第243話 隠れた尊さ


「とても素敵な会場だな」

「ありがとうございます」


 その一言は、頑張って装飾した甲斐があったと言えるものだった。会場中の驚きの視線を一斉に受けながら、シャーロット様を案内するように進んだ。


「皇后陛下だわ……」

「こういう場にいらっしゃるなんて……」

「相変わらずお美しいわ」


 シャーロット様は直前に、自分は普段貴族女性の集まりに参加しないから、よく思われないかもしれないと不安がっていた。そんなことなど一切ないと伝えたが、不安は拭いきれていなかった。


 だが、会場に足を踏み入れれば、羨望の眼差しがシャーロット様に降り注いだ。まるで、私の言葉が事実だと証明するかのような素敵な雰囲気だった。


 和やかな雰囲気のなか、鋭い視線を感じ取った。その視線の先をたどってチラリとみれば、ネイフィスがどろどろとした雰囲気をまとっているのを感じ取る。


(ラノライド嬢のメモによれば、私が来る前は散々帝国式のお茶会に言及していたみたいね)


 私がネイフィス様を除け者として、二人のご令嬢を連れて登場すれば、明らかに悪者にできる。そうでなくても、一人で後から登場すれば、帝国式を知らないのだと評価を下げられる。


 だから予想もしなかったはずだ。ネイフィス様自身より圧倒的に位の高い、皇后陛下の登場など。


(自分が考えていたプランが崩れさって、内心不快でたまらないでしょうね)


 心の中でクスリと微笑みながら、シエナ様達のいる場所に目を向けると、心強い味方達から穏やかな笑みが返ってきた。


(シエナ様にフェリア様にシルフォン嬢。こうして並んでいらっしゃるのを見ると、少し不思議。でもなぜか感動する)


 胸がじわっと温かくなるのを感じながら、シャーロット様に席を案内し、その隣へと座った。


 それを皮切りに、挨拶が始まる。


 まず立ち上がったのは、公爵令嬢三名。数が少ないだけあって、会場中の注目を集める。


(今回席は自由にさせてもらったけど、ルナイユ様がロアンヌ様とご一緒だから、必然的に離れたネイフィス様が目立つわね)


 その上何か算段があったのか、私の座る席からは離れているので、到着順での挨拶と考えると、自然とネイフィス様は三人の中でも挨拶は最後となった。


 ルナイユ様がさっと後ろに下がると、最初の挨拶はロアンヌ様からとなった。


「ごきげんよう、エルノーチェ様。ロアンヌ公爵家ミネルヴァですわ」

「お越しいただき誠にありがとうございます、ロアンヌ様。改めまして、エルノーチェ公爵家レティシアです」 


 礼節だと感じたので、さっと立ち上がって挨拶を返した。


「こうしてしっかりとお話しするのは初めてですかね」

「はい」

「私、前々からエルノーチェ様とはお話ししてみたかったんです。よければ後程お時間をいただけませんか?」

「もちろんです。是非ともお話しをさせてください」

「よかった。歳が離れて、接しづらいかもしれませんが、できればお気になさらないでくださいね」

「ミネルヴァ、それは私にも刺さるんだが」

「あらシャーロット様。そんなつもりはなかったんですよ?」

(…………え)


 突然 シャーロット様が挟んだかと思えば、動じることなく当たり前のように返したロアンヌ様。


(そこ、繋がってたのね……!! 何だろう。お姉様方のやり取りというのかしら。尊いわ)


 少し驚きながら二人の小さな会話に反応すれば、ルナイユ様にもその思いは伝わったみたいだった。二人でうんうんと頷く。


「それにしてもシャーロット様がこのような場に来るだなんて。ふふ。明日は雨ですかね」

「可愛い身内が主催となれば話が変わってくるだろう」

「あら。それなら今度、私がお茶会を主催したら来てくれるんですか?」

「友人の主催なら、もちろん」

「その言葉、忘れないでくださいね」

「騎士に二言わない」

「ふふっ。変わりませんね」

「ミネルヴァもな」


 気が付けば、自然とロアンヌ様はシャーロット様の方に移動していたが、お二方の話を聞きたい私とルナイユ様は、二人でそっと耳を傾けていた。


「エルノーチェ様、後程楽しみにしておりますね」

「は、はい。よろしくお願いいたします!」

「シャーロット様、是非また後でお話ししましょう」

「あぁ、楽しみにしているよ」


 ロアンヌ様とシャーロット様のやり取りが終わり、ロアンヌ様が一足先に席へ戻った。ルナイユ様の挨拶が始まったタイミングで、ネイフィス様が到着した。


「エルノーチェ様、お茶会の主催お疲れ様です。とても華やかな会場ですね」

「ありがとうございます、ルナイユ様」

「本日のお茶会、とても楽しみにして来ました」

「ご期待に応えられるよう、頑張りますね」


 いつも通りの穏やかなやり取りをしていた、その時だった。


「帝国の皇后陛下にご挨拶申し上げます。ネイフィス公爵家令嬢のマティルダです」

「…………」

「!」

(……なるほど、そう来たのね)


 皇后陛下から挨拶をし始めたネイフィス様。それを静かに見つめるシャーロット様と、驚く様子を見せたルナイユ様の隣で、私は冷静に状況を分析するのだった。


▽▼▽▼


 いつも本作を読んでくださり、誠にありがとうございます。


 本日、書籍に関する新しい情報が解禁されました!少し長くなりますので、近況ノートの方にまとめさせていただきました。

 もしよろしければ、覗いてみていただけますと幸いです。


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