第60話 衝撃は何度でも

 昨日は更新できずに申し訳ありませんでした……!

▽▼▽▼


 ラナが紅茶を並べる間、リリアンヌが昨日の事について話を振った。


「そういえばレティシア。昨日は働きに行ってたの?それなら私が体験に行くのも近々かしら」

「あ、昨日は違います。労働再開は明日からなので」


 どうやら昨日の帰宅様子をリリアンヌに見られていたらしい。貴族令嬢が働くのは常識的におかしな事だが、打ち明けているので気にすることなく話していた。


「そうなの。それじゃあ昨日は────」

「待ちなさい。……労働って何の事。まさかリリアンヌ、怪しい事業にでも手を出したんじゃ」

「違いますよお姉様。……話してませんでしたっけ?レティシアは働いているんです」

「働いている……? どういうこと、レティシア」

「あ……実は、昔から家を早期に出て自立することを考えていたんです。その為にはお金がないとやっていけないと思って、割と早くから働き始めていました」

(そう言えばベアトリスお姉様には伝えてなかった……)


 この前三人で集まった時に話す機会はいくらでもあったが、私の事はあまり主題では無かった。その上引きこもり、変わっている妹という二人の姉の発言により衝撃を受けた結果、言うことを忘れていた部分もある。


(リリアンヌお姉様には話してたからなぁ。……すっかり忘れてた)


 働いている、この言葉がどうやらベアトリスの中で上手く処理できない様子。頭の上には疑問符がこれでもかというくらい浮かんでいるのが感じ取れ、困惑と疑問の表情が現れていた。


「はた……らく。レティシアが? 家を出る、レティシアが?」

「はい。ですが今は家を出ることは考えてません。そこは改めて考え直そうかと」

「それは良い案だと思うわ、ねぇお姉様?」

「…………レティシア、貴女は公爵令嬢よね」

「はい」

(………ベアトリスお姉様からしたら、想像のつかない行動よね。品がないと怒られるかも)


 だが、そんな私の不安は一瞬で消え去った。


「凄いわね、その行動力。いや、若いうちから貴族なのに働こうと考えることも普通じゃできないことだけれど。考えるだけなら誰でもできるから。働く、ね。…………待って、それじゃあレティシアは引きこもりじゃなくて、労働のために外に出てたということ?」

「そうです」


 頷く姿は納得したことを表していた。その横でベアトリスの様子を確認しながら、リリアンヌが話を続ける。


「……驚きですよね。私も最近知って感嘆したもの。だから働き方を教わろうと思ってて」

「駄目だわ、レティシアの働く姿ならまだしも。リリアンヌとなると全く想像できない」

「……確かに」


 演じていない、品のある貴族らしいリリアンヌの姿では尚更食堂にいる様子が想像できなかった。


「お嬢様から悪影響を……」


 紅茶を並べ終わり、私の後ろで待機するラナがボソリと呟いた。


(地味に刺よ、ラナ)


 私にだけ聞こえたであろう言葉に、心の中で反応する。


「……なるほど、確かに生きていくにはお金が必要よね。リリアンヌ、無理をしないようにね」

「ありがとうございます。お姉様も一緒にいかがです?」

「良いわね。でも今は止めておくわ。二人に比べて私は悪い意味で社交界で顔を知られてるから。リリアンヌみたいに演じ分けて別人になれるわけでもないし。もう少し時間が経ってからにする」

「それがいいですね」


 意外にもやる気を見せるベアトリスに驚きながら、いつか三人で働く日があるのだろうかと思うと不思議な感じがした。

 話が一息つくと、リリアンヌは言いかけていた言葉を思い出す。


「そうそう……それでレティシア。昨日はどうしたの? 何だか疲れているというか、悩んでいる様子だったけれど」

(悩み……………………手作りのことか!)

「……何か悩んでるなら話してみなさい。レティシアよりは人生長く生きているから、力になれると思うわ」


 ベアトリスの後押しに心が揺れると、相談することを決める。


「実は昨日。お世話になってる人に会いに行っていたんです。困っていることがあると何かと助けてくれる方で。ご厚意を毎回何もせずに受け取るのはさすがに失礼かと思って」

「それはそうね。お世話になっているのなら、何かしら返すというのは正しい考えよ」

 

 ベアトリスの言葉に隣で頷くリリアンヌ。


「それでそのお礼の品に困っていまして」

「お礼の品……そういうのはリリアンヌが得意よ」

「得意という訳ではありませんけど……。レティシア、相手は貴族なのよね?」


 苦笑いを浮かべるリリアンヌ。だが、解決しようと要点を尋ねてくる。


「はい」

「なるほど……普通に有名な紅茶の茶葉とかが無難な気がするけれど」

「あ、その、失礼になるかも知れないのですが相手に尋ねたんです。何か欲しいものがあるか」

「あら、良いじゃない。相手にもよるけれど聞ける間柄なら聞いて損はないと思うわ」


「それで、返ってきた答えに困っていて」

「何て言われたの?」

「手作りの何かが欲しいと言われました。手作りについて考えていたのですが、何も思い浮かばなくて。恐らくリリアンヌお姉様が見たのはその様子だと思います」


 再び手作りについて考えてみるが、やはり私に可能な事が見当たらない。


「……なる、ほど。ちなみにだけれどレティシア」

「はい」

「そのお相手の貴族は男性?」

「そうです」

「…………」

「…………」

「…………?」


 リリアンヌが途端に微妙な表情を浮かべたと思えば、ベアトリスも小さく口を開けて静止していた。


 その反応が読み取れずに、私は首を傾げていた。

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