サキュバスの王は悪役令嬢と結婚したい皇子の力になりたい。
蟹蛍(かにほ)
第1話 サキュバスの王
帝国ジェキアは美しい情熱の国だ。人々はみな助け合い、陽気で明るく暮らしていた。しかし、妙な噂が流れていた。
サキュバスの噂だ。人を憎むサキュバスが夜な夜な人の夢に現れては勝手に性交に及び、精気を奪うという。
サキュバスの体液には催淫効果があり、触れると気がふれてしまうものがいる、とも言われる危険なものだ。最近ではジェキア国内でサキュバスの被害に遭った人間が多く、社会問題にまで発展しているのである。
そんな噂の元凶となっているサキュバスは、真夜中に皇族が住む宮殿に不法侵入をしている。そして木に登り様子をうかがっている。見た目はまるで人間の幼女で性交等とは縁が遠いように感じる。
柔らかく透き通るような金髪にグレーの瞳。白いワンピースがよく似合うこの国では一般的なかわいい幼女そのものだ。
「ふっふっふ。震えて眠るのじゃ皇族どもめ。わしが恥ずかし~~いいたずらをしてやるわ。まずは、寝ている国王の股にお水をかけておねしょしたみたいにするじゃろ、そして女王の顔には落書きをして…」
彼女の名前はネル。このような馬鹿なことを企てているが年齢は150歳のサキュバスの王である。彼女を中心にサキュバス界隈は形成されている。
「皇族に手を出したとばれたら退治されるかもしれないからエッチなことできないのが残念なのじゃ。世界中から腕の立つ聖職者を呼ばれて退治されてしまうんだろうなあ。でも極東のオンミョージ?っていう聖職者?本で読んだけどかっこよかったなあ。ドーマンセーマンっていうやつ。」
そのとき
「誰かいるの」
木の下から若い青年の男の声が聞こえた。なんだと!こんな時間に宮殿をうろつく奴は!不審者ではないか!
「誰かいるんでしょ?」
やばい!見つかってしまう!下を見るとこぎれいな格好をした顔の整った男がいる。雰囲気や見た目からして皇族、もしくは良家の坊ちゃんだろう。まさか、木の上に私がいるなんて思うまい。こうしてじっとしていればばれるなんてことは…
ズルッ
「えっ?」
ドサッ
ネルは頭から木の根元に落ちた。そして白いワンピースが顔にかかり視界が遮られる。
「え…大丈夫?」
戸惑いというかドン引きした声が聞こえる。しまった。見つかってしまった。大騒ぎになって追いかけまわされるのはごめんだ!
魔術を使って逃げよう。魔術を使うとエネルギーが発光して目立ってしまうが仕方ない。ちんけな若者1人をまく等簡単だ。
姿勢を直して右手に力を籠める。すると周囲のエネルギーが発光して右手に集まり…あれ…?視界がぼやけ頭が遠くなる。
「おえええええええっふ、げえええええええ、オエエ」
口から一気に何かが飛び出した。確認するまでもない、それはゲロだ。そのゲロは運悪く目の前の男に盛大にぶちまけられた。
吐いたと同時に意識がはっきりしてくる。頭から落ちたことによるショックが原因か。しまった!魔術が失敗した上に皇族かもしれない人間に体液をかけてしまった。
サキュバスの体液には催淫効果がある。唾を吹きかけるくらいなら戦意喪失くらいの効果で済むがゲロを大量に吐いたとなれば話が別だ。サキュバスの体液で若い皇族を狂わせたと知れたら大変なことになる。に…逃げよう。男が驚いてる隙に!そう思ったが、
「大丈夫かい?頭から落ちたけど。」
予想に反し返ってきたのは優しい声だった。あれ?あれだけの体液をかけたのに催淫されてない?夢か?
「え…ああ…」
「君、僕がここにいたってこと秘密にしてくれない?」
「見逃してくれるのか?それより異変はないのか?」
「なにもないけど…とにかく僕がここにいたということを秘密にしてほしいんだ。」
「そ、それくらいならお安い御用じゃ…」
なにかがおかしい。この男はおかしい。それとも馬鹿なのか?鈍感なのか?
「よかった。君はここに何をしに来たの?」
見た目はただの幼女だ。下手なことを言って警察に届けられたら困る。ここはいっそ大きな態度を取ってごまかそう。
「私はサキュバスだ。ゲロをかけたことを謝る。後日お詫びの品を届けよう。」
「へえ、そうなんだ。かっこいいね。でもね、こんな夜中に迷子になったら危険だから警察に行こうね。」
しまった!なにも信じていない!こうなったら最後の手段だ。なんとか交渉して穏便に済まさなければ。
「私はサキュバスだからどんな人間にも化けることが出来る。試しにお前の思い人に化けてやろう。」
「え…?」
詳しくは私がこいつの思い人に見えるという幻術だ。
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