第97話 修復と恋愛事情(リリアンヌ視点)
気持ちを落ち着かせると、リカルドに座るよう促した。自分はお茶を用意し、茶器を置いてから彼の正面に座る。
「はい」
「ありがとう」
紅茶を飲んで一息着くと、まずは隣国アルセタへの留学の話になった。
「王女との婚約話が噂として出てたと思う」
「えぇ……」
「もちろんあれは全くのデマだよ。それを伝えられたら良かったんだけど、僕の動向は監視されていたから」
「監視?」
「あぁ、王妃に」
どうやら王妃は、リカルドに婚約者内定者がいる話を聞き付けたらしい。その正体を暴き、可能なら利用するために情報収集をしていたようだった。
「もう少しでエドモンド殿下の婚約者が決まるだろう。だが逆を言えば、まだ変更の余地はあるということ。エドモンド殿下を何としてでも王位につけたい王妃からしたら、僕の婚約者は気になるだろうね」
「面倒になる前に取り込んでおきたかったのね」
あるいは牽制を。どちらにせよ、良いことでないのは確かだ。エドモンド殿下の婚約者が決定し公表されるまで、油断はならない状況ということだ。
「僕が何年もかけて大切に大切に守り抜いてきたリリーを、奪われるわけにはいかないからね。当然渡さないけど」
「…………手紙を送れない理由はわかったわ」
「許してくれる?」
「許すも何も……守ってくれたんでしょう? ありがとう、リカルド」
ここまで聞いて何を怒るというのか。むしろ視野が狭まって自分のことしか考えられなくなった自分を悔やむ。
「あぁ、アルセタの王女から伝言を預かってるんだ。この手紙だけ彼女から」
「伝言? お会いしたことないのに」
そう不思議に思いながら受け取ると、リカルドに促されたことですぐに封を開けた。
『フェルクス大公子の存在するかわからない婚約者様へ
面識がないのにも関わらず、突然の手紙を失礼致します。フェルクス大公子と婚約をしたという噂が流れましたが、私にとって全く不本意なことです。自国での噂の鎮火は済んでいるのですが、どうやらセシティスタではそうではないようで。
もしも私がフェルクス大公子に何か感情を抱いていると不安になっているのなら、アルセタの王女としてその必要がないことを保証いたしますわ。不安にさせて申し訳ありません。
……ここまで書いて、実はまだ疑っております。とてもフェルクス大公子に婚約者ができるとは思えないので。ですが、もしも存在するのならば。応援致します。恋路はもちろんですが、フェルクス大公子という厄介な者との戦いを。頑張ってくださいませ。アルセタの地にて祈っております。
そして、必ずお会い致しましょう。その日を楽しみにしております。まだ見ぬフェルクスの姫君。
アルセタ王女 ナルヴァ』
「…………ふふっ」
「……楽しそうで何よりだよ」
思わず吹き出してしまう内容。先程まで抱いていた負の感情が嘘のように消えていった。今日初めて見せた笑みに、リカルドは不本意そうに作り笑顔を浮かべる。
「次は一緒に行きましょ、アルセタ国に」
「……それは新婚旅行ってこと?」
「どうしたらそういう飛躍した思考になるのよ」
「冗談だよ。でも行こう、絶対。約束だよリリー?」
「はいはい」
すっかりいつも通りの空気になると、そのまま真面目な話へ移行した。
「そっちは随分変化があったみたいだね」
「えぇ」
「……末のレティシア嬢とカルセインについて。聞かせてくれる?」
「長くなるから、私も今は手短に話すわ」
そう前置きすると、レティシアとの関係の変化からつい最近起こったカルセインの改心までかいつまんで話した。
「二人とも僕側についてくれると良いのだけど」
「正直……あまりレティシアは巻き込みたくないわ。本当はお姉様も介入させるつもりはなかったのに」
「ベアトリス嬢は、自身の目的と信念あってだと思うよ。レティシア嬢に関しては……なるべく配慮はしよう。ところでリリー、カルセインは良いのかな?」
「あら、存分に使ってくれて構わないわ」
「なるほど……何となくわかったよ」
そう笑みを溢しながら現状を理解しきるリカルド。頭の回転速度はやはり尋常ではない。
「……取り敢えず今やることは、改めて隣室のご兄妹に挨拶かな」
「そうね。……回した毒も、あちら側の動きもまだわからないから。今できることは少ないかもしれないわ」
「うん」
「さ、戻りましょ。お互いの詳しい話はまた後でね」
茶器を片付けると、立ち上がって姉達が待つ隣室へ戻ろうと動き出した。
「そうだね。……ちょっとだけ時間くれない?」
「時間?」
そうリカルドは告げると、今度は優しくそれでも力一杯抱き締めにきた。
「……半年近く君に会えなくなると思わなかったよ。さすがに充電させて」
「あのね」
「あぁ、本物だ。本物のリリーだ」
「……リカルド、皆を待たせてるのよ?」
「うん、わかってる。でも僕も充分待った。本当はすぐに、こうしたかったんだから。」
そう拗ねながら私の肩に頭を乗っけた。
「……そう」
「大好き。絶対放さないから」
「放す気ないでしょ」
「もちろん。リリーはずっと僕だけのものだからね」
「うん。わかったから、あと三分ね」
「冷たいなぁ。でもそんなとこも好き」
通常運転に戻ったと思えば突然甘え出したリカルドに、内心呆れていた。そこに嬉しさがあったことは本人には絶対に言わない。
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