第261話 認められた大公妃




 ネイフィス公爵家が侯爵家へと降爵してから半月が経った。


 その間は、想像以上に濃い日々で時間の流れはあっという間だった。嵐のような時間が過ぎると、ようやく平穏が訪れ、ゆったりとした過ごすことができていた。


「それにしても凄いですね」


 そう言うと、シュイナは机の上に山積みになった招待状を丁寧に整理し始めた。


「社交界ではすっかり注目の的ですからね! 今では誰もがお近づきになりたいと思っている高嶺の花といっても過言ではありませんから」

「エ、エリン。誇張しすぎよ」

「お嬢様、僭越ながら私もエリンの意見には同意します」

「シュイナまで……」


 二人が嬉しそうに私を上げる姿を見ると、思わず苦笑いを浮かべてしまった。


 ネイフィス様ーーマティルダの一件が一度落ち着くと、社交界活動を本格的にし始めた。王家や各家主催のパーティーには、必要最低限レイノルト様と一緒に参加をした。


 その際、もちろんマティルダに関して尋ねられることがあったものの、無難な言葉で切り抜けた。正直、下された判決が全てだと思っているので、その旨を伝えていた。


 ありがたいことに、ライオネル様からは自分のことを自由に使って構わないとのことだった。つまり全ては陛下の考えだと言える道を作ってくれた。ほとんどの対応は自身でどうにかしたものの、時々本当に面倒な相手にはライオネル様の言葉通り、使わせてもらった。


 何故かそれら全ての対応が評価された結果、私はいつの間にかレイノルト様の婚約者並びに大公妃としてほとんどの人に認められる形になったのだった。


(それが事実だと裏付けるのが、この大量の招待状なのね……)


 机に目線を向けると、今までの人生では想像つかない程の招待状の数があった。当分の間、驚く心情は消えそうにないなと思いながら、小さく息を吐いた。


「あっ。お嬢様、ルナイユ公爵令嬢様からお手紙が」

「フェリア様から?」


 ルナイユ様といえば、本来であれば開催した慰労会が思い出される。


 王城から帰った翌日に、ルナイユ様、シエナ様、シルフォン嬢に披露会に参加できなかったことを謝罪しにいった。


 皆優しく、尚且つ情報を手にするのが早かったので、かなり心配をかけてしまった。傷一つないことを何度も説明したものの、納得してもらうまでには少し時間がかかった。


 あれから慰労会をやり直した時には、ルナイユ様から「是非下の名前で呼んでください」という提案を受けてから、私達は下の名前で呼び合うことにした。


 シュイナから手紙を受け取ると、早速封を開けた。


(……あっ! リトスさんとのデートが終わったのね!)


 シュイナ様からの手紙も招待状だったが、内容はパーティーやお茶会ではなく、恋愛の進捗に関する報告会、いわゆる女子会への招待だった。


(これは行かないと……!)


 読み終えた時には自然と笑みが浮かんでいた。その瞬間心が落ち着いて、椅子に深く座り込んだ。


 すると、部屋にノック音が響いた。

 シュイナが扉を開くと、そこにはレイノルト様がいた。


「レイノルト様」

「レティシア」


 急ぎ駆け寄ると、レイノルト様は笑顔を浮かべていた。


「実は今日は仕事が早く終わりまして。良ければ庭園でも歩きませんか?」

「もちろんです」

「良かった」


 レイノルト様の誘いを受けると、二人屋敷の外を散歩することにした。いつも通りレイノルト様にエスコートをされながら、二人庭園を歩いた。


「机に凄い数の招待状がありましたね」

「はい。凄く驚いてます……」

「今までのレティシアの振る舞いを考えれば、人気が出るのも頷けますね」

「そう、ですか?」

(私がわかってないだけ……?)


 少し困惑するような笑みを浮かべるものの、レイノルト様からは肯定的な言葉が返ってきた。それがさらに戸惑いを生む。


「レティシア。貴女はご自身が思うより遥かに魅力的です。だからこそ心配になるんです」

「心配、ですか?」

「はい。人脈を作ること、地盤を固めることは確かに重要です。……ですが、レティシアがあの招待状をいくつか受けるだけでも、私が一緒にいられる時間が減りそうで」

「!!」


 不安げな中に甘さを含めたそんな笑顔を向けられると、私の胸が高鳴った。突然の言葉に目を少し見開いてしまった。けれどもすぐに赤くなった頬のまま笑みを浮かべて、レイノルト様に返した。


「私も一緒にいる時間が減るのは嫌です」

「!」

「なので、出席するのは本当に少ない回数にします」

「……良いのですか? その、貴族女性の付き合いはあると思うので」

「レイノルト様より大切なものはありませんので」


 恥ずかしさを隠さずに、本心をそのまま告げれば、レイノルト様は凄く嬉しそうに笑みを深めた。そして、そっと私の耳元に顔を近づけた。


「私もです」

「……ふふっ」


 その言葉が嬉しくて顔が緩むと、レイノルト様と至近距離で目を合わせながら微笑みあった。


 そして、その後も幸せを噛み締めながらお散歩を続けるのだった。


▽▼▽▼


 いつも読んでくださる皆様、誠にありがとうございます。コメントや誤字報告、毎回必ず読んでおります。お送りいただき誠にありがとうございます。


 返信が遅くなり大変申し訳ございません。月末まで少し忙しいのと、体調が不調なので、もう少しお待ちいただければと思います。


 出来る限り水曜日を除く毎日更新を頑張りますので、これからもよろしくお願いいたします。



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