第2話『自己紹介』
今日は始業式とロングホームルームの予定であり、お昼前に終わる。
朝礼が終わった後、体育館に行って始業式に参加する。俺はあおいと愛実、海老名さん、道本、鈴木と一緒に後ろの方に並んだ。
始業式冒頭の校歌斉唱のとき、あおいは当然歌っていなかったけど、じっくりと聴き入っている様子だった。
また、校長先生の話は……高校2年生になってもつまらなくて長いと感じる。
たまに、あおいや愛実の方をチラッと見ると、あおいは真剣な様子で校長先生の話を聞いているようだった。転校初日だし、うちの校長先生の話を聞くのは初めてだからだろうか。偉いなぁ。
始業式が終わると、教室に戻ってロングホームルームの時間に。
佐藤先生から、2年生における学習意識や3年生に進級する際の文理選択を含めた進路、今年度中にある主な行事予定などについて話をされる。2年生になると授業の内容が難しくなるし、文理選択をきっかけに進路についてしっかりと考えていく必要がある。大切な一年になると認識した。
また、秋頃には高校最大のイベントとも言える修学旅行がある。そのため、佐藤先生がその話をしたときはクラスがちょっと盛り上がった。
高校の修学旅行は愛実だけでなく、あおいとも一緒に行けるのか。凄く嬉しいな。
「これで、今日のロングホームルームで話すべきことは全て話せたかな。……じゃあ、新年度初日だから、これからは自己紹介の時間にしよう」
ついに、年度初日恒例の自己紹介タイムがやってきたぞ。きっと、自己紹介することになるだろうと思って、言う内容はだいたい考えてある。
「まずは先生から自己紹介しよう。朝礼のときは名前しか言っていなかったからね。佐藤樹理といいます。担当科目は理科。このクラスでは化学と選択理科での生物の授業を担当するよ」
去年と同じく、佐藤先生には2つの科目を教わるのか。選択理科では生物を選択するから。去年受けた科目よりも深くて難しい内容になるだろうけど、先生なら分かりやすく授業を受けられそうだ。
「あと、理科部という部活の顧問もしている。毎週金曜日に、化学実験室で面白い実験をやっているよ。2年からでも歓迎するから、是非、遊びに来てね。そして、趣味は漫画、アニメ、ラノベ、同人誌。特にボーイズラブとガールズラブが大好物だよ。次元は問わない。日々の風景の中で幸せを感じることもあるよ。仕事終わりや週末に駅近くにあるアニメイクやレモンブックスに行くことが多い。もしかしたら会うかもしれないね。勉強や進路だけでなく、趣味のことでも話しかけてくれると嬉しい。1年間よろしくね」
そう挨拶すると、クラスメイトの大半が佐藤先生に拍手を送った。
佐藤先生が趣味のことでここまでぶっちゃけてくれると、気持ち的に自己紹介がしやすくなる。もしかしたら、そういった雰囲気作りのために、先生は最初に自己紹介したのかもしれない。
「じゃあ、1人ずつ自己紹介してもらおうか。出席番号順に……麻丘君から」
「はい」
こういう1人ずつの発表のとき、大抵は出席番号1番からすることになる。昔はそれが嫌だったな。ただ、さすがに10年間も学校生活を送っていると、これは「あ」から始まる名字を持つ性だと割り切って受け入れている。
席から立ち上がり、俺は教卓まで向かう。
また、今まで教卓にいた先生は、教卓の近くにある椅子を俺の机の前まで持っていき、窓を背にして座る。腕を組み、長い脚を組んでいる姿は様になる。
教卓の前に立つと……当然ながら、クラスメイト達から視線が集まる。去年まではこの状況に緊張したけど、今は全然緊張しない。1年近く接客のバイトをして、色々な人と関わってきたからだろうか。それとも、あおいや愛実達といった幼馴染や友人が何人もいるからだろうか。
「麻丘涼我です。アニメや漫画、ラノベが大好きです。特にラブコメが好きです。部活は入っていませんが、駅前にあるサリーズという喫茶店で接客のバイトをしています。もし良かったら来てみてください。自分がシフトに入っているときは、しっかりおもてなしします。1年間よろしくお願いします」
自己紹介して、軽くお辞儀をすると、たくさんの拍手が送られる。
無事に自己紹介でき、事故紹介とならずに済んで良かった。今までで一番すんなりと自己紹介できたかもしれない。そんなことを考えながら自分の席に戻る。
「お疲れ様、リョウ君。良かったよ」
「いい自己紹介でした」
「去年よりも落ち着いていたね、涼我君」
愛実、あおい、佐藤先生からそれぞれ感想を言われる。複数人から好意的な感想を言われると、今の自己紹介で良かったのだと安心する。
出席番号2番目以降のクラスメイトの自己紹介が続く。最初に自分がやると、あとは自分以外全員のクラスメイトの自己紹介を聞くだけでいいから気楽だ。
「海老名理沙です。中学の頃から陸上部のマネージャーをしています。1年間よろしくお願いします」
「香川愛実です。料理やスイーツを食べることも作ることも好きです。それもあって、キッチン部に入っています。よろしくお願いします」
親しい人達も自己紹介していく。海老名さんも愛実も笑顔で話していた。彼女達が自己紹介したときは、他の人達よりも大きめに拍手を送り「お疲れ様」と声を掛けた。
「次は桐山さんだね」
「はい」
あおいが返事して席を立ち上がる。その瞬間、他の生徒のときとは違って、教室の中が少しざわつく。きっと、それはあおいが転入生で、今日が初登校だからだろう。
あおいは教卓の近くに立つ。
「桐山あおいです。3月まで、京都にある京都府立京都中央高校に通っていました。親の転勤で10年ぶりに調津に戻ってきました。麻丘涼我君とは幼馴染です。京都にいた頃はファミレスでバイトをしていたので、こっちでもバイトをしようかなと思っています。漫画やアニメ、ラノベ、音楽が大好きです。これから仲良くしてくれると嬉しいです。よろしくお願いします!」
あおいらしく堂々と自己紹介し、最後は元気良く締めて深めにお辞儀をした。それもあってか、これまでの中で一番大きな拍手が鳴り響き、
「よろしくね! あおいちゃん!」
「調津高校へようこそ!」
「よろしくどすえー!」
男女問わず、何人かの生徒から歓迎の声が掛けられるほど。
このことを嬉しく思ったのか、あおいはニッコリと笑って手を振りながら自分の席に戻っていった。席に座る際、俺と愛実が「お疲れ様」と声を掛けると、あおいは「ありがとうございます」と微笑みかけてくれた。
「ああいった言葉を掛けられると、あおいちゃんも安心できるんじゃないかな」
「そうですね」
さっきのクラスメイトの反応を見て、幼馴染として安心した。きっと、ここでの友達がたくさんできて、楽しい学校生活を送れるんじゃないだろうか。
あおいの後も、クラスメイト達の自己紹介は続いていく。その中で、
「鈴木力弥だ! 陸上部でやり投げしてるぜ! 投げやりじゃないぜ! 好きな人は恋人で、好きな食べ物は白飯と肉だ! みんな、よろしくな!」
「道本翔太です。中学から陸上をしていて、短距離走が専門です。これまでは関東大会出場が最高なので、今年はインターハイ出場を目標に頑張ります。ラブコメやスポーツものの漫画やアニメ。あとは音楽が好きです。よろしくお願いします」
鈴木はとにかく明るく元気よく。道本は爽やかな笑顔でしっかりと。それぞれ、らしさを感じられる自己紹介をしていた。
それからも、クラスメイトの自己紹介は続いた。
部活を頑張る人、バイトに勤しむ人、生徒会に入ろうかと思っている人、趣味で動画サイトに自作の曲を公開している人など、みんなやりたいことや楽しんでいることがあるんだなと思うのであった。
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