第15話『タピオカドリンク』

「アニメイクでいい買い物ができました!」


 3人それぞれが会計を済ませ、アニメイクの外に出たときにあおいが満足そうな笑顔でそう言った。


「3冊買ったもんね。良かったね、あおいちゃん」

「良かったな、あおい」

「はいっ! ここのアニメイクは品揃えがいいですし、家から歩いて10分ほどで行けるのが嬉しいです! 福岡のアニメイクは歩くには遠い距離でしたし、京都の方も徒歩だと20分くらいかかりましたから」


 あおいは嬉しそうに話す。いつでも気軽に行けるところにあるのは嬉しいよなぁ。


「そうだったのか。ここのアニメイクは高校からも近いから、学校帰りにも寄りやすいぞ」

「だから、放課後にリョウ君と一緒に行くことも結構あるんだよ」

「そうなんですね」


 1年の頃は、互いの予定が空いていれば、放課後は愛実と一緒にアニメイクへ来ることが多かった。今後は3人で一緒に来たり、あおいと2人で来たりすることもあるだろう。

 あおいが調津のアニメイクを気に入ってもらい、満足な買い物ができて良かった。俺も好きなラノベ作家の新作ラブコメを買えて満足だ。春休み中に読み終えたい。


「アニメイクでの買い物が終わりましたから、次のお店に行きましょうか」

「そうだな」

「次はどんなお店に行きたいの?」

「レモンブックスですっ!」


 元気良くお店の名前を言うあおい。

 レモンブックスとは主に同人誌を扱うショップのことだ。アニメイクほどではないけど、商業の漫画やラノベ、CDなども取り扱っている。レモンブックスも10年前にはなく、俺と愛実が小学5年生くらいのときにオープンしたと記憶している。

 あおいは同人誌をたくさん持っているので、レモンブックスにも行きたいんじゃないかと予想していた。さっきと同様に、愛実と目を合わせて笑みを浮かべる。


「引っ越してきた日に、涼我君が調津にも同人ショップがあると教えてくれましたから。調べてみたら、駅の近くにレモンブックス調津店があると分かりまして。是非、このショップにも行きたいなと」

「そうか。あおいらしいな。アニメイクほどじゃないけど、レモンブックスにも愛実と一緒に行ったことがあるよ」

「そうだね。だから、ここからレモンブックスまでの行き方も私達に任せて」

「嬉しいです。ありがとうございます!」

「それじゃ、行くか」


 俺達はレモンブックスに向けて出発する。

 レモンブックスは調津ナルコには入っていないので、まずはここから出ないといけない。そのため、アニメイクの近くにあるエスカレーターで1階まで降りる。

 1階は食料品売り場と飲食店、フードコートのあるフロアだ。降りてきたエスカレーターの場所がフードコートに近いため、1階に降りるとすぐに食欲のそそられる匂いが鼻腔をくすぐる。

 フードコートの飲食スペースには多くの人がいる。ドリンクやスイーツを楽しんでいる人が多い。あと、11時を過ぎているからか、うどんやラーメンといった食事をしている人達もいる。


「フードコート懐かしいですね。小さい頃は家族で買い物に来ると、ここでアイスを食べたり、ジュースを飲んだりしました。涼我君とも一緒にアイスを食べましたよね」

「そうだな。あとはクレープとか。たこ焼きを食べたこともあったよな」

「ありましたね」

「私もリョウ君とこのフードコートで何度もアイスを食べたり、ジュースを飲んだりしたな。ここも学校帰りに来るよ」

「そうなんですね。学校帰りのスイーツやジュースって美味しいですよね」

「分かる分かるっ」


 笑顔で何度も首肯する愛実。

 思い返すと……放課後にスイーツを食べたり、好きな飲み物を飲んだりする愛実は幸せそうな表情を見せることが多いな。


「あおいの言うこと……俺も分かるなぁ。学校が終わった解放感もあるからかな」

「きっとそうだと思います。いい匂いもしますし、フードコートの話をしたので、何か飲んだり、食べたくなったりしてきました」

「おっ、いいな。俺もちょっと小腹空いてきたし」

「じゃあ、何か食べたり飲んだりしようか。あおいちゃん、何か希望はある?」

「冷たいものがいいですね。アニメイクではずっと興奮していたから体が熱くて」


 確かに、アニメイクにいたとき、あおいはずっとテンション高かったな。あおいの顔を見ると……普段よりも血色がいい。


「分かった。冷たいものだね。それなら……あのタピオカドリンク店はどうかな?」


 そう言って、愛実は近くにあるタピオカドリンク店を指さす。

 あのタピオカドリンク店は数年前にオープンした店だ。これまで何度も愛実と一緒にドリンクを買ったことがある。美味しいのはもちろんのこと、ドリンクの種類も豊富なので全然飽きが来ない。


「タピオカドリンクですか。いいですね! 大好きですよ! 向こうにいた頃、放課後や休日に飲むことが結構ありました」

「そうなんだ。ここのお店はオススメだよ。ね、リョウ君」

「そうだな。美味しいし、種類もいっぱいだし」

「そうですか! では、行きましょう!」


 こうして、レモンブックスに行く前に、タピオカドリンクを飲むことが決まった。

 俺達は近くにあるタピオカドリンク店へ向かう。

 お店の前には10人ほど並んでいるので、俺達は待機列の最後尾に並ぶ。この待っている間に何を飲むか決めよう。


「あの、涼我君、愛実ちゃん。タピオカドリンクを私に奢らせてもらえませんか? 引っ越しの日にお手伝いしてくれたお礼に」

「……そういうことなら、あおいに奢ってもらおうかな」

「ご厚意に甘えさせてもらうね」

「はいっ!」


 あおいは嬉しそうに返事した。もしかしたら、3人でお出かけするのが決まってから、今日のどこかで俺達に奢ろうと決めていたのかもしれない。

 それから数分後に俺達が注文する番に。

 俺はカフェオレ、愛実は抹茶ラテ、あおいはミルクティーでそれぞれSサイズを注文。そして、代金は全てあおいが出してくれた。

 フードコート内にある飲食スペースでタピオカドリンクを飲むことに。

 お昼時が近づき、人も段々多くなってくる時間帯だが、4人用のテーブル席はいくつも空いていた。俺達はそのうちの一つに腰を下ろす。ちなみに、あおいと愛実が隣り合って座り、俺はあおいと向かい合う形で座る。

 席に座ると、あおいと愛実は自分のタピオカドリンクをスマホで撮影していた。そんな2人に倣って、俺もカフェオレをスマホで撮る。


「あおい。奢ってくれてありがとう。美味しくいただくよ」

「ありがとう、あおいちゃん」

「いえいえ! では、いただきます!」

『いただきまーす』


 俺達はそれぞれのタピオカドリンクを飲み始める。

 ストローで吸っていくと、まずは苦味のしっかりとしたカフェオレが口の中に入ってくる。その直後に甘味のあるタピオカも。


「……冷たくて美味しい」


 ここのタピオカカフェオレ……コーヒーの苦味とミルクやタピオカの甘味のバランスが良くて美味しいんだよなぁ。元々コーヒー好きなのもあり、このタピオカドリンク店ではカフェオレを一番多く頼む。あと、今日はあおいに奢ってもらったから、いつも以上に美味しく感じられる。


「タピオカミルクティー冷たくて美味しいです!」

「抹茶ラテ美味しい~」


 あおいと愛実はそう言い、それぞれのタピオカドリンクを幸せそうに飲んでいる。あおいとタピオカドリンクを飲むのは初めてだけど、こんな感じで飲むんだ。可愛いな。そんな2人を見ながらカフェオレをもう一口飲むと……さっきよりも美味しい。


「リョウ君。抹茶ラテ一口いる?」

「ありがとう。じゃあ、俺のカフェオレも一口どうぞ」

「ありがとう」


 俺と愛実は自分のドリンクが入ったコップを相手の目の前まで差し出す。そんな俺達のことを、あおいは見開いた目で見ていた。


「何だか自然な感じのやり取りでしたが、普段から一口交換するのですか?」

「ああ。昔から、愛実と違ったものを注文すると一口交換することが多いよ」

「嫌いなものじゃない限りはね。多少ドキッとすることはあるけど、もう慣れっこだよ」

「俺も同じ感じだ」


 そういう感覚になれるのは、小さい頃からずっと一口交換をしてきているからかもしれない。


「そうなんですね。さすがは10年一緒にいる幼馴染です」

「ふふっ。カフェオレいただきます」

「おう。俺も抹茶ラテいただきます」


 俺は愛実の抹茶ラテを一口いただく。

 抹茶の苦味のおかげでさっぱりしていて美味しいな。抹茶の方も苦味が強めなので、ミルクやタピオカの甘味がちょうどよく感じられる。


「抹茶ラテも美味しいな」

「美味しいよね。カフェオレも美味しいね。ありがとう」

「いえいえ。こちらこそ」


 お礼を言って、俺達は相手のドリンクを目の前に戻した。その際、カフェオレを一口飲んだ。


「わ、私とも一口交換しませんか、涼我君! 久しぶりですから緊張はしますけど、小さい頃は何度かしていましたし……」


 そう言うあおいの顔は頬中心に赤くなっており、視線もちらついている。まあ、一口交換するってことは、間接キスをすることになるからな。


「確かに、小さい頃はあおいとも一口交換していたよな」


 幼稚園に通っていた頃だったから、一口交換することに躊躇いや緊張は全然なかった。

 ただ、今は高校生。10年間していないし、あおいの緊張しい赤面を見ると、さすがに俺もドキドキしてくる。


「わ、分かった。あおいとも一口交換しよう。でも、大丈夫か? カフェオレだけど、苦味がしっかりしているから」


 ブラックコーヒーが飲めないあおいにはキツいかもしれない。


「だ、大丈夫だと思います。ブラックではないですし、タピオカに甘味がありますから」

「ミルクの甘味もあるからね。きっと、あおいちゃんも大丈夫だと思う」


 愛実のそんな言葉に、あおいは愛実の方を見て小さく頷く。


「あおいはこの店が初めてだし、一口飲んでみるのがいいかもな」


 俺はカフェオレの入ったコップをあおいの目の前に置いた。あおいもミルクティーの入ったコップを俺の目の前に置く。

 ミルクティーのコップを手に取ると、微かに感じられるあおいの温もりや、ストローの先が湿っていることを意識してしまう。


「で、では……カフェオレいただきますね」

「俺もミルクティーいただきます」


 俺はあおいのミルクティーを一口飲む。俺のカフェオレを飲んでいるあおいの姿を見ながら。ちゅーっと吸っているあおいが可愛らしい。

 カフェオレや抹茶ラテよりも甘いな。だけど、紅茶の風味がしっかりしているから、甘ったるくはない。ただ、ミルクティーの美味しさよりも、冷たいことの心地良さの方がより強く感じられた。


「ミルクティー美味しいな。……カフェオレはどうだ? あおい」


 あおいが嫌だと思わないほどの苦味だといいけど。


「美味しいです。タピオカもありますから、このくらい苦味があっても大丈夫です」


 さっきよりも赤くなった顔に微笑みを浮かべながら、あおいはそう言った。そんなあおいがとても可愛く見えて。あおいのミルクティーを飲んだ直後なのもありドキッとする。


「そ、そうか。あおいが美味しいと思えるカフェオレで良かった」

「とても美味しかったです。ありがとうございます」

「いえいえ。こちらこそありがとう」


 俺とあおいは互いのドリンクのカップを相手の前まで戻す。その流れで、自分のカフェオレを一口飲むと……愛実とあおいが口を付けたからなのか、今までの中で一番味わい深く感じられた。


「ねえ、あおいちゃん。私とも一口交換しよう?」

「ぜひ! 抹茶ラテがどんな味なのか気になっていましたから!」


 あおいと愛実の間でも一口交換を行なう。2人とも可愛い笑顔になり、相手のタピオカドリンクを美味しそうに飲んでいる。そんな2人を見ていると微笑ましい気分に。


「抹茶ラテも美味しいですね!」

「美味しいよね。ミルクティーも美味しい」


 抹茶ラテもあおいの口に合ったか。良かった。

 それからは、アニメイクで買った本のことや、京都や福岡のアニメイクの話をしながらタピオカドリンクを楽しむのであった。

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