第355話 宰相という肩書きを背負って(カルセイン視点)
王城に到着すると、リトスさんとルナイユ様と共にリカルドと合流することになった。
「リカルド殿」
「カルセイン、無事到着できて良かったよ」
「さすがのシグノアス公爵も、現段階で親族になる予定の私を襲撃はなさらないでしょう」
「そうだね」
もちろん、姉の婚約は何一つ認めていないが。
「お二方も、ご協力本当にありがとうございます」
「いえ、主君のため動いたまでですから」
「はい。その言葉は私達ではなくレティシア様と大公殿下に伝えてください」
「……それでも。心より感謝いたします」
リカルドが深々と頭を下げると、二人もそれに応じるように頭を下げるのだった。
顔を上げたリカルドは、真剣な声色で話し始めた。
「時間が限られている。オルディオから借りた部屋があるから、そこで話をしよう」
オルディオ殿下所有の部屋であれば、確かにシグノアス公爵の目は届きづらいことだろう。
隣室でリトスさんとルナイユ様には休んでいてもらうことにし、俺はリカルドと二人部屋で話すことにした。
「そうですか、レティシア達が姉様の救出に……レイノルト様もいるのであれば、安心ですね」
(無事でいてくれるのなら、それでいい)
「あぁ。適材適所だと思うよ」
姉妹の安否がわかったところで、早速今後の動きについて説明が始まった。
「明日、王城で議会が開かれるのは知ってるだろう」
「もちろんです。その準備のために登城しましたから。……権威はないとはいえ、私は宰相ですから」
すっかり議会はシグノアス公爵側につく者達で染まり、若くして宰相になった俺自身のことを純粋に重んじている貴族はそう多くなかった。
「だが宰相だ。その地位は、誰にでも奪わせないでくれ。僕にとっても、カルセイン以外は考えられない」
「……ありがたきお言葉です」
「親族贔屓ではないからね」
「貴方はそんなことなさらないでしょう」
「さすが、わかっているね」
嬉しそうに笑みを浮かべるリカルドは、どこか余裕が見えた。
「そんな宰相にしかできないことがある」
「……何か、役目をいただけるのなら成し遂げてみせます」
「ありがとうカルセイン。凄く心強いよ。……明日、シグノアス公爵は必ず仕掛けてくる」
「……そんな気はします」
シグノアス公爵がどんなことを仕掛けるかまではわからなかったが、リカルドにすれば手に取るように相手の考えがわかるようだった。
「その仕掛けを、僕は利用するつもりなんだ」
小さく微笑むと、リカルドは俺に指示を出すのだった。
◆◆◆
〈シグノアス公爵視点〉
いよいよこの日がやって来た。
王座を手にする日が。
このために、第一王子および第二王子派という勢力を伸ばしてきたのだ。
「……いいかイノ。今日からお前は正真正銘第二王子となる」
「…………」
「影ではなく、本物のだ。光を浴びる時が来たのだよ」
「…………」
馬車の中で向かい側に座るイノは、まだ仮面を付けてはいなかった。ぐっと堪えるような表情は、何を不安に思っているのか明らかだった。
「……忘れるな。オルディオの命が誰の手にあるのかを」
「!!」
そう脅せば、イノは従わざるを得ない。最初からそうだった。イノは異常な程にオルディオへの思いが強い。これほどまでに利用しがいのあるものはない。
「イノ。お前はただ、黙っていれば良いのだ。役目を果たせばな」
「……はい」
もうオルディオがこの世にいないことなど、イノにとっては知る由もない。そして、オルディオの顔を知る人物も今日でいなくなる。
(真の第二王子の誕生だ)
長かった道のりに終わりが来ると思うと、笑みがこぼれる。
第一王子か第二王子か、傀儡になれば正直どちらでも問題ない。正直、エドモンド以上に傀儡に相応しい人物はいないが。
代えがきく点では、二人産んだ妹に感謝せねばなるまい。
そんな些細な感謝を抱きながら、到着した王城へと進んでいった。
議会へと向かう前に、控え室へと移動する。
「いいか、イノ。……いや、オルディオ殿下。貴方はただ、登場すれば良いのです。機会は使者が伝えに来ますゆえ」
もう彼に“イノ”という名前は必要ない。後はあの男が息を引き取れば、ここにいる作り上げられたオルディオの時代が来るのだから。
葛藤しながらもゆっくり頷く第二王子に、私は笑みを深めた。
「……では、後程」
その言葉を最後に、私は議会へと足を運んだ。議会が開かれる部屋の前には、既に到着した各大臣や代表の当主が集まっていた。
(名ばかりの宰相が……むしろカルセインに代わってくれて良かったな。前宰相は中途半端に権力を持っていたからな)
ベアトリスを預かっている以上、今のカルセインにも手出しはできまい。
(後はあの報告だけだが……)
議会の扉が開かれると、続々と待機者達が中へと入っていく。私は一人それを見送りながら、報告を直前まで待っていた。
「公爵様。ご報告申し上げます。無事、混入は上手くいったと」
「そうか……!」
あの男も私の用意した毒を飲んだとのことだった。
(賢王と言われたのも前の話。今となっては、息子一人飼い慣らせない無能な父親よ)
そう鼻で嘲笑いながら、部屋の中へと入るのだった。
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