第14話『アニメショップ』

 午前10時過ぎ。

 俺達は調津駅の方に向かって歩いている。春の日差しの温かさと、柔らかく吹く風の涼しさが心地いい。このままずっと歩くだけでもいいと思えるほどだ。


「あおいちゃん。まずはどんなお店に行くの?」

「アニメイクですっ! アニメショップですから、特に行きたいお店の一つです」

「そうなんだ! アニメイクなんだね」


 やっぱり、あおいが行きたいお店の一つはアニメショップだったか。予想が当たったな。俺と同じことを思ったのか、愛実は俺にニコッと笑いかけた。


「今日は私の行きたいお店に行くことになっていますが、お二人も行きたいお店やオススメのお店があったら遠慮なく言ってください。そういったお店を知りたいですし、行ってみたいですから」

「分かったよ、あおいちゃん」

「分かった。ちなみに、アニメイクはオススメのお店だぞ」

「オススメだよね。漫画やラノベ、アニメ関連のものはアニメイクに行けば大抵は買えるもんね」

「そうだな」


 小学生の頃にアニメイク調津店が開店してから、そういったものの大半はアニメイクで買うようになった。購入特典の付くものが多いし、カードやアプリでポイントを貯められるから。

 あおいは「ふふっ」と声に出して楽しそうに笑う。


「お二人がオススメしてくれるので、ますます楽しみになりました。事前に場所を調べていますが、お二人が一緒なら迷いなく行けますね」

「ああ。俺達に任せろ」

「任せておいて」


 俺達がそう言うと、あおいは明るい笑顔で「はいっ」と返事した。

 アニメイクには数え切れないほどに行っているから、あおいを連れて行くのは容易いことだ。

 あおいと愛実と話していたのもあり、気付けば調津駅の近くまで来ていた。

 今日は土曜日で天気がいいのもあって、年齢や性別問わず多くの人がいる。そのうちの大半は休日を楽しんでいるようだけど、中にはスーツ姿や学生服の人も見受けられる。きっと、会社や学校に行くのだろう。土曜日までお疲れ様です。

 また、男性中心にこちらを見てくる人がちらほらと。あおいも愛実も魅力的な容姿の持ち主だからなぁ。どちらも、今着ている服が凄く似合っているし。ただ、俺も一緒だからか、話しかけたり、絡んできたりする人はいない。2人が楽しいと思える日にするためにも、俺がしっかりしないと。

 俺達はアニメイク調津店が入っているショッピングセンター・調津ナルコに入る。


「うわあっ、ナルコ懐かしいですね。入っているお店は色々と変わっていますが」

「ナルコに来たことあるんだね」

「小さい頃、両親とよくお買い物に来ていました。涼我君ともアイスやスイーツを食べたり、ゲームコーナーで遊んだりしましたよね」

「そうだったな」


 あおいと一緒に、両親に「アイス食べたい!」「ゲームコーナー行きたい!」ってお願いしたこともあったっけ。


「そうなんだ。私もリョウ君とはよく買い物に来るよ。アイス食べたり、ゲームコーナーで遊んだりもするよ。駅前だし、高校からも近いから学校帰りに行くこともあるの」

「そうなんですね! あと、昔はアニメイクはなかった気がします」

「小学生の頃にできたからな。確か……3年生ぐらいの頃だっけ」

「そのくらいだと思う」

「そうだったんですね。福岡にも京都にもアニメイクはありましたが、調津のアニメイクはどんな感じが楽しみです!」


 ワクワクした様子でそう言うあおい。

 福岡と京都にもアニメイクがあるのか。アニメイクは全国展開しているからな。

 俺達はエスカレーターでアニメイクのある4階まで向かう。このフロアにはアニメイクを含め、雑貨屋、手芸ショップ、ゲームセンターなどの専門店が集まっている。こういうお店があるんですね、と興味津々な様子で歩きながら周りを見るあおいが可愛らしい。


「ここがアニメイクだよ」


 俺達は最初の目的地であるアニメイクの入り口前に到着した。

 あおいは「おおっ!」と甲高い声を上げ、輝かせた目で店内を見ている。

 午前10時半前だけど、アニメイクの中には結構多くのお客さんがいる。俺達のような学生から30代くらいの若い世代が多い。また、小学生くらいの子供の姿も見受けられる。


「パッと見た感じ、立派そうなアニメイクですね!」

「漫画やラノベ、CDやBlu-rayの品揃えは結構いいぞ。グッズも人気作品とか、放送中のアニメ作品中心に売ってるよ」

「あと、女性向けの同人誌も少し取り扱ってるよ」

「そうなんですね! では、さっそく入りましょう!」


 あおいを先頭にして、俺達はアニメイク調津店の中に入る。

 お店に入ってすぐにあるのは、新刊コミックのコーナー。少年漫画や少女漫画、青年漫画の新刊が置かれている。その近くには、この4月からTVアニメが放送される少年漫画の特設コーナーも設けられていた。

 新刊のコーナーだけあって、並んでいる商品を眺めたり、手に取ったり、サンプル冊子を読んでいたりするお客さんが多い。俺達もそれに漏れず、コーナーに置かれている本をゆっくり眺めることに。


「たくさんの新刊が並んでいますね。午前中ですが、今日発売の漫画も置かれていますね。さすがは東京です」

「京都や福岡だと入荷が遅れるのか? 地方だと、入荷が遅れるのが普通って聞いたことがあるけど」

「京都では発売当日に買えましたが、福岡に住んでいた頃は1日や2日か遅れるのが当たり前でしたね。CMや広告で漫画の発売日を知って、その日に本屋に行っても入荷されていなくて。福岡に引っ越して間もない頃は、そのことに泣いちゃうこともありました」

「そうだったのか」

「ここだと漫画は発売当日に買えるよね。大人気で売り切れない限りは」

「そうだな。ラノベとかは、レーベルによっては発売日前に買えることもあるよな」

「そうだね」


 発売日には欲しい本が買えるのは普通だと思っていたけど、それは東京という場所に住んでいるからなんだな。有り難いことだ。


「あっ」


 あおいはそう声を漏らすと、一冊の本を手に取る。その本の表紙には美麗な男女のイラストが描かれている。


「数日前に発売された好きな漫画の最新巻がありました! 引っ越しの作業があって今まで買えなかったんです」

「そうなんだね」

「あって良かったな」

「はいっ!」


 あおいは嬉しそうに返事する。引っ越しがあって欲しい漫画がなかなか買えなかったことも、アニメイクに行きたいと思った理由の一つなのかもしれない。


「あっ、私の好きな漫画の最新巻も発売されてる」


 愛実はそう言うと、嬉しそうな様子で漫画を手に取る。その本のタイトルを見ると……愛実の部屋の本棚にある少女漫画か。

 それぞれ買いたい漫画があったからか、あおいと愛実は楽しそうに笑い合っている。そんな2人を見ると、アニメイクに来て良かったなぁと思える。これからはこういう光景をたくさん見るのかもしれない。

 新刊漫画コーナーの奥に行くと、次にあるのは新刊のライトノベルやライト文芸のコーナーだ。月初めに新刊を発売するレーベルがあるのでチェックしておくか。


「ラノベの方もたくさん置かれていますね」

「そうだな。……おっ」


 好きなライトノベル作家の新作が置かれているので、一冊手に取る。タイトルからしてラブコメ作品かな。裏表紙に書いてあるあらすじを読んでみると……結構面白そうだ。


「それは何ですか?」

「好きな作家の新作だ。あらすじ読んだら、面白そうなラブコメっぽいし買うよ」

「そうですか」

「リョウ君、ラブコメのラノベが大好きだもんね」

「そういえば、本棚にも結構ありましたね」

「ラノベも漫画もアニメもラブコメが一番好きだからな」


 タイトルや表紙が良かったり、あらすじを読んで面白そうだったりしたら買ってみるラブコメ作品は多い。

 俺が買うと決めたラノベを書いた作家は、これまでにラブコメやファンタジーシリーズを何作も発表している。ジャンル問わず好みに合った作品が多い。なので、この新作は期待大だ。

 その後も、ラノベの新刊コーナーを見ていくと、


「ありました! これも数日前に発売されたんです!」


 あおいがボーイズラブの新刊を手に取っていた。


「私、タイトルは知ってるよ」

「そうですかっ! これは意中の男性のツンデレな言動や濃厚なキスシーンにとてもキュンキュンするラノベシリーズなんですっ! 美しい表紙や挿絵も素晴らしいですよっ!」


 と、あおいが早口で熱弁。そのせいなのか、それとも興奮しているのかあおいはほんのりと顔を赤らめ「はあっ、はあっ……」と息を乱している。今までで一番オタクな姿を見た気がする。そんなあおいの語りに感銘を受けたようで、愛実があおいに第1巻を貸してほしいとお願いしていた。ここまで熱烈な布教現場は初めて見たぞ。

 新刊のラノベコーナーを見終わり、俺達はグッズ、女性向け同人誌コーナーの順番に廻っていく。

 あおい曰く、グッズや女性向け同人誌が売られている種類の多さは福岡や京都のアニメイクといい勝負とのこと。こちらのアニメイクでも満足できそうで良かった。

 最終的に俺はラノベ一冊、愛実は漫画一冊、あおいはラノベと漫画、同人誌をそれぞれ一冊ずつ購入するのであった。

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