第239話 それぞれのお茶会前日



〈レティシア視点〉


「……よし。こんなものかしら?」

「お嬢様、完璧かと」

「とっても華やかです!」

「よかった」


 会場設営の最終確認を行っていた。


 セシティスタ王国でもお茶会の主催をすることはなかった。今回は、シエナ様が行った限られた人を呼ぶお茶会ではなく、ルウェル嬢のような国内の多くのご令嬢を招待する、パーティーに近い形式にした。


(……観客は多くないと。それに、自分にとっての敵味方かどうか判断できるから)


 曖昧な立場に立つご令嬢方が何を考えているのか。これを知る必要があるから。


「お茶菓子とお茶の準備も問題なし……うん。大丈夫ね」

「はい。予備の準備まで完璧かと」

「ありがとう、シェイラ。エリンも手伝ってくれてありがとう」

「当然のことをしたまでです」

「お役に立てて何よりです!」


 もちろん、二人以外の大公城に仕える侍女の皆に手伝ってもらった。おかげさまで、とても立派な会場に仕上げることができた。


「あとは当日を迎えるだけね」

「緊張されてますか?」

「少しね。けど、心強い味方が何人もいるから大丈夫だと思う。二人にもたくさん情報をもらったからね」

「「お嬢様……!」」


 照れ臭そうに微笑むと、二人はじーんと感動したような表情になっていた。


(そう。心強い味方のおかげで、心配や不安のような暗い気持ちがだいぶ軽減されたから)


 舞台となる会場を見渡す。


(摘み取れなくても、萎ませることくらいはできるはずよ)


 自信を持って一呼吸すると、その場を後にするのだった。



◆◆◆



〈シエナ視点〉


 記念すべきレティシア様の初主催のお茶会が、ついに明日にまで迫っていた。


「さてと。皆様、準備はよろしくて?」

「「「もちろんです!」」」


 レティシア様親衛隊の最終確認を、こっそりと行っていた。だが、レティシア様本人に気が付かれているかもしれない。時期を見計らって、公認をもらうのも良い案と考え始めていた。


「それでは皆様、当日はよろしくお願いいたしますね」


 私がこう言わずとも、彼女達は進んでレティシア様を助けるだろう。それだけ親衛隊のレティシア様に対する敬愛の思いは大きい。


(信頼度も高いもの。ここに関する心配はないわ)


 親衛隊を見送ると、先ほどまでの会議部屋に一人残されたフェリア様と目が合う。にこりと微笑めば、初めて親衛隊の会議に参加された感想を話された。


「……これが親衛隊、ですか」

「素晴らしいものですよね」

「はい。……想像以上の熱量に驚きました」

「加入は辞めておきますか?」

「まさか。私とシルフォン嬢の二人分、加入しておいてください」

「ふふ、承りました」


 フェリア様がご自身だけでなく、シルフォン嬢の分まで申請をしにきたのか。その理由は、今日親衛隊が集まる前に教えてくれた。


 シルフォン嬢が根も葉もない噂で苦労した裏側には、ネイフィス様の明確な悪意があった。そしてそこには悲しいことにフェリア様に原因があったことを、レティシア様がそっと教えてくれたのだと言う。


 全てを知ったフェリア様がシルフォン嬢に謝罪をしに行ったのだと言う。無事謝罪を受け取られただけでなく、なんやかんやで結局仲良くなったと教えてくれた。ちなみに、親衛隊にはフェリア様から誘ったのだとか。


(……お二人とも、レティシア様に助けられた方だものね。力のある方々が入ってくださるのはありがたいわ)


 加入の手続きは簡単に済むので、今日から晴れて二人も親衛隊となる。それを伝えながら、小さな疑問をフェリア様に投げ掛けた。


「それにしても、こんなに所属人数が増えて規模も大きくなっているというのに、ネイフィス様が気が付かれないのが不思議です」

「……マティルダはきっと、ルウェル嬢と同じで、とことんエルノーチェ様を下に見てるのだと思うわ。自身には優秀な取り巻きがいるけど、エルノーチェ様にはいない、と思い込んでいるのよ」


 はっ、と小さく笑いながら、フェリア様は続けた。


「自分が一番でないと気が済まないから、あの人は。……そうそう、シルフォン嬢が教えてくれたわ。あることないこと吹き込まれたって」

「というのは?」

「何でも、噂を流したのはルウェル嬢で、広めたのはエルノーチェ様だと。マティルダもお馬鹿ね。帝国に来たばかりのエルノーチェ様に、そのような力はないわ。ご自身の火消しで忙しかったというのに」


 軽蔑するような眼差しで視線を落とすと、今度は明るい笑みを浮かべて続けた。


「だから摘み取るのは大いに賛成なのよ。さすがレティシア様だわ。賢明すぎるご判断だもの」

(……私が想像しているよりも、はるかにレティシア様を慕ってらっしゃるわ。なによりね)


 にこやかにレティシア様を褒めると、再びネイフィス様に関して言及し始めた。


「欲が前にですぎたわね、マティルダは。説得力のない話を吹き込むなんて、三流のすることよ」

「そうですね」

「……上に立つ者の器ではないわ」

「強く同意します」

「それに比べてエルノーチェ様はーー」


 出会ってからそこまで長い時間を過ごしたわけでもないのに、フェリア様はこれでもかと言うほどレティシア様を尊敬する話を続けるのだった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る