第324話 匿うべき人と刺客の素性


 フェルクス大公子とオルディオ殿下が親しい仲であることが、二人の様子から察することができた。


(二人も兄弟なのね……)


 そうしみじみと感じていると、フェルクス大公子は本題に戻った。


「イノの救出は把握したよ。シグノアス公爵の調査に関しては任せてほしい」

「ありがとう、リカルド」


 話がまとまると、フェルクス大公子は少し考え込んだ。


「……となれば、今後オルディオをどう匿うかだね」

「あ……」

「元居た場所は危険なんだろう? それなら我が家に」

「リカルドの家は……何かあった時に利用されないか、シグノアス公爵に」

「……可能性がないとは言い切れないな」


 オルディオ殿下の懸念を感じていると、レイノルト様が間に入った。


「もしよろしければここに滞在し続けていただければ」

「大公殿下、それは――」

「問題ありませんよ、オルディオ殿下。この屋敷であれば、まずシグノアス公爵が手を出すことはできません。それにシグノアス公爵も、まさか帝国所有の屋敷に匿われているとは思わないでしょうから」


 レイノルト様の言うことはもっともだった。それに加えてシグノアス公爵側はオルディオ殿下を第二王子ではなくその従者イノとして認識している。なおさらこの屋敷にいるとは想像しないだろう。


「レイノルト様さえよいのであれば。どうかオルディオをお願いします」

「もちろんです」


 レイノルト様とフェルクス大公子で話が進む中、オルディオ殿下はどこか申し訳なさそうな表情で二人のやりとりを見つめていた。


「…………必ず、この御恩をお返しします」


 そう絞り出したオルディオ殿下に、レイノルト様は優しく微笑んだ。


「いつでも構いませんよ」

「ありがとうございます。お、お世話になります」


 少し緊張した面持ちながらも、オルディオ殿下の声色にはどこか安堵も含まれている気がした。今後の話がまとまると、再びフェルクス大公子は真剣な声色でオルディオ殿下を見つめた。


「オルディオ。一つ整理したい話がある」

「あぁ」

「君が追われていたのは、第二王子の従者〝イノ〟だから、か?」

「それで間違いないと思う。彼らに名を尋ねれられたから」

「何故イノが追われるんだ?」


 そうフェルクス大公子から出た疑問は、鋭いものだった。


「勘違いしているとはいえ、シグノアス公爵の手元には第二王子とされている人物がいるんだ。正直な話、イノを追う理由がないだろう」

「……第二王子のため、とかではないのか? 従者として使うために」


 オルディオ殿下がそう返した瞬間、フェルクス大公子はさらに深刻そうな表情になった。


「それは絶対に違う。というか不可能だ。イノだと勘違いした君を追っていたのは、シグノアス公爵が保有するただの刺客じゃない。彼らは暗殺に特化した集団なんだよ」

「「「!!」」」


 突然出たフェルクス大公子の言葉に、今度は私とレイノルト様まで目を見張ってしまう。


「シグノアス公爵に関しては昔から縁があるから、彼がどんな駒を所有しているのかある程度はわかる。今回オルディオに接触したのは、間違いなくシグノアス公爵が持つ中で強力な方の戦力だ」

「……それはつまり、シグノアス公爵はイノを殺そうとしていたということか?」

「間違いないと思う。囮になった方のことさえも、殺そうとしていたくらいだからね」


 フェルクス大公子は、刺客達はとにかく殺気立っていたと説明した。


「だが……何故、シグノアス公爵がイノを殺す必要があるんだ。弱みとして捕まえておくのならまだしも」

「あぁ。殺す意味も利益も、シグノアス公爵にはないと僕も思う」

「むしろ生かした方が、後々手元にいる第二王子を意のままに操れるだろうに……」


 二人の話からは、シグノアス公爵の行動への疑問が深まるばかりだった。


「それも合わせて探ってみるよ。……今イノが殺される確率は低いように思うから」

「ありがとう、リカルド」

「礼には及ばないよ、僕の為でもあるんだから。……それよりもオルディオはひとまず療養して待っていてくれ。緊張し続けて疲れただろうから」

「その気遣いはありがたく受け取らせていただく」

「あぁ」

 

 終始私は聞いているだけで話に介入することはなかったが、フェルクス大公子側としての方針は定まったように思えた。

 そしてこの会話を最後に、フェルクス大公子は屋敷を後にした。


 約束通り、オルディオ殿下は屋敷内で匿うことに決まった。

 私とレイノルト様は、ベアトリスとカルセインへの報告も兼ねて一度屋敷に戻ることにしたため、屋敷に残るリトスさんにオルディオ殿下を託す形となった。


「…………というわけだリトス。この屋敷が襲撃されることはないと思うが、殿下のことを守ってほしい」

「まさかとは思ったがやはり高貴な方だったか。……わかった、任せてくれ」

「巻き込んですまないな」

「なに言ってんだ。レイノルトは一度姫君とエルノーチェ公爵邸に戻らないとだろう?」

「あぁ。もうすぐ出発するよ」

「リトスさん。私の方からも。よろしくお願いいたします」

「固くならないでください姫君。俺は自分の立場上当然のことをしているだけですから。それよりも、お二人ともお気を付けて」

「リトスさんも」


 本当にリーベルク大公家の右腕は心強い。フィオナ様にも事情を説明すれば、「お任せください」と強かな返事をもらうのだった。

そして、リトスさんとフィオナ様への説明が終わると、私は一人オルディオ殿下と話すために接触を試みることにした。

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