第384話 王都への旅路

 ヴァンパイア討伐を終えた俺たちは、その翌朝、いくぶんかの寝坊をしつつも都市ツェルケを出立した。


 次に目指すは、さらに北方にある王都クラッドヴァルゼだ。

 そこまでたどり着ければ、当面の目的地であるアイスキャッスルは、もうすぐそこになる。


 俺たちが今、旅をしている国──大陸の北東部に位置するノーザリア連合国は、都市国家を含めた複数の小国が寄り集まってできた国であり、各地方の自治権がかなり強いようだ。


 複数の州が寄り集まったアメリカ合衆国みたいなもの、あるいはそれよりもさらに地方自治の色が強い模様。


 逆に言うと、国全体の統治者である国王の権限が弱いとなる。

 名目上、国王の名を冠してはいるが、その力は各地方を治める領主と大差がないという。


 そんな国王が治める地、王都クラッドヴァルゼへと向かう道のりを、俺たちは進んでいるところだ。


 風音がぶるりと震えて、顔の前で拝むように両手をこすり合わせる。


「ううっ……それにしても、寒くなってきたねー」


「分かるっす。吐く息も白くなってきたっすよ。ほら」


 弓月が口を大きく開けて息を吐き出すと、その吐息は言葉どおりに白くなった。


 季節がらなのか地方がらなのか、あるいは日ごとの較差なのか分からないが、都市ツェルケを出て少ししたあたりから急激に寒くなってきた気がする。


 ちなみに、目指しているアイスキャッスルの周辺は、年中猛吹雪に覆われている雪原地帯であるという話も聞いた。


 この世界の気候は、精霊だとかの力が影響しているらしく、近い距離でも劇的な変化が見られることもあるようだ。

 冷気を司る精霊の力が強いと寒くなるのだとか。


「せんぱぁい、そのガイアアーマーを脱いで、うちのことをぎゅーって抱きしめて温めるっすよ。うちの彼氏である先輩にはその義務があるっす」


「そうだそうだー。私たちの彼氏である大地くんには、私たちを温める義務があるぞー」


 弓月と風音は、俺に対して謎の抗議活動を始める始末だ。


「はいはい。俺もそうしたいのは山々だけど、モンスターが出たら困るだろ」


「えーっ、大丈夫っすよ。今さらそんじょそこらのモンスターに、うちらが負けるわけないっす」


「ていうか大地くん、最近余裕が出てきちゃって嫌だよね。最初の頃はあんなにがっついてきてたのに。ねぇ、大地くんの中の野獣はどこに行ったの?」


 いるけど? 俺の中にいつでもいるけど?

 常時解放していたら大変だから、頑張って封印しているだけだよ?


「本当っすよ。もうこうなったら風音さん、うちらで温め合うしかないっす」


「そうだね、火垂ちゃん。大地くんが温めてくれないなら、私たちで温め合おう。ひしっ」


「クピーッ」


「グリちゃんも温まりたいっすね。先輩だけ仲間外れにしてうちらだけで温まるっすよ」


 互いに抱き着く風音と弓月。

 それにペット状態のグリフが、間に挟まっていく。


 ちくしょう、俺をのけ者にして百合百合モフモフしやがって。

 衣服型の防具を着ているキミたちが羨ましいよ。俺も混ざりたいよ。


 とまあ、そんな益体もないやり取りをしながら、王都への道を歩いていたときのことだった。


「ん? 後ろから、何か──」


 風音がそうつぶやいて、背後へと振り向いた。

 俺と弓月も、わずかに遅れてそれにならう。


 まだ遠方だが、緩やかに曲がった道の先の木々の向こうから、かなりの速度で何かが近付いてくるのが見えた。


「馬に乗った──あれは冒険者? それとも騎士ってやつっすかね? 四人いるっす」


「その後ろから飛んできてるの、あれドラゴンじゃない?」


 馬を駆って猛然と駆けてくる、武装した四人の覚醒者らしき人たち。

 一人は魔導士姿をした若い女性で、残りの三人は戦士系装備の男性だ。

 ときおり背後へと視線を向けつつ、俺たちのほうへと向かってくる。


 その四人の後方からは、ドラゴンと思しき飛行物体が彼らを追尾していた。

 ドラゴンは俺たちが戦ったことがない種類だったが、モンスター図鑑で見たことがある。

 スノードラゴンという、寒冷地を縄張りとするタイプのものだ。


 馬に乗った四人は、やがて俺たちのすぐ近くまでやってくる。

 先頭を走ってきたのは、魔導士姿の若い女性だ。

 俺たちのすぐ前で馬を止めると、急いた様子で声をかけてきた。


「あなたがたは冒険者ですね! ドラゴン討伐の助力をお願いしたく! 適正な報酬はお支払いします! どうか!」


 目を引く姿の女性だった。

 年の頃は俺たちと同年代で、二十歳ぐらいに見える。

 魔導士用の各種装備品は、特注品なのか、上品かつ煌びやかな装飾が施されたものを身につけている。


 掛け値なしの美人と表現して過言ではないほどの、美貌の持ち主だ。

 髪は炎を連想させる赤毛のロングヘアーで、瞳の色も髪色に似た赤。

 顔立ちも身なりも立ち振る舞いも、どこか気品のようなものを感じさせる。


 明らかにただ者ではない雰囲気。

 少なくとも彼女が四人組のリーダーであることは間違いなさそうだ。


 それはさておき本題。

 彼女ら四人を追尾してきたスノードラゴンは、もう少しで戦闘距離までやってくる。


 ドラゴンというと、たしか討伐ミッションがあと1体撃破でクリアだったはずだ。

 風音や弓月と相談している暇はなさそうだし、これは独断でいいだろう。


「分かりました。討伐を引き受けます。ただし条件が」


「言ってください!」


 今にもドラゴンに追いつかれるので、気が気じゃない様子の女性。

 これは初手で暴露したほうが、話が早そうだ。


「俺たちは限界突破していて、三人とも50レベル台後半です。あなたたちは手出しをしないでください。それが条件です」


「えっ……?」


 魔導士姿の女性が、鳩が豆鉄砲を食ったという顔をする。

 目をぱちくりさせていた。

 追いついてきたほかの三人も同様だ。


「え、えぇっと……」


「即断してください。その条件で構いませんか」


「は、はい」


「分かりました。俺たちがあのドラゴンの討伐を引き受けます。皆さんは下がっていてください。──行くぞ、風音、弓月」


「オッケー、大地くん」


「がってん承知の助っすよ、先輩」


 というわけで、ドラゴン討伐を引き受けた俺たち。


 間もなくやってきたスノードラゴンを、大した苦もなくボコ殴りにして、交戦開始から十秒ほどで撃破した。


 風音によるトドメの一撃で、ドラゴンの巨体が黒い靄となって消滅し、魔石が落ちる。


 俺はそれを拾い上げてから、冷気系のブレス攻撃などによって全員が受けたダメージを、治癒魔法を使って全快させた。


 ミッション達成の通知も出ていた。


───────────────────────


 ミッション『ドラゴンを4体討伐する』を達成した!

 パーティ全員が100000ポイントの経験値を獲得!


 新規ミッション『ドラゴンを10体討伐する』(獲得経験値250000)が発生!


 六槍大地が57レベルにレベルアップ!


 現在の経験値

 六槍大地……3136404/3443048(次のレベルまで:306644)

 小太刀風音……3011236/3133157(次のレベルまで:121921)

 弓月火垂……3287951/3443048(次のレベルまで:155097)


───────────────────────


 よしよし、順調だな。

 しかし次は10体か。獲得経験値は大きいけど、遠いなぁ。


 それから馬上の四人を見ると、彼らはいずれも、ぽかーんとした顔を見せていた。

 俺は女性のもとに歩み寄って、声をかける。


「終わりましたよ」


「あっ……! え、えぇっと、その……ありがとうございます、助かりました」


「どういたしまして。この魔石は俺たちがもらっていいですよね」


「は、はい。もちろんです。……それにしても、すごいですね」


 その後、彼女らも王都に向かっている途中だというので、俺たちは王都まで彼女らと同行することになったのである。



 ***



(作者より)

 本作コミカライズのコミックス1巻、12月23日(月)に発売予定です!

 発売まで1週間を切りました! よろしくお願いします!

 https://amzn.asia/d/93iKBVv

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る