアップしているし。美少女達の浴衣姿を見られて眼福とか思っていそう。
「ありがとうございますっ! 3人も素敵ですよ! 特に浴衣姿の美里ちゃんは」
「そうだね、あおいちゃん」
「あおいと並ぶくらいの大和撫子だわ」
「ふふっ、ありがとう。力弥君も似合っているって言ってくれたし、今年もこの浴衣にして良かったわ」
えへへっ、と嬉しそうに鈴木と腕を絡ませる須藤さん。本当に2人は仲がいいな。今は曇っているから涼しいと思っていたんだけど、ちょっと暑く感じてきたな。
その後、あおいが須藤さん達とも一緒に写真を撮りたいと言ってきたので、再び俺のスマホで写真撮影会をするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます