第11話 図書委員


 潤一は岡西中学に入学して初めて図書館に足を運んだ。


 潤一は異世界で異常な量の書籍を読破した。


 数えていないが、おそらく1年半で500冊以上は推定で読破しているだろう。


 そのため、異世界でいろいろ経験したがために、彼に読書グセが染み付いてしまった。


 現在では、1日2冊以上読まないと彼はベッドに身を委ねることができなかった。


 それほど、読書は潤一の生活にとって切っても切り離せない存在であった。


「えっと。推理小説と社会科学の本はそれぞれどこにあるんだろう」


 潤一はぼぞぼそと囁きながら図書館内をうろちょろした。


「あー。やっぱり俺には本を探す才能が皆無なのかな?」


 潤一は周辺に聞こえそうな声で独り言を漏らした。


 潤一は異世界で図書館で本を探す際も、目当てのものを1回も見つけることができなかった。


 異世界の学校の図書館が大きすぎたこともあったのだが、それを考慮しても潤一の発見能力は低すぎた。


「これは異世界同様、カウンターの人に助けてもらうしかないな」


 潤一は自身の能力の低さに辟易しながらも、図書館のカウンターに向かった。


「すいません。推理小説と社会科学の本を探しているのですが、そのそれぞれのコーナーを教えてくれませんか?」


 潤一は胸の前で手を擦りながら、申し訳なそうにカウンターに座る女子生徒に声を掛けた。


「はい!わかりました。案内しますね!」


 その女子生徒は美しい笑顔を作り、イスから立ち上がった。


 その女子生徒は綺麗な顔立ちをしていた。


 亜麻色のロングヘアに茶色の瞳、高い鼻に小さな唇を所持した背丈160センチ程の女子生徒だった。


 ちなみに、背丈は潤一よりもほんの少し低かった。


 その女子生徒は推理小説のコーナーの後に、社会科学のコーナーに案内した。


 それぞれ推理小説と社会科学の気に入った本を1冊だけ手に取り、再びカウンターに足を運んだ。


「これをお願いします」


 潤一はその女子生徒に本を受け取ってもらった。


「はい!学年とクラス、お名前をお願いします」


「2年A組。中森潤一です」


 潤一は流暢に要望に答えた。


「えっ。中森潤一・・・」


 カウンターの女子生徒は本をテーブルに落とし、口を半開きにした。


「もしかして・・」


 その女子生徒は立ち上がり、目を細めて潤一の顔を凝視した。


「ど、どうしたんですか?」


 潤一は動揺を隠しきれなかった。


「・・・潤君?」


 その女子生徒から聞き覚えのある名前が口にされた。


 その呼び名は10年前の幼稚園の頃、日常的に潤一が呼ばれていた渾名だった。

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