第267話 二人の恋模様④
お知らせもなしに更新を止めてしまい、大変申し訳ございませんでした。本日より再開いたします。何卒よろしくお願いいたします。
▽▼▽▼
〈リトス視点〉
たくさんではないものの食べ物を口にしたので、今度は景色を楽しめる場所に連れていこうと思った。
(フェリア様の提案で凄く良い時間を過ごせたのだから、次は俺が……)
そんな思いから、自分が知る限りで気に入ってもらえそうな場所を選んだ。選んだのはいいものの、いざ足を進め始めると、緊張と不安が大きくなってしまって、自分の鼓動の音しか聞こえなくなってしまった。
(……フェリア様はそもそも花はお好きだろうか?)
案内し始めたのはいいものの、果たしてこれが正解かわからなくなっていた。ぐるぐると頭の中を疑問が回りながらも、王都を抜けてどうにか目的の場所に到着した。
「こちらになります」
建物を抜けた先には、一面の花畑が広がっていた。
「わぁっ……!!」
広がる景色をみた瞬間、フェリア様の顔に驚きと喜びの色が広がった。その反応を見て、ほっと胸を撫で下ろすのだった。
「凄い……こんな素敵な場所があっただなんて、知りませんでした」
「知る人ぞ知る、穴場の場所です」
「リトス様はよくこちらに?」
「はい。この景色を見ると落ち着くので、よく来ていました」
「……確かに。この美しさは、時間を忘れてしまいそうですね。よく来られるのも納得です」
(……良かった)
反応は間違いなく良いもので、自分の好きな場所を気に入ってもらえそうな言葉は純粋に嬉しかった。
「座りましょうか」
「はい」
フェリア様の手を引くのは未だに慣れなかったが、どうにか緊張している本心を隠して、ベンチへと移動をした。
夕方に差し掛かるこの時間は、自分達以外他に誰もいなかった。
席に着くとお互いに一息つこうと思った故にか、沈黙が生まれた。何か話すべきか考えようとした時、爽やかな風が吹いた。その風が、フェリア様の美しい髪がなびいた。
(……綺麗だ)
思わずその髪に見とれると、フェリア様が髪を耳にかけた。その仕草さえも惹き付けられて、ぼうっと魅入ってしまった。
「……夕日がちょうど沈む時間みたいですね」
「あ……はい」
「とても幻想的ですね」
フェリア様の言う通り、花畑に夕日の温かな光が差し掛かった。当然、フェリア様にもその光がかかって、美しさがさらに増した。
「……綺麗です」
「はい。確かにここは落ち着きますね。綺麗な上に静かな空間ですから」
「……フェリア様が、一番綺麗ですね」
「えっ」
その時、ぼんやりとした頭だった為に自分が内心で呟いたつもりの言葉が声にでていることに気が付かなかった。
「あ、あの……」
「?」
「あ、いえ……」
困惑するフェリア様の様子を見て、疑問と心配の気持ちが浮かび上がった。次の瞬間、恥ずかしそうに言葉を紡いだ。
「その、ありがとうございます……」
「……?」
(ありがとうございます……?)
どうにかその言葉を解読しようと、自分の言動を振り返った。
(ま、まさか。声に出したのか……!?)
衝撃的な事実に気が付くと、動揺で言葉を失ってしまった。
(ど、どうしよう……いきなりそんなことを言われたら気持ち悪いよな? 謝罪するべきだ……あやでも。謝罪したら、それはそれで何だか綺麗だと言った言葉を取り消すことにならないか……!? どうすればいいんだ……!)
焦りに焦って、上手く思考がまとまらない。フェリア様も言葉を探しているのか、沈黙のままだった。当然だ。順番的には、俺が返す番だから。その事実が、尚更自分を焦らせた。
(……ここはもう、隠さず、誤魔化さず、正直に言うことが最善じゃないか?)
自分の発言を振り返った時、俺は確かに言ったのだ。“フェリア様”が一番綺麗だと。彼女の名前を挙げて。それなのに言葉を濁せば、その時点で自分の本心ではなくなる。
(……そうだ。ここは濁すところじゃない)
もしかしたらまだ自分は、ふわふわとしたハッキリとしない思考で、冷静にはなりきれなかったのかもしれない。それでも意を決した。
フェリア様に向き合って、しっかりと目を合わせた本心を告げた。
「……フェリア様が一番綺麗です。私にとって、時間を忘れるほど、どの花よりも永遠に見ていたい、傍にいたいのはフェリア様です。……貴女の隣が、一番落ち着くから」
「!!」
どう思われるかはわからない。
受け取ってもらえず、振り払われるかもしれない。そんな恐怖が込み上げながらも、包み隠さずに伝えられたことに後悔はなかった。
ただ上手く伝えられたかはわからず、切実な想いでフェリア様を見つめていた。
風がそよぎ、沈黙が流れた。
フェリア様は何を思ってかわからないが、下を向いてしまった。
(…………早急、だっただろうか)
沈黙が長くなればなるほど、不安の思い強くなっていった。言葉の選び方に対する後悔が生まれ始めると、俺自身も視線を下げてしまう。
「リトス様」
「…………」
フェリア様の声に顔を上げた。
ずっと聞いていたいと思ったその声も、今だけは緊張を引き寄せて強めるものになっていた。
それでも視線を合わせて言葉を待つ。
「……私も、リトス様と同じ思いですわ」
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