バースデーカクテル ~君を祝うために~

彦田礼人

前章 オーナー・彦田の戯言

 ここは空想の世界。或いは私の思考の中、とでも言っておこう。幼い頃から「店を持ちたい」という夢があった。そこに集う人の話し声が絶えず、常に騒がしい。けれどそれが私にとっては心地良い雑音だ。何故かって? そこで感情が踊っているから楽しいのだ。しかしながら、私はどうも引っ込み思案で、話し掛けることが億劫になってしまう。なんと矛盾した愚かな人間だろうか。

 だが大人になった今、別に本当に店を持たなくてもいい。文字の読み書きさえできれば、人間はなんだって出来る。言葉は素晴らしい魔法の道具だと気付いた。難しいことは後回しに、まずは自分がどんな店を経営したいか、ここに示そう。

 店はバーが良いだろう。酒を提供しながらお客様との会話を楽しめる。とても良いじゃないか。

 次に外観。路上にテーブルと椅子を置く店も捨てがたいが、バーと言えば地下のイメージが強い。とはいえ地下にある店も、冒険感があって好きだ。地下に店を開くとしよう。木製のドアを開けば、カウンター席、テーブル席があって、少し手狭かもしれないが致し方ない。壁には私のお気に入りを飾ろう。青い鉱石の絵画たちだ。サファイア、ラピスラズリ、タンザナイト、ターコイズ、ブルーフローライト……。他にもLPレコードだったり、ヴィンテージの食器だったり、私の好きな空間に仕立てよう。

 メニューはアルコール一択でもいいが、私のように飲めない人にも来てほしい。ノンアルコールも用意しておかねば。つまめる食べ物は、ナッツ系とチーズ系があれば十分だろう。要望があれば足せば良い。そうだ。特に誕生日のお客様には、誕生酒を一杯サービスしよう。それを売りにすれば、お客様がご友人を連れてきて、そのまたご友人も来てくれるかもしれない。これは名案だ。

 店の名前はどうしようか。厄介なことに、私にそういったセンスは無い。後から変更しなくて良いような、気に入った名前にしたい。……そうだ。青色が好きだから、素直に「ザ・ブルー」という名前にしようか。……いや、二昔前の歌謡曲みたいだから止めよう。確か「アスール」という言葉も青という意味があったような。これにしよう。店の名前は「アスール」。シンプルで格好良いじゃないか。

 ――うむ、こんなところだろうか。私が作った空想の店を、あなたも気に入ってくれたら嬉しい。

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