第242話 最強の切り札
第239話の後に登場人物を作成いたしました。読む際にお使いいただければと思います。よろしくお願いします。
▽▼▽▼
お茶会を迎えた。
当日、誰よりも早く大公城に現れたのは皇后陛下シャーロット様であった。というのも、私が無理を言って早めに来てもらったのだ。
「すみません、こんな早くにお越しいただいて」
「楽しみで早く来たかったからちょうどよかった。それに、お茶会が始まればレティシア嬢とゆっくり話せないだろう?」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
そうふわりと微笑まれば、申し訳なさはすっと引いていった。大公城に入ると、待機室である応接室に案内する。
「……ちなみに、早く来て欲しかった理由は聞いても大丈夫か?」
「もちろんです。説明させてください」
「ありがとう」
さっとお茶の準備をすると席に着いた。そして、今起こっていることと作戦の全貌について伝えることにした。
まずは、ネイフィス様について話し始めた。
「危惧した通りになっていたんだな……。本当に申し訳ない」
「謝罪なさらないでください。シャーロット様に非は本当にないんです」
「だがーー」
「ネイフィス様は、レイノルト様のことがお好きなようなので。だから婚約者である私のことが気に入らないみたいです」
「……え?」
ネイフィス様が大公妃という立場を狙っていることを、ざっくりと説明した。そのために、私を失脚させようとしていることまで。
ネイフィス様がご令嬢方の中で中心にいて、最上級の位置に立とうとしているのは確かなこと。ここに焦点を当てれば、シャーロット様が心を痛めるのはわかる。
だか、私が個人的に問題視してるのはそれだけではない。
婚約者が決まったにもかかわらず、自身の欲だけを優先させて非常識なことを繰り返している点が最も深刻なことだと思う。
「ネイフィス様がシャーロット様の代わりを務めるのに適しているのなら、私も問題なく受け入れました。しかし、看過できないことがあまりにも多すぎるので、任せられないと判断した次第です」
だからシャーロット様には何の非もありません、と締め括った。しかし、シャーロット様の表情は明るくなることはなかった。それに不安を覚えていると、シャーロット様はこちらを向いて視線を合わせた。。
「……駄目だ、理解できない」
「駄目ですか」
(この理論じゃ納得できなかったかな)
どうしようかと考えようとしたその時、シャーロット様は予想外の言葉を放った。
「婚約者が決まっている相手に恋情を抱き続ける、これはわかる。理解はしないが。だからレティシア嬢を嫌う。うん……まだわかる。……婚約者が決まっている相手の婚約者の座を狙って引きずり落とそうとする。……駄目だ、理解できない」
(あ、そっち!?)
非がある非がない問題ではなく、シャーロット様が疑問を抱いたのはネイフィス様が持つ問題だった。
「婚約者候補ならわかるが、婚約者だぞ。決まった婚約を、一介の公爵令嬢が覆せるとでも思っているのか?」
「……思っているので、引きずり落とそうとするのかと」
「思い出した。ネイフィス家のご令嬢はレイノルトに婚約の申し出を断られているよな」
「はい」
「それなのに、自分がなれると? どんな思考回路をしているんだ。本当に公爵令嬢なのか」
少し強い言い方をするシャーロット様だが、間違いなくこの理不尽な状況に怒ってくれていた。
「恋は盲目と言いますからね……冷静になれないのかもしれません」
「だから許すのか?」
「まさか。度が過ぎているので、これ以上悪化する前に成敗します」
「さすがだ。完膚なきまでに叩きのめす方がいい。こういう類いの者は、中途半端にやると勘違いしてやり返されるからな」
「はい。頑張ります」
ニヤリと笑ったシャーロット様は、騎士の血筋らしい助言と共に笑みを細めた。
「……私はその戦いに一役買うための切り札、というところかな?」
「ご名答です、シャーロット様。その通りです」
「任せてくれ。レティシア嬢の最高の武器になろう」
「ありがとうございます」
意図を汲んでくれたシャーロット様が、笑みを深めると、私も感謝の気持ちを込めて笑顔を広げるのだった。
お茶会開催時間が迫ってきた。応接室をそっと出ると、私の元に一枚の紙を持って一人のご令嬢がやってきた。
「ラノライド嬢」
「エルノーチェ様。現状報告にございます」
「ありがとう……!」
報告内容が書いてある折り畳んだ紙を、さっと渡してくれた。席を外していることを変に思われないように、ラノライド嬢は急いで会場へと戻っていった。
「……なるほど」
「何をみてるんだ、レティシア嬢」
「シャーロット様」
気を遣って姿を現さなかったシャーロット様に、内容を伝える。
「大方予想通りの振る舞いですね」
「そうか。奇跡は起きなかったみたいだな」
「はい、残念ながら」
「それなら気合いを入れて問題なさそうだな。頑張ろう、レティシア嬢」
「頑張りましょう、シャーロット様」
微笑み合った私達は、そのまま会場へと向かうのだった。
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