第216話 お料理大作戦


 書籍化にあたり、主人公の名前をオリヴィア→レティシアに変更しました。

 他の話も他サイト含め、現在順次変更中です。(まだ終わっておりません。大変申し訳ありません)

 ご不便お掛けしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。


△▼△▼△▼


 ガーデンパーティー翌日、私はようやく大公城でゆっくり過ごせる日となった。といっても、今日は以前から計画していたやりたいことがあるのだが。


 その準備のために、朝早く起きて調理場に移動していた。


(……これだけ材料があれば作れそう)


 材料が揃っているのを見て、さっそく料理を開始する。


「お嬢様。じゃがいもはこの量でたりるでしょうか?」

「十分よ、ありがとう」


 今日手伝いをしてくれるのはエリン。料理の話をすると、シェイラは申し訳なさそうに「大変申し訳ありません。私、料理だけはできないのです」と言っていた。


 完璧に見えていたシェイラにも、欠点があるようで。それを聞いた途端今まで以上に親近感がわいたのは言うまでもない。


 後日料理を教える約束をして、今日は取り敢えず大公城の別の仕事に向かってもらった。

 

「エリンは料理ができるのよね?」

「はい! といっても、あくまで実家に帰省したときに自炊する程度ですけれど」

「十分じゃない? もしよければ今度、作ってみて。食べてみたいから」

「お、お嬢様のお口に合うようなものでは……!」


 エリンは男爵令嬢で行儀見習いなのだが、本人曰く田舎にあるしがない家なので、自炊する機会が多いのだとか。


「平気だと思うけど。だって私、セシティスタ王国では大衆食堂で働いていたから」

「えっ、そうだったんですか!?」

「うん」

「こ、公爵令嬢ですよね……?」

「まぁ、色々あって」


 エリンの反応に思わず苦笑いをしてしまう。


「詳しい話はシェイラもいる時にね」

「是非! 凄く気になります」

「あはは」


 決して手短に話せる内容ではないので、これも後で時間をとってシェイラのいる時に話す約束になった。


 そんな会話をしながら、テキパキと手を動かして調理していく。


「うわぁ……! お嬢様、私よりはるかに手際が良いです!!」

「ありがとう。エリンも慣れた包丁さばきね」

「お嬢様には及びませんよ」


 はにかみながら、エリンは嬉しそうに笑っていた。


「エリンは行儀見習いに来て長いの?」

「い、いえ。行儀見習い自体はまだまだ年数が短くて。おわかりの通り、シェイラさんに比べたら拙い点が多いかと思います」

(確かに。初めて出会った時は、少し慣れない手付きだったっけ)


 恥ずかしそうにそう言われたが、今思い浮かぶのは上達した姿だった。


「でもこの短期間で凄く上達したと思う。才能ももちろんあるけど、努力したのね」

「お嬢様……!」


 エリンは自分よりも年下だからか、凄く面倒を見てあげたくなる。私はいつも周囲には自分よりも年上のお姉様ばかりだったから、エリンが妹のように可愛く見えるのかもしれない。


「ありがとうございます。これからも精進します!」

「私が言うことではないけど、無理はしないでね」


 最近は、お茶会やガーデンパーティーと連日外出で無茶をしている部分があった。それを知っているシェイラとエリンからすれば、どの口がと思うことだろう。


「はいっ。お嬢様もです!」

「……えぇ」


 それでもエリンは優しく返してくれた。思わず笑みをこぼしながら頷く。


 そんな会話を交わしながら、どんどん料理を作っていった。


 ほとんどできてくると、エリンに味見を頼んだ。


「……お嬢様、なんですかこのじゃがいもの揚げたものは。凄く凄く美味しいです!!」

「ありがとう。フィルナリア帝国にないってことは、セシティスタ王国発祥なのかもしれないわ」

「私は少なくとも見たことがないです!」


 エリンが笑顔で頬張る姿をみると、上手くできたと安心した。

 他のじゃがいもをソースにかけて、串に刺して完成させる。


「……とてもビジュアルが地味ね」

「美味しいから問題なしですよ!」

「サンドイッチと並べたら……マシかな?」

「立派なお昼ごはんになりました……! さすがお嬢様です」

「ありがとう、エリン。……では、行ってくるわ」

「はい! 絶対に大成功です!!」


 なんでも褒めてくれるエリンは、やっぱり可愛らしい。身長も私より少し小さいので、どうしても面倒を見たい欲が現れてしまう。


 微笑みながらお礼を告げると、私は料理を持ってレイノルト様の書斎に向かった。


 何故今日、料理を作ることになったのか。事の発端は、昨日料理長から相談された所までさかのぼる。


 ここ数日、私がお昼に出掛けていることもあってか、レイノルト様は毎日昼食を抜いていたらしいのだ。


 いらないと言われている以上、料理長は作れないが、体調面では酷く心配のようで。それには私も同意したので、自分が料理を作ることを申し出た。


 恐らく料理長は、そこまでは考えていなかったが、笑顔で了承してくれた。というよりもむしろ、ものすごい勢いでお願いされた気がする。


(朝夕は一緒に食べてるし、パッと見はとっても元気そうに見えるから、全然わからなかった)


 出掛けずにいる今日なら、昼食に来てくれる可能性は高い。けどそれだと、私が不在の日は何も変わらないことになる。その場合、料理長の不安は取り除けないので、今回の作戦に至ったのだ。


(よし、着いた)


 二人分の食事を乗せたカートと一緒に、書斎の前に到着するのだった。

 


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